4年前のあの奇跡の勝利の日、トンプソンが覚えている3つのシーン

――2015年のイングランド大会へは、聡明さと厳しさで知られるエディー・ジョーンズ ヘッドコーチのもと強化を進めました。

「僕は最初、エディーと話して、『2012年はオフが欲しい。その後、やりたい気持ちになったら……』と。そして、2013年秋に復帰。もう一回やりたい、楽しいと、パッションが戻っていた。エディーは賢いコーチ。多分、寝ないで勉強、分析をして、考えて、考えて、レビューして、レビューして、プランニング、プランニング……。その努力、パッションもやばい。自分のプランとスタイルには自信を持っていて、選手は彼のプランとスタイル(を実現できるよう)に頑張った」

――当時は「ヘッドスタート」と呼ばれる早朝練習も有名でした。

「僕たちタイトファイブ(前方のポジション群)のヘッドスタートは5時くらいから。そこへ行ったら、エディーはすでにトレーニングを始めている。尊敬するね。彼は高いスタンダードを求める。『新しい歴史をつくりたかったらもっと練習して、もっとレベルアップしなきゃいけない』『ワールドカップでは頑張ったけど負けた……では、だめ。絶対勝つ』。それがエディーのメッセージ。よく覚えているよ」

――練習は1日3回が当たり前でした。ニュージーランド出身者にはショッキングだったのでは?

「ニュージーランドならコーチと話して『無理!』となるけど、日本人は監督が言ったことはやる。文化が絶対にちゃう」

――そうはいっても、トンプソン選手はそのタフな練習をやり切った。

「エディーは練習で選手のタフネスを求めるね。いつも『誰がベストを出していて、出していないか』を見る。それに対して、僕はチャレンジしていた。常にノーブレイクで、ベストを出して、『エディーに負けない!』と。そこがモチベーションだった」

――9月19日、ブライトンコミュニティースタジアム。イングランド大会の初戦で、南アフリカ代表戦を34-32というスコアで下しました。

「覚えているシーンの1つ目は後半32分。相手がペナルティーキックをもらったとき、ラインアウトではなくペナルティーゴールを選んだ。南アフリカ代表はこの日ラインアウトからのモール(複数名が固まって押すプレー)が強かったのに、心配になっていたのか(ほぼ確実に3得点できる)ペナルティーゴールを。(29-32と勝ち越されたが)『相手はパニックだ』と私たちは元気になった。2つ目は、最後のカーン(・ヘスケス)の逆転トライ……」

――その攻撃の起点となったスクラムでは、あまりうまくボールを出せなかった。実際に組んでいた選手は「最後のスクラムだけちょっとうまくいかなかった」と証言しています。「大会後、リプレー映像を見てもひやっとする」とも。

「その前のスクラムは上手に組んでいて、ここでは相手がイエローカードで1人少ないなか。自信を持っていたけど、(日本代表側の)テクニック、タイミングが完璧じゃなかった。ただ、リアクション、リカバリーは完璧だった」

――そして、3つ目に覚えているシーンは……。

「試合が終わった後、メインスタンドで見ていた僕の奥さん、お父さん、お母さん、息子、娘がグラウンドのところまで下りてきて、僕と抱き合って……。素晴らしいメモリーね。絶対、忘れない」

――その日は、興奮して眠れなかったのでは?

「最初の30分は携帯が『ワーン、ワーン』と鳴り続けていてやばかったから、すぐにオフ。皆と少しビールを飲んで、近くにあった家族の泊まるホテルへ。奥さんたちは皆、寝ていて、僕も息子のベッドの隣で寝たけど、寝られなかった。でも、その翌日から練習があったから……」

(C)Getty Images

奥さんが口にした「やりたいの?」の一言

――23日、グロスター・キングスホルムスタジアムではスコットランド代表に10-42で敗戦。しかし、その後は2連勝します。トンプソン選手はこの大会限りで代表引退を表明しましたが、いま、サンウルブズで日本代表復帰を目指しています。

「去年6月、日本代表とイタリア代表の試合を奥さんとテレビで見ていました。英語で『集中!』『頑張れ!』と言っていたら、奥さんは『やりたいの?』と。『やりたいよ! 友達が相手とぶつかっている』『じゃあ、何でやらない? どうぞ』『いやぁ、僕はもう引退したから。見るだけ』『もし本当にやりたいのなら、どうぞ』って。その後、ブラウニー、ジェイミーと少し話して、考えて……」

――現日本代表ではジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ、「ブラウニー」ことトニー・ブラウン アタックコーチが指導しています。トンプソン選手は、ブラウンさんと旧知の仲でした。

「ブラウニーは昔から仲いいから、家族や友達の話もしたけど、『いまの代表チームはどう?』とも。それで、サンウルブズでプレーするのを薦められた。本当は去年だけで引退するつもりだったけど、いまはもうちょっとやりたい感じ。いまのジャパンにはいいロックがたくさんいるけど、僕がもしサンウルブズでいいプレーができたら、いいバックアップオプションになれるね。でも、いまは、サンウルブズに集中。先のことを考えると、目の前の試合でベストを出せない。だから僕は、毎週、毎週のサンウルブズの試合に集中する。このチームはいい雰囲気。チームメイトのためにプレーをする感じが好きね」

――もしワールドカップに出られたら、どんなプレーをしたいですか。

「……考えてなかった! 僕はサンウルブズでいいプレーをしたい。いまは、サンウルブズで毎週、毎週、いいプレーをする。いまジャパンを考えすぎたら、サンウルブズを忘れちゃう」

<了>

(C)VICTORY

[PROFILE]
トンプソン ルーク
ポジション:ロック
1981年4月16日生まれ、ニュージーランド・クライストチャーチ出身。現所属は、近鉄ライナーズ(トップリーグ)、および、サンウルブズ(スーパーラグビー)。2010年7月、日本国籍を取得。ワールドカップ3大会連続出場。2015年イングランド大会での躍進に大きく貢献し、その活躍は多くのファン・関係者から絶賛された。日本代表キャップ64(2018年11月時点)。


VictorySportsNews編集部