首都のエネルギーを活かし、世界に誇れるクラブへ

ー現役時代には、どのような形でステークホルダーと接点を持っていましたか?

Jリーグは、クラブと地域の関係性を重要視していますし、そのなかで各クラブの色が出ると思っています。現役時代は小学校の訪問や地域の商店街の巡回をしたり、練習場に来ていただいたファン・サポーターの方と接する機会がありました。サッカーを全く知らなくても、同じ地域だからこそつながれた方もたくさんいます。

ー現在は当時とどのような変化が見られますか?

応援してくださる方々への感謝や、選手が身近でふれあう機会を重ねて来た過程で、やるべきことがより具体化されたというか。世の中にこういった方がいるから、自分たちはこうアクションができる。一緒に新しい形を生み出せるようになってきていますし、皆さんにももっとクラブを活用していただきたいですね。

ー2018年からクラブコミュニケーターに就任されましたが、当初はクラブをどのように変えていきたいと考えていましたか?

全ての関係性を密にすることです。FC東京では約16年間、選手としてピッチで戦ってきてましたが、自分一人ではサッカーはできませんでした。怪我が多いなかでも力を振り絞ってプレーできたのは、応援してくださる方々のおかげだと思っています。それを実感している僕が、クラブとステークホルダーとの関係性をもっと密にできれば、クラブや選手はさらに成長できます。

ー東京という大都市において、クラブはどのような存在を目指しているのでしょうか。

東京は日本の首都なので、多くの娯楽があります。休日には様々な選択肢があるなかでサッカーを選択していただける数は、まだまだ少ない。現役時代は魅力的なサッカーをすることで集客を目指していましたが、今はサッカーを中心とした取り組みを通じて、新しい文化を生み出せるのではないかと思っています。

新しい文化を生み出せば、それを発信できるエネルギーは東京にあります。そして、日本だけでなく、アジアや世界に誇れるようなクラブになっていきたいです。

(C)Unlim

ーその道の途中で、どのような難しさを感じていますか?

一番難しいのは、スタジアムに来ていただくことです。スタジアムには非日常的な空間があって、それを味わうために日常を頑張っているファン・サポーターの方々が多くいます。

ただ、初めての方からすれば、スタジアムに足を運ぶのは中々ハードルが高いと思うんです。FC東京では、スタジアムの「ワンダーランド化」と銘打って、観客の方にサッカー以外のコンテンツも楽しんでいただけるように取り組んでいます。ただ、楽しんでいただくためには、スタジアムに来るまでのハードルをクリアしないといけないんですよね。

選手に“最後のスイッチ”を押してもらうために

ークラブコミュニケーターとして活動するなか、行政とはどのような関わりを持っていますか?

東京五輪・パラリンピックもひかえている中で、調布市や味の素スタジアムの方々とは、スポーツを文化にしたいという話をしました。僕個人やクラブのつながりを活かして、ブラインドサッカーを身近に感じていただく取り組みも行いました。もちろん活動の中心にはサッカーやスポーツがありますが、そこから健常者と障がい者の共生社会を成熟させたり、お互いをリスペクトし合うきっかけが作れれば良いと思っています。

ー2020年2月には、少年院でのサッカー教室に参加しました。現場ではどのようなことを感じましたか?

彼らは自分たちがなぜその場にいるのか、常に自問自答しながら生活していると思うんです。そんなときにサッカーがきっかけとなって、仲間と一緒に遊んだ楽しさや、何かに夢中になって打ち込んだことを思い出すのではないかと。

成功体験を通して、仲間との関係性や自分の存在意義が感じられますし、社会だって同じですよね。やはり人は評価されたいですし、仲間との関係が良い状態であればあるほど、生きる意味を見出せます。僕はサッカーを通じてそれを得てきたので、同じようにサッカーを通じて伝えたいと考えていました。

ークラブとしては、小児病棟への訪問も積極的に行っていますね。

選手の時から参加していましたが、昨年はクラブコミュニケーターとして、選手たちとともに平日に子どもたちとふれあいました。その週はちょうどJ1リーグがあったので、週末にも訪問して、サッカー教室とパブリックビューイングを行いました。数日前に訪問した選手も試合に出ていたので、子どもたちは親近感を持って応援してくれていましたね。チームとしても素晴らしい試合をしてくれたので、みんなが笑顔になれて良かったです。また今年は新たなチャレンジとしてテレビ会議システムを活用しリモートでの病院訪問を行いました。

僕が伝えたことは、選手は練習での失敗を乗り越えながら、このピッチに立っているということです。勝つために選手は自分の持ってるものを出し尽くさないと結果はついてきません。この試合も、試合後にピッチへ倒れ込む選手が多かったですが、積み上げたものを出し尽くすからこそ結果が出る。子どもたちにも同じように、自分の置かれた状況から逃げず、全力で立ち向かってほしいと伝えました。

(C)Unlim

ーファン・サポーターもうずうずしていると思います。

東日本大震災の時もそうだったのではないでしょうか。あの時はJ2で戦っていて、1年でJ1に戻らなければいけないという危機感を抱えながら、震災でリーグは延期に。クラブとしては、とにかくサッカーを通じて人々に元気を与えたいと考えていて、エネルギーに満ち溢れていました。

良い時もあればよくない時もあります。ただ、よくない時があるからこそ成長できると思っています。応援してくださる方々とは、全ての時間を共有していきたいですし、より笑顔になれる時間が増えれば嬉しいです。

(あとがき)「投げ銭」サービスの導入について
FC東京が、今話題の「投げ銭」サービスに相当する「Unlim」を導入して、ファン・サポーターからの支援金を募るそうだ。集まった支援金は、文中でも言及のあった、地域貢献活動において活用される。

小田菜南子

著者プロフィール 小田菜南子