決めた母体は団体球技のリーグで構成する日本トップリーグ連携機構(JTL)。会長を川淵三郎氏が務める。83歳の御大はJリーグ生みの親として知られるが、最近は新型コロナを巡る発言などピント外れと捉えられる言動が目につき、〝老害〟の2文字も浮かび上がる。

▽大敵

 観客を入れない試合の呼称命名を提案した中心は川淵氏だった。6月3日に募集を開始する際には、JTLのホームページ上で「川淵会長からスポーツを愛する皆さまへのご相談」と銘打った上で、無観客について「プロスポーツ界では懲罰を意味しており、世界を見渡してもあまり前向きな名前がついておりません」と言い切り、代わりとなる名称を考えようと呼び掛けた。

 JTLにはJリーグの他、バレーボールのVリーグやバスケットボールのBリーグ、ラグビーのトップリーグなど12リーグが加盟している。SNS上で約9200件の応募があり、「Stay Home Game」「キズナマッチ(絆マッチ)」など他の最終候補の中から、最終的には加盟リーグと話し合って選定したという。理由について「物理的には離れていても選手とファンのつながりを示すことができる」「リモートは、昨今社会に浸透している言葉のため、説明が少なくとも理解できる言葉のため」などと説明した。

 ただ、そもそもリモートの試合といえば、遠く離れている人同士のオンラインゲームなどが想像され、プレーヤー同士が離れている状態を指すのが一般的だ。JTLが選んだネーミングは、競技者とファンが一緒にいられないことをポイントの一つとして取り上げたものの、リモートマッチの言葉からは無観客試合をイメージしづらい。実際、6月27日にJ2とJ3が行われてJリーグが約4カ月ぶりに戻った時、「リモートマッチ」や「リモートJリーグ」の言葉がメディアなどを大きく賑わすことはなかった。今後は他のリーグ側も使用していくと予想されるが、人々に親しまれるという観点から、分かりにくさは大敵となる。

▽プレ金

 言葉が実態に伴わず、さらには統括団体がピックアップしたことで押しつけがましさも拭い切れない。同様の事例に「プレミアムフライデー(プレ金)」を挙げることができる。政府や経済団体が音頭を取り、月末の金曜日の仕事を早く切り上げて消費拡大につなげようとした取り組みだ。2017年2月に導入されたが1年もたたないうちに尻すぼみになって、今や死語となっている。

 当初は安倍晋三首相が東京・谷中で座禅を組んだのをはじめ、他の政治家も料理教室に参加したり、財界のお偉方はショッピングに行ったりと施策の推進を積極的にアピール。夕方からビールを酌み交わすサラリーマンたちの姿も見受けられた。ただ、月末に午後3時に仕事を終わらせることは現実の労働現場とはかけ離れた面があり、中小企業をはじめ賛同した組織は限定的だった。「楽しめるのはプレミアムな人たちだけ」「月末は忙しい。遠い世界の話だ」など制度への反発が相次いだ。

 リモートマッチについて、JTLは略称を「リモマ」、応援するファンのことを「リモーター」と定めた。新型コロナウイルス感染防止策として、会社に行かずに自宅などで仕事をする「リモートワーク」、知人とオンラインで映像をつなぎ、自宅の端末前でお酒を飲む「リモート飲み会」などは本来の言語の意味合いが色濃く出ており、すっかり定着した感がある。対照的に、リモートマッチには早くもプレミアムフライデーの二の舞の気配が漂う。

▽体制派

 JTLの川淵会長は元サッカー日本代表で、日本サッカー協会会長などを歴任した。プロリーグであるJリーグ発足に尽力した後には、従来のしがらみを打ち破って新たなものをつくり上げたことで称賛を浴びた。その後、国内リーグが二つに分裂していた男子バスケットボール界を強力なリーダーシップで改革。2016年にBリーグを開幕させたことでも手腕を発揮した。

 打って変わって、ここに来て首をかしげたくなるような言動が続いている。例えば2月中旬。新型コロナウイルスに関し、「ウイルスは湿気や暑さに弱いと聞いていて、日本には梅雨というウイルスをやっつける最高の季節がある」と言い放ち、海外にもメディアを通じて広まることになった。結果はどうか。梅雨まっただ中の6月下旬になって東京都内の感染者が再び増加傾向に転じるなど、とてもではないが「やっつける」とは形容できない。また、同じ2月、スポーツイベントを取りやめる動きが相次いだことに「感染を防ぐために人との接触をできるだけ避ける。そのためにイベントの開催は中止する…という考え方はもっともだけど安易すぎない?」と疑問を呈した。

 ウイルスの脅威を過小評価し、五輪開催のムードを醸成させようとする印象を受ける。川淵氏に起きた一つの大きなトピックとして、昨年12月に東京五輪・パラリンピック選手村の村長に任命されたことがある。国内外に向けた顔役となる存在に「人生最後の大役だ」などと喜びのコメントをしていた。五輪での名誉職に就くことは体制派にどっぷりと身を置くことにつながり、権力を握る立場での振る舞いに偏りかねない。リモートマッチ選定にみる時代を読む力の揺らぎ。川淵氏には大きな功績があるだけに、「立場が人を変える」のフレーズを悪い意味で使われるとしたら残念だ。


VictorySportsNews編集部