地元が直面した豪雨災害と目の当たりにした光景
―これまで個人として取り組んできたチャリティー活動を始めた動機を教えてください。
「全国で、いろんな災害が起こるなかで自分自身は何も動いていなかった。地元・広島で豪雨災害が起きたり、選手としてキャリアをスタートさせた大分県の津久見市が台風によって甚大な被害に遭った。自分の身近な人がそうした被害に遭ったときに、自分も何か行動を起こしたいと思ったのがきっかけです」
―実際に、豪雨災害が起きた直後に広島にも帰省しましたが、目の当たりにした実状はどうでしたか?
「言葉にならないというか、どう言葉を掛けていいのか分からなかった。小学校から一緒にサッカーをやってきた先輩の家が流されて家全体がひっくり返っていた。土砂をかき出す作業だったり、微々たることでしか貢献できなかった。それが情けなかった。そして、サッカー選手である自分にも何かできることがあるんじゃないかという気持ちが芽生えた。それは、実際に足を運んだからこそ、いろんなことを感じられたと思う」
―その後、高陽地区のサッカー選手が手を取り合って行動に移した。その思いを聞かせてください。
「地元が、もともとサッカーが盛んな地区で多くのJリーガーを輩出している地域だった。そういう選手たちとコミュニケーションを取って、何とか地元を盛り上げる、助けるために自分たちが動かないといけないとなった。先輩が中心となって、そうした発信をしてくれたので僕もそれに賛同して、みんなで何かできたらいいなと思って、一つ形にできたことは良かったと思う」
―復興支援活動は継続が一番難しいと思いますが
「たとえば募金活動をしても、実際にどの地域に、どれだけ配られるのか見えない部分もある。実際の声を聞くと、これだけやっても、たったこれだけかと思ってしまう。助けや、住む家を必要としている人は、まだまだたくさんいるのに、それができていない悔しさもあります」
新型コロナウイルスの影響を受けて
―新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間中に感じたこと、思ったことはありますか?
「目標がなく、先が見えないなかでのトレーニングは、一人のスポーツ選手としても難しさがありました。リーグがこれから再開しますが、しばらくは無観客試合が続きます。それを受けて、ファン、サポーターの皆さんあってのJリーグだとあらためて感じました。これまでも思ってきたことですが、それをより強く思うようになりました。僕たちのプレーを間近で見てもらって、スタジアムに響く歓声や悲鳴で、はじめて熱くなれたり、楽しめたり、力にすることができていたのだ、と。この期間中に、いろいろなことを考えましたが、そうしたことを深く考えるようになりました」
―自粛期間中はSNSを活用し、新たにファン、サポーターとのつながる機会も増えましたが?
「新たなファンサービスのカタチとして、これからの可能性が見えたと思っています。今後はそうしたカタチで、イベントなども増えてくるでしょうし、ファン、サポーターにとっても新たなサービスとして楽しんでもらえるのかな、と。自分自身はSNSを積極的に活用していたわけではないので初めは少し戸惑うこともあったけど、実際にリモートイベントなどに参加してみて良さも理解できました。今後、ファンサービスのやり方も変わっていくと思うし、さまざまなカタチでファン、サポーターとつながりが持てることはいいことだと思います」
―そんななかで、スポーツギフティングサービスという、ファン、サポーターの方々とSNS以外の形で繋がるような取組もはじめられたわけですが、どのように考えられていますか?
「仕組みを聞いたときに、自分の周りで助けを必要としている人たちに向けて活用できる新しいサービスだと思いました。このサービスを使って、社会貢献や、地元チームへの還元をしていきたいと考えました。自分のためにというよりも、まずは周りのための活動の費用に充てたりしたいと思っています」
―先程話していた復興支援活動に繋がっていきそうですね。
「個人としても、こうしたサービスを使って、貢献できる仕組みがあることは本当に大きいことです。こうしたサービスがたくさんあったほうが一日でも早い復興の助けになると思っています。もっともっとこうしたサービスが広がって、助けを必要としている人の手に渡る金額が少しでも多くなってほしいと考えています」
―善意を集めて、感謝の思いを返していくことは応援してくれる人たちとの絆をより深めることにもなりますね。
「スポーツ選手としてはありがたいですね。新たなコミュニティーも生まれると思いますし、そうしたつながりを大切にしていきたいと思います。まず、僕自身がサッカーを楽しんでいる姿を見せていきたいです。昨年、ラグビーW杯を見てスポーツの力をあらためて感じることができました。スポーツによって与えられる力は大きいと思うので、そういった影響を周りに与えられるようにしたいと思います」
Jリーグ再開に向けて
―そして、7月4日からJ1リーグが再開します。
「素直に、再開できることに安堵しています。無観客だったり、試合方式の変更など、まだまだ課題もあります。それでも、Jリーグとクラブが協力して前に進んでいくと決まりました。もちろん、僕たち選手にも不安はあります。新型コロナウイルスと共存していく社会のなかで、リーグとクラブが話し合って最善の策を練ってきました。PCR検査だったり、練習や試合のなかでも新たな決まり事が増えました。これから日本のサッカー界が手を取り合い、この状況を乗り越えていく姿を、多くの人たちに見せていきたいと思います」
―Jリーグ再開に向けて賛否の声もあると思います。
「もちろん、僕たち選手が優先的に検査を受けられたりすることで、それをよく思わない人もいるかもしれません。ただ、準備期間が短いことで、けがのリスクも考えられるし、選手もコロナ禍で感染のリスクを背負ったなかでプレーをしなければいけません。単純に、サッカーができてうれしいという一方で、僕たち選手たちにはリスクもある中で再び前に進むと決めた覚悟があることを理解してほしいと思っています」
―海外でも懸念されていますが、一度離れてしまった観客が再びスタジアムに戻ってこない可能性もあります。
「それは、しかたがないことかもしれません。ただ、僕たちは、一日でも早くJリーグがある日常を取り戻して、再び目を向けてくれたときにそこが楽しい場所だと思ってもらえるようにしなければいけません。面白いサッカーや、ひたむきな姿を見せていくことが僕たちにできることだと思います。スポーツを通して与えられるものは、たくさんあります。そうしたものを感じ取ってもらえるように、僕たちは最大の準備を続けていきたいと思います」
森重真人のこれまでとこれから。節目の年に語る地元への思いとファンへの思い(前編)
物心がつく前から転がるボールに胸を焦がしてきた。生まれ育った広島、プロのキャリアをスタートさせた大分、そして東京。プロ15年目の森重真人は歩んできた道で、いつも応援してくれる人たちの思いを近くに感じていた。寡黙を演じてきた“モリゲ”が、まっすぐで、これまで語ることの少なかった素直な気持ちを口にする。33歳になったいま、サッカー選手としての本音を語った。(取材・文=馬場康平)*このインタビューは2月のJ中断前に行ったものです。
森重選手へのギフティング(金銭的支援)はこちらから行えます
(C)Unlim