「池田さん、僕が知っているだけで3つ辞めたよね」

ベイスターズの球団社長を2016年10月に退任後、池田氏はスポーツに関わる役職として日本ラグビー協会特任理事、明治大学学長特任補佐、スポーツ庁参与、Jリーグ特任理事などを務めてきたが、現在はその全てについて任期満了を含めて退任している。

「肩書き」を保ったり、得たりする環境があっても、あえて自分の意思で「名義貸しのような役職を今年で全て辞めさせてもらった」と池田氏は説明する。間野教授は、日本のスポーツ界が「モノ言う人物」にとって活躍しにくい現状を表そうと発言したとみられるが、フォーラム後に池田氏を直撃すると「他人には表面的に理解されるものですね。すでに公然にしてることなんだけどなあ・・・」と「辞めた」という言葉だけが一人歩きしている状況を受け、その真相を明かした。

「愚かでした」

池田氏は、驚きの言葉で切り出した。

「やはり、人は必ず失敗をするものですね。私の失敗は、関わるべきではない世界に関わってしまったこと。その相手を見抜くことができなかった私は本当に愚かだった。横浜DeNAベイスターズの社長を辞めた後、いろいろな世界に頼まれて関わって、それがよく分かりました。『組織を変えてください』とお願いされたので、その努力をしようとしたら、最初の約束が平気で変わる。地位、肩書きが欲しいのならいくらでも手に入ります。でも、そんなものが欲しいわけでない。やはり本質的に、合理的に、ストレートに発言し、是々非々で物事を判断する世界を私は好みます。私の役割は、なかなか前に進まない状況に陥った組織、業界に非連続的成長をもたらすこと。それができない、実は必要とされていないなら、私は不必要です。人にはそれぞれ役割があります。その役割が全うできないなら、肩書きや地位にしがみついていても、私にとっての時間の無駄になるし、その方がお互いにとっていいと思っています」

(左端)池田純氏、(右端)間野義之氏

日本ラグビー協会特任理事時代には今夏のW杯、さらにその後を盛り上げるべく秩父宮ラグビー場を「でっかいパブにする」ことを標榜。「青山ラグビーパーク化構想」をぶち上げ、改革のスタートを切った。しかし、往年のファンを呼び戻そうとして計画した同ラグビー場での人気ドラマ「スクール☆ウォーズ」の上映すら中止に追い込まれるなど、過度な忖度が内部で起こり、行動や発言が制限される結果となったことで、その地位を返上した。

昨年9月には、スポーツ庁の鈴木大地長官から「全米大学体育協会(NCAA)」を範とした、日本の大学スポーツの産業化を目指す「大学スポーツ協会(UNIVAS)」のトップ就任の打診があったが、これも「大学スポーツ業界関係者の協調性」を優先し「八方美人」な姿勢に傾いていく調整と毀誉褒貶の世界に疑問を覚え、辞退することとなった。

「スポーツの世界は特に現状に否定的な物言いをすると、煙たがられます。球団、協会、国など、いろいろな立場からスポーツを見てきましたが、常に『もっと忖度しろ』『肯定的に物を言え』などという“保身”を見せられてきました。ビジネスの世界でイノベーションを起こすのは、シリコンバレーでもそうだったように、ドンッと本質的で合理的に発言し、戦略を持って戦えるファイターです。リーダーがしっかりした大きなビジョンを示し、それに基づいてダイナミズムが働き、その結果で初めて生まれてくるのが新しい世界であり、ホンモノの協調性です。しかし、スポーツ界ではそれが受け入れられ難くて、最初にクローズドな世界の協調性が重視されがちです。大きなビジョンを示したり、目立つと、妬み嫉みに変わっていく。そんな世界で肩書きや地位だけ維持していても、お騒がせものになるだけです。変えてほしいと言われ、それを実現するのが仕事であり、変えられないと確信できてしまったら自ら潔く離れる。奪い取ってまでやりたいものなら別ですが、お願いされて引き受けたものばかりでしたし、それが当然の決断だと思います」

さらに「実際に組織を変えられた場合も、しばらくすると、みんなが傾倒して、尊重しすぎてくれるようになり、キングダム(王国)になってくる。それはそれで組織に“進化の持続力”がなくなるので、自分が決めた目標を達成したらオーナーでない以上、あるタイミングで辞めるべきだと考え、実践してきました。それが、イノベーションをミッションとする私のプロ経営者としてのモットーです。人には役割というものがあるんです」とも強調した。論理や知識による机上の空論ではなく、実際に25億円ほどの赤字があったベイスターズを5年間で黒字化し、地位にしがみつくことなく退任した池田氏だからこそ、説得力を持つ言葉といえる。

さまざまな立場を経験し実感したのは、改革を実践するにはリーダーとしてある一定の意思決定権を持てるかどうかが重要な基準になるということだという。「蛸壺の中で評価されるのではなく、社会に評価されることが重要なのです」。SSCの会長として、さいたま市と連携してスポーツによる地域活性化のパイオニアになるべく、また一つ新たな道を動き始めた池田氏。「肩書き」「しがらみ」にとらわれない改革実践家の今後が注目される。


VictorySportsNews編集部