昨シーズンのCS争いをしている最中、プロ初打席で広島の岡田からホームランを放ち鮮烈なデビューを果たした、清宮世代を引っ張る一人だ。青木らが早くからキャンプに同行させるなど、大きな期待を背負って開幕スタメン、6番サードで2019年シーズンを迎えた。背番号55番、燕のゴジラがこんなにも活躍することを誰が予想しただろうか。
9月4日の広島戦で、逆転の32号3ランホームランを放ち、清原和博(元西武)が持つ10代の最年少記録を超えた。

シーズン序盤は1軍ピッチャーのストレートに反応できずに打てない時期もあったとは言え、9月4日時点で、ホームラン32本(リーグ4位)、打点90(リーグ1位)は、19歳とは思えない成績であることは間違いない。
10代では1986年の清原和博(当時西武)を超える最多本塁打で、90打点は高卒2年目以内では53年の西鉄・中西太を抜く最多打点記録だ。打点王やホームラン王も射程圏内だ。セ・リーグ最下位のスワローズとしては、小川監督が残り19試合の全試合出場を明言している通り、村上をこれからのスワローズの主砲、そして球界の宝として育てていくことは明らかだ。ホームラン数では清原を抜いた村上は、球界を代表する、記憶に残る選手になれるのであろうか。

打率が.230、三振に関しては歴代記録に名を連ねるペースではあり、守備も含めるとまだまだ荒削りなものの、リーグ6位の四球数、昨年ファームでは16盗塁など、すべての面で伸びしろがあると言える。スワローズファンにとっては期待しかできない選手だ。この8月は月間11本と、本来であれば夏場で体力が落ち若い選手には厳しい時期にも関わらず、月間MVP級の働きだ。

新人王も阪神の近本(.267 133安打、27盗塁 ※9月4日現在)と争っているが、インパクトで言うと大方の予想は村上だ。
新人王という賞はTV、新聞、通信社に所属しており5年以上プロ野球を担当している記者が、選考資格をもつ選手のうち1名の名前を投票する記者間投票のため、記者間の評価にバラつきがあり、過去10年で優勝チームから新人王が出たケースが3人*しかおらず、野手に関しては巨人の松本哲也(2009年)のみだ。Bクラスから新人王が出ているケースも多いなどの議論もあるが、新人でプロ野球に適応していくことは本当に難しい。
*2013年則本(楽天)、2016年高梨(日ハム※現ヤクルト)

その中で清原以来の村上の記録は、偉大な記録であるのだ。

ところが、かつてに比べるとプロ野球が地上波で放映されなくなったこともあり、一般的な知名度が低下しているという前提はありつつも、村上の知名度はそれほど高くはない。なぜだろうか。いまだかつてタイトル争いに名を連ねる10代野手が球界にいたであろうか。
過去20年の10代のプロ野球選手の活躍を挙げると、名だたる選手があがってくる。
・松坂大輔(西武 ※現中日/1999年):ルーキーイヤーに16勝で最多勝
・田中将大(楽天 ※現NYヤンキース/2007年):ルーキーイヤー11勝で新人王
・藤浪晋太郎(阪神/2013年):ルーキーイヤーに10勝
・松井裕樹(楽天/2015年):2年目19歳で3勝33セーブ。楽天の守護神に。

タイトル争いに加わる選手だと数えるくらいしかいない。
10代の野手に至っては、
・清原和博(元西武/1986年):.304 31本塁打 78打点で新人王
までさかのぼり、甲子園のスターとして、別格の記録は多くの人の記憶にも残ってきた。

(参考)村上と清原の比較

近年10代で大活躍した野手を強いてあげるとすれば、目下首位打者の森友哉(西武)くらいではないだろうか。
・森友哉(西武/2015年)2年目 .287 17本 68点

10代野手、ひいては高卒2年目の成績の中でも清原に並びうる驚くべき成績を叩き出している村上だが、いまいち知名度がないのにはいくつか理由がありそうだ。

久保建英、池江璃花子、張本智和、平野美宇、伊藤美誠といった10代のアスリートの活躍は連日様々なメディアで取り上げられる一方で、村上の活躍は報道の数が少ない。

プロ野球は、連日のニュースのスポーツコーナーや、番記者がいる新聞やWEBニュースなど、安定的なメディア露出が約束された、日本で最もスポーツの興行として成功を収めている競技である。

ただ、連日勝ち負けが繰り広げられるプロ野球の中で、勝者の球団が多く取り上げられる。その事に何ら疑問はないが、登板数が5~7日に一度の投手(先発)に比べると野手は連日出場している分、よほどの殊勲賞を立てない限りTV露出における主役にはなれないのだ。
10代の先発投手であれば、打ち込まれて敗戦投手になったことでもニュースにはなるが、野手の全打席三振はニュースにならない。

そして、その状況に加えチームの成績が拍車をかけている。敗戦チームの報道は、優勝やCS争いをしているチームに比べると、シーズンが進むにつれて必然的に減っていくため、順位争いに関わってこないチームにおいては、よほどの殊勲打を打たない限りTVや新聞、ネットでの報道も減ってくる。勝利打点が多いはずの村上の活躍も他球団のニュースに埋もれてしまうのだ。

加えて地上波での生放送が減ったこと、さらにスワローズに関しては、ホームの中継はプロ野球ファンの契約数を増やしているDAZNの配信対象からも2019年シーズンは外れていることがあり、一般のスポーツ好きが19歳・村上の打席に立った際のオーラや描く放物線を映像で見る機会はないに等しい。

小川監督が、残り17試合しかない公式戦でのスタメン起用を公言している中、清原の10代最多ホームランの記録を抜き去り、せめてタイトルだけでもと、タイトル争い中の村上にかかるスワローズファンの期待は大きい。

山田哲人のシーズン盗塁成功率100%での史上初の盗塁王や、山田とバレンティンとの30発トリオでのホームラン王争いといった個人タイトルの話題では事欠かないだけに、村上の史上最年少で10代では初となるホームラン王や打点王という球界を明るくする話題で、スワローズファンだけでなく、すべてのスポーツファンに野球界の明るい未来を示してほしい。

すべてのスポーツ好きに言いたい。
球界の大打者になるであろう村上宗隆の勇姿を目に焼き付けてほしい。


VictorySportsNews編集部