間合い

 7本目のホームランはいつも以上に注目される状況で飛び出した。スタメン打者の9人全員が左打ちだったのだ。レイズの公式サイトによると、少なくとも1901年以降の大リーグでは初の出来事。先発が右投手だったことへの対策で、筒香は「6番・三塁」で名を連ねた。

 状況は一変。レッドソックスの先発投手が1回で降板し、次に左腕がマウンドに立った。左バッターは左投手を苦にしやすいというのは、野球界の定説ともいえる。試合終盤で勝負を左右するような場面で左の強打者が打席に入る場合、1アウトを取るためだけに左腕をマウンドに上げることもある。その点、筒香はさほど苦手にしていないのが大きい。DeNAで昨シーズンにマークした29本塁打のうち、13本が右投手、16本が左からだった。第1打席の2回、甘く入った変化球を強振すると、センター奥へ運ぶビッグアーチ。歴史に残る打順で打線を活気づけ、チームの左腕攻略の突破口を開いた。

 右へ引っ張るだけでなく、センターからレフト方向にも強い打球で放り込むのが筒香の長所の一つだ。7本目をセンター方向とすると、それまでに打ち込んだ方角はレフト側とライト側で半々。特に左中間への本塁打の際には「あそこに出ているのはいい傾向だと思います」と話すように、広角打ちに手応えをつかんでいる。今季のレギュラーシーズンは60試合に短縮された。米データサイトによると、従来の162試合に換算すると、28本塁打に到達する(9月16日現在)。これは、エンゼルスの大谷がマークした1年目の日本選手最多22本を上回るペースだ。春の段階で「投手との間が一番大事。その調整をずっとやっている段階です」と口にしていた筒香が、最近では「徐々にピッチャーとの間合いが自分の間合いになってきたりしています」とのコメントに変化し、頼もしさが増している。

地道

 DeNA在籍時代からシーズンオフに何度も渡米してトレーニングをしたり、ドミニカ共和国のウインターリーグに参加したりした。和歌山県出身で、強豪の横浜高校の主砲として名をとどろかせた。2010年にドラフト1位で当時の横浜に入団し、2016年には44本塁打、110打点でセ・リーグのタイトルを獲得。2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表の4番を打つなど、日本球界で確固たるステータスを築く中でも将来を見据え、長期的視点から地道に準備していた。

 漂わせる思慮深さ。日本にいるときには、現役選手ながら少年野球などでの勝利至上主義に疑問を投げ掛け、「空に向かってかっ飛ばせ!」の著書もある。ドミニカ共和国での体験などを元に、子どもに野球の楽しさを取り戻してほしいと指摘。19年1月には日本外国特派員協会で記者会見し、大きなインパクトを与えた。高校野球についても「新聞社が主催しているので、現状が良くないと思っている方がたくさんいても、なかなか思いを伝え切れていない」と切れ味鋭く言及するなど大物感がある。

 こうしたものの考え方はプレーにもプラスに作用。いろいろな面で柔らかさがある。シーズン前、異国での挑戦に「イメージや予想と違うことが起きると思います。日々起こることに柔軟に対応したい」と語っていた。出場機会を増やすため、本来の左翼の守備だけではなく、三塁や指名打者にも積極的に取り組んだ。三塁の守りはDeNA時代にも経験があったが、春先のキャンプでキャッシュ監督が打つ強烈なゴロを何本もさばいて鍛え、戦力になるべく努めた。打者のカウントによって細かく守備位置を変更する動きに、チームメートの助言を受けながら学んでいった。

全力

 在籍しているレイズというチームはメジャーの中で個性的な魅力を発揮している。選手の年俸総額が全30球団中28番目と低予算ながら、独創的なアイデアで昨年は6年ぶりにプレーオフ進出を果たした。例えば近年で話題を呼んだのは、投手の「オープナー」導入だ。これは、好打順から始まる1回に、本来は救援で活躍している投手を当てて失点を防ぎ、すぐに継投するという画期的な戦略。抑えの「クローザー」に対する言葉として用いられた。このシステムによって、立ち上がりが不安定な先発の負担が減って失点の確率を抑えられる。試合を優位に進められる利点があり、取り入れた2018年にレイズは90勝72敗と健闘。この作戦を採用する球団が相次いだ。

 昨シーズン、レイズの本塁打数は30球団中21位にとどまった。てこ入れを待望されて入団した筒香。もう一つ評価を受けていたのが出塁率の高さだ。プロ野球時代の通算で3割8分2厘の記録を残した。春先は日米のストライクゾーンの違いに戸惑いを口にすることもあったが、培ってきた選球眼の良さを生かし、四球を選ぶ。同じア・リーグ東地区で伝統あるヤンキースなどを抑え、多彩な戦法を用いて首位を快走する球団の戦力になっているのは間違いない。

 最近では、投手がボールを手放す瞬間に球種やコースをいち早く察知する研究も進んでいるというように、世界の最先端をいくメジャーリーグ。ただ、時が移り変わっても、ボールを遠くに飛ばすホームランは野球のロマンといえる。たった一振りで試合を決めることがあり、理屈抜きに観客を興奮させる。「レイズが勝つために全力を注ぐ」。9月29日からはじまるポストシーズンでは、日本選手最速で本塁打を重ねる背番号25の躍動する姿が、大舞台で目撃されるはずだ。


VictorySportsNews編集部