ただ、逆に言うと緊急事態宣言発令中でも6~7割のゴルファーがゴルフ場でのプレーを自粛しなかったことに、ゴルフというスポーツの底力を感じた。ゴルフ場や屋外ゴルフ練習場は休業要請施設ではなかったにもかかわらず、ゴルフは不要不急の外出なのかといった視点から苦戦を強いられた。都心から至近の屋外ゴルフ練習場はゴルファーが密集しているかのように報道されたことで苦情が殺到し、臨時休業を余儀なくされた。

ところが、緊急事態宣言解除後にゴルファーの声を聞くと、「ステイホームと言われたので、ホームコース(メンバーコース)にずっと行っていました」と口にする人が何人かいた。また、緊急事態宣言発令中はスループレーを推奨するゴルフ場が多かったこともあり、「普段よりも進行がスムーズで、早い時間にプレーが終わるから帰り道も混まない。時間が効率的に使えたので、むしろラウンドの回数が増えた」という人もいた。

■緊急事態宣言による変化

緊急事態宣言発令後と解除後でゴルファーの動きにどのような変化があったのか。首都圏のあるゴルフ場に話を聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「4月7日に緊急事態宣言が発令された後、社用ゴルフやコンペが皆無になり、ファミリー単位でのラウンドやアスリートゴルファーが増えました。コロナ対策で設定した一人プレー枠も人気でした。シニア層は激減しました。一方、5月25日に緊急事態宣言が解除された後はシニア層が増え、ファミリーゴルフは減って、以前に近い客層になりました」

ゴルフというのは不思議なスポーツで、本来は自然の中でゆったりと時間を過ごすレジャー的要素が強いはずなのに、社用ゴルフという言葉があるようにビジネスにおける社交場という側面もある。4~6月の春のゴルフシーズンと、9~11月の秋のゴルフシーズンは、毎週土日のどちらかに仕事関連のラウンドの予定が入っているビジネスマンは多い。だが、今年に関しては新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化してきた3月の時点で、仕事関連のラウンドはすべてキャンセルになったようだ。

万が一、自分が新型コロナウイルスに感染していた場合、同伴プレーヤーは濃厚接触者と判断される可能性が高い。そうなると、濃厚接触者は14日間の健康状態観察を余儀なくされる。仕事関連の相手にそのようなリスクを負わせるわけにはいかない。

そのぶん、ファミリーゴルフやホームコースのメンバー仲間とのプレーが相対的に増えたということだろう。一人プレー枠が人気だったのはホームコースを持たないゴルファーに支持された可能性が高い。

■密を避けられる場所

一方で、緊急事態宣言が解除されたからといって、仕事関連のラウンドが通常に戻ったかというと、まったくそんなことはない。シニア層が増えたというのは、ゴルフに行きたくても家族の反対で外出を自粛していたゴルファーがコースに戻ってきたというだけの話で、社用ゴルフはどこの会社も今なお自粛中だ。そして7月以降は新型コロナウイルス感染者数が再び増え始めているため、ゴルフ場業界にとって楽観視できる状況ではない。

ただ、新型コロナウイルスの感染状況を見ると、ゴルフ場が感染場所と特定できるケースはほとんど見られない。もちろん皆無とは言えないが、ゴルフ場は屋外の広大な敷地に展開しているので、密閉と密集は避けることができる。あとは密接さえ避ければ安全にプレーできるはずだ。そのことを理解している人はゴルフ場に戻ってきており、プライベートゴルフを楽しむ多くのゴルファーでにぎわっているコースもあるようだ。

8月は例年、社用ゴルフの比率が減り、プライベートゴルフの比率が増える。そして、お盆期間は海外旅行者数と国内ゴルフ場利用者数の間に相関関係が見られる。今年は海外旅行者数がほぼ皆無になるだろうから、国内ゴルフ場利用者数が大幅に増えても不思議はない。お盆期間中の帰省をめぐっても、県をまたぐ移動に対して慎重な姿勢をうながす論調があるため、帰省を控える人は近隣のゴルフ場に行く機会が増えるかもしれない。

そのことに対して「こんな時期にゴルフなんてけしからん」と思う人もいるだろうが、ゴルフ場は感染対策をしっかり施しているし、ゴルファーとしてもオフィスに通勤したり仕事が終わってから飲みに行ったりするより感染リスクがはるかに少ないからゴルフ場に向かうのである。

ゴルフというスポーツはプレーをしたことがない人のほうが圧倒的に多く、金銭的に余裕がある人が楽しんでいる印象が強いため、このような状況下では強い風当たりを受ける。だが、新型コロナウイルスというやっかいな敵に直面し、感染拡大防止と経済活動を両立させるという難しい課題を解決するうえで、ゴルフは一つの効果的な方法になるような気がする。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。