中学生世代の競技人口の低下が深刻に

ー今、埼玉県の女子サッカーの競技環境はどのような状況ですか?

清水市長:平成31年度の調査では、県に登録している女子サッカー選手の数は、小学生で1120人。高校生で1057人。しかしその間の中学生では、585人と極端に少なくなっています。市内で、女子サッカー部のある中学校は二校しかなく、競技環境の少なさが大きな課題です。

女子中学生世代でサッカー人口が極端に下がっていることが一目でわかる

ー中学生世代だけ、極端に少ないですね。

清水市長:はい、日本サッカー協会(JFA)とも、中学生年代の女子サッカー人口の低下を共通課題として認識し、課題解決に向け、2019年05月20日(月)に連携協定を締結しています。

ーすでにJFAと具体的な取り組みは進んでいるのでしょうか?

清水市長:新型コロナウイルスの影響により中止になってしまいましたが、今年3月にU20女子日本代表対U20女子ドイツ代表の親善試合を埼玉スタジアムに誘致し、中学生年代の女子たちに直接観戦できる機会を作り出しました。今は試合開催が難しい時期ですが、トップレベルの試合を見る機会を与えていきたいと思っています。

ーWEリーグに参入する11チームが発表され、さいたま市から2チームが入っています。

清水市長:浦和レッズレディース、大宮アルディージャとの連携は非常に楽しみです。全11チームのなかで、さいたま市から2チーム。埼玉県全域でいえばちふれASエルフェン埼玉を加えた3チームが参入しているというのは、大きな追い風になると思います。

ー現在、具体的にそうしたチームとの連携はあるのでしょうか?

清水市長:浦和レッズ、大宮アルディージャ、市サッカー協会と立ち上げた、「スマイルプロジェクト」の実施です。JFAとも連携し、「JFAなでしこひろばinスマイルプロジェクト」として、レッズ、アルディージャのスクールコーチが参加する練習会を実施しています。女子を育成するノウハウを持つクラブからの意見を取り入れることができ、今後の育成の仕組みづくりにもつなげていきたいです。

科学的視点を取り入れた育成が、裾野を広げる

ー女子の競技者が増えたとき、彼女たちを導く指導者の存在も重要になってきます。

清水市長:そうですね。特に中学生年代の女子は思春期を迎え、心身ともに変化が大きい時期です。男女の違いを理解し、指導に当たれる“指導者の育成”も大切です。スポーツ界には、昔の根性論をそのまま持ち込む指導者もいるのは確かです。科学的観点をベースに、健康やメンタルを総合的に指導できる人材が必要になってきます。

ー民間企業と連携したデータの活用も進めているそうですね。

清水市長:ウェアラブル機器を選手につけてもらい、心拍数の変化などプレー中のデータを練習に生かす取り組みを進めています。ただ、全ての選手に一律の指導をするわけではなく、選手の目標に合わせて柔軟に対応していくことも大切です。

ー具体的にはどのようなことでしょうか?

清水市長:全ての子どもたちがプロを目指したいわけではないんですね。今は初心者に対しても、意識が高い子に対しても、同じ指導方法になってしまっている現場が多いです。それぞれに合わせたアプローチを行なうことが、競技人口の裾野を広げていくことに繋がっていくと思います。

ーあらゆる子どもたちが“始めやすい、続けやすい”環境を提供していくということですね。

清水市長:中学生だけではなく、小学生年代の女子を対象とした取り組みも同時に進めています。「さいたまシティサッカー夢プロジェクト」では、市内の小学1年生から6年生までのサッカー少女を集めた練習会を行なっています。

 まず裾野となる小学生年代の競技者を増やし、中学生年代でその層をできるだけ減らさないための環境を用意していくことで、競技者人口を安定的に増やしていければと考えています。

駒場スタジアムを女子サッカーの聖地に

ー市サッカー協会が主体となって運営する女子中学生の交流大会『SAITAMA GIRLS MATCH』も年々参加クラブが増えてきました。

清水市長:やはり練習だけではモチベーションの維持は難しいですから、目標となる舞台を用意していくことも大切です。第一回目は6チームだった参加クラブが、昨年は栃木県や群馬県、ハワイ州からの参加もあり15チームにまで増え、徐々に浸透してきている実感があります。(2020年度は大会中止)

 小学生年代にとっても、「中学生になったらSAITAMA GIRLS MATCHで優勝したい」というような憧れの大会にしていきたいですね。

ーさいたま市=女子サッカーというイメージ浸透のために、今後さらにどのようなことに取り組んでいきますか?

清水市長:「駒場スタジアムを女子サッカーの聖地に」という目標も掲げています。さいたま市は歴史的にもサッカーが盛んな街。高校サッカー界では「浦和を制するものは全国を制する」と言われてきた歴史と文化があり、それを引き継いだのが浦和レッズです。大宮アルディージャのホームスタジアムである、NACK5スタジアム大宮(大宮公園サッカー場)は、現存する日本最古のサッカー専用スタジアムです。

 女子サッカー選手も、さいたまを目指すという構図を作り出していくことで、サッカーのまち「さいたま」を実現していきます。


小田菜南子