2019年ドラフト会議で、阪神タイガースが甲子園で活躍した高校生を1位から5位まで指名して話題を集めた。

 ドラフト1位は、最速154キロの剛腕投手・西純矢(創志学園)。2位は2019年夏の甲子園で優勝を飾った履正社の四番打者・井上広大、3位が甲子園に3度出場を誇るサウスポー・及川雅貴(横浜)。U-18日本代表でクリーンナップにも座った遠藤成(東海大学付属相模)が4位、2019年夏の甲子園でベスト4まで進んだ中京学院大中京の捕手・藤田健斗が5位で指名を受けた。

 プロ1年目の公式戦が始まると、ルーキーたちはすぐに存在感をアピールした。二軍戦ではあるが、西が先発登板して好投、井上は開幕から4番を任されホームランも放った。3年後、いや、今年中に彼らが一軍デビューを飾る可能性があるかもしれない。

■ファイターズの高卒2年目選手たち

 このタイガースのように、甲子園のスターを4人も指名したのが、2018年の北海道日本ハムファイターズだった。

 1位指名の根尾昴(大阪桐蔭)を抽選で逃すと、その夏の甲子園で準優勝した金足農業の吉田輝星を“外れ1位”で獲得。2017年夏の甲子園優勝に貢献した花咲徳栄の強打者・野村佑希を2位で指名した。4位の万波中世(横浜)は、190センチ90キロで強肩強打を誇る大型外野手。5位の柿木蓮は大阪桐蔭で背番号1を背負い、春夏制覇に貢献した最速151キロ右腕だ。

 入団当初もっとも騒がれたのはドラフト1位の吉田だが、甲子園での実績では、3度も日本一に輝いた柿木のほうがはるかに上だ。グラウンドでも、野球を離れても、お互いの動向が気になったはずだ。ルーキーイヤーの2019年は、二軍で、吉田が2勝6敗、防御率4・35、柿木が2勝4敗、防御率8・24という成績に加え吉田が6月に一軍初先発を果たし、初勝利を飾った。入団に際して「誰にも負けたくない」と語った柿木が先に一軍で勝利をおさめた吉田を意識しないはずはない。

 サードの野村、外野手の万波はポジションが違うものの、同じ右打ちの強打者だ。二軍で75試合に出場した野村は打率.245、5本塁打、32打点という成績を残したものの、股関節亜脱臼のため、8月末に戦線離脱することになった。90試合出場の万波は、打率.238ながら、14本塁打、42打点をマークし、大器の片りんを見せた。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大幅に開幕が遅れた2020年。ファイターズの一軍メンバーに野村が名を連ねた。

 6月19日の埼玉西武ライオンズとの開幕戦で、一軍デビューを果たし、25日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦で初ヒットを記録。7月2日の福岡ソフトバンクホークス戦では初ホームランを叩き込み、サヨナラヒットも放っている。

 打率は2割そこそこで、まだレギュラーをつかんではいないが、そのポテンシャルと勝負強さは誰もが認めている。本人は「力不足はわかっている。まず自分のできることをしっかりとやっていく」と謙虚に語る。彼の活躍が、2017年ドラフト1位で入団しながら伸び悩む清宮幸太郎や、同期3人の刺激となったのは間違いない。

 野村は開幕から13試合に出場し、2本塁打、8打点をマークしたが、7月7日の試合で右手小指を骨折。戦列から離脱することになった。これからというときのケガは残念だが、これも肥やしにしてほしい。レベルの高い一軍の投手と対戦した経験は復帰したあとに活きてくるはずだ。

■かつての甲子園のスターの元で

 高卒2年目のこの4人は数年後のファイターズの屋台骨を支えるレギュラーになることが期待されている。だが、素質のある選手を集めて競わせれば育つというわけではない。まだまだ欠点の多い若者を成長させるためには、経験のある指導者の存在が欠かせない。

 現在、ファイターズの二軍監督をつとめるのは、1980年夏の甲子園で、一年生ながら早稲田実業の準優勝に貢献した荒木大輔だ。高校時代に甲子園で通算12勝を挙げ、1982年ドラフト1位でヤクルトスワローズに入団した荒木は、甲子園のスターの苦悩を知り尽くしている。
荒木は二軍監督の仕事についてこう言う。

「二軍監督は、考えること、やることが山ほどある。チームが勝つことも大事なんだけど、選手にいろいろなことを気づかせてあげたい。育成の部分のほうが大きいですよ。もちろん一軍は勝利優先だし成績重視だけど、二軍はそれだけじゃない。結果に対する喜びや後悔の中身がちょっと違うかもしれない」

 かつて日本中に“大ちゃんフィーバー”を起こした荒木監督に見守られながら、甲子園を沸かせた男たちが日々成長を続けている。

「若い選手とは年齢差があって、親子以上に離れている。最近の若い選手はいい子が多いと感じます。だから、話をしたらきちんと聞いてくれるし、すぐにやろうとする。そういう意味ではムチャクチャかわいいですよ」

 どれだけ才能があっても、簡単にレギュラーをつかめるほど、プロ野球は甘い世界ではない。故障もあれば、スランプも、ライバルの台頭もある。失敗や不運を糧に、もがきながら前進する若手たちが2020年のプロ野球を面白くするはずだ。


元永知宏

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年の時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。出版社勤務を経て、スポーツライターに。 著書に『期待はずれのドラフト1位』『敗北を力に!』『レギュラーになれないきみへ』(岩波ジュニア新書)、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社+α文庫)、『荒木大輔のいた1980年の甲子園』『近鉄魂とはなんだったのか?』(集英社)、『補欠の力』(ぴあ)などがある。 愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(愛媛新聞社)の編集長をつとめている。