田中は11月17日に、アンバサダーを務めるスイス高級腕時計「ウブロ」が運営するウブロブティック銀座を訪問したことを自身のインスタグラム(@masahiro_tanaka.official)で報告。ウブロ誕生40周年を記念して12月13日まで開催されている特別展「HUBLOT 40th Anniversary Exhibition―革新への挑戦―」で、自身が同社とコラボした時計や特製グラブ、さきのマスターズで初優勝したダスティン・ジョンソンのクラブなどを見てまわり「非常に迫力のある、かっこいい会場ですごく驚きました」などと興奮を交えて伝えている。
Masahiro Tanaka official Instagram 注目は、そのインスタのコメント欄。地元ニューヨークのファンから「stay in NY please(ニューヨークに残って)」などとヤンキース残留を熱望する書き込みが寄せられるなど、その去就が全米の関心をひいていることがよく分かる。来季所属先は「スポーツ・ベッティング」などブックメーカーで賭けの対象にもなっているほど。なぜ、そこまで田中はメジャー市場において“注目銘柄”になっているのか。それは類稀な「勝負強さ」と「安定感」に理由がある。
ナ・リーグで日本選手初の最多勝に輝いたカブスのダルビッシュ有(今季8勝3敗、防御率2.01)やダルビッシュとともにサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)で2位につけたツインズ・前田健太(今季6勝1敗、防御率2.70)の活躍は今季、日本でも話題となった。一方で、新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れ、レギュラーシーズンの試合数が60に削減された中、開幕前の練習で頭部に打球を受けるなどアクシデントもあった田中は、やや精彩を欠き、3勝3敗、防御率3.56の成績。得意にしていたポストシーズンでも2試合に登板し、計8回11失点と大きく崩れ、悲願のワールドシリーズ制覇を逃した。
それでも、地元紙ニューヨーク・ポストは、前所属の楽天に支払ったポスティングの譲渡金を含む総額1億7500万ドル(約185億5000万円)を獲得に費やしたことを紹介しながら「その価値に見合った選手」と強調する。辛口で知られる同紙では異例の高評価といえるが、その理由として挙げたのが「アンディ・ペティットの信頼性とオーランド・ヘルナンデスの大舞台での頑強さを持ち合わせている」という点だった。
ペティットはヤンキースの黄金期を支えた通算256勝左腕。タイトルは1996年の最多勝(21勝)のみだがが、メジャーでプレーした18年間で16度の2桁勝利、サイ・ヤング賞6位以内入賞を5度果たすなど長期間にわたって先発投手として安定して活躍した。その背番号46はヤンキースの永久欠番にもなっている。左足を高く上げる独特の投球フォームでメジャー通算90勝をマークしたヘルナンデスは、99年のポストシーズンで3勝を挙げ、リーグ優勝決定シリーズのMVPに輝くなど、チームのワールドシリーズ制覇に貢献。大舞台での強さが印象的な右腕だ。
確かに、メジャーでの7年間で規定投球回をクリアしたのは3回、直近4年間は39勝30敗、防御率4.27と、田中は決して際立った成績を残しているわけではない。しかし、昨季まで入団から6年連続で2桁勝利を挙げ、右肘のクリーニング手術を受けながらも、先発ローテーションの2、3番手の地位を安定して守ってきたのは見逃せない事実。2014、19年にはオールスターにも選出されている。
さらに、極めつけがポストシーズンで見せてきた無類の勝負強さだ。今季こそ先述のように大きく崩れたが、昨季までは通算8先発で5勝、防御率1.76と圧巻の成績を誇った。被打率.157に至っては40投球回以上を投げている投手でメジャー歴代1位。特に毎年のようにポストシーズンに進出し、09年以来のワールドシリーズ制覇を最大の目標に掲げるヤンキースのような強豪では、このポストシーズンの“無双ぶり”は何より頼もしく、必要とされるもの。黄金期を彩った偉大な2投手を地元メディアが引き合いに出すほど、田中は最大級の評価を受けているのも、ここに大きな要因がある。
一方で、新型コロナウイルスの影響で球団経営が厳しい中、各球団とも高額なオファーを出しにくい状況であることも、田中の“争奪戦過熱”に拍車をかける。ヤンキースが田中に高額なクオリファイング・オファー(QO、旧所属球団がFA選手に対して今季の年俸上位125選手の平均額である規定の1890万ドルで単年契約を求める制度)を適用するかどうかが焦点になっていたが、最終的にこれが提示されることはなかった。これで、日本を含む全球団との交渉が解禁。同じニューヨークに本拠を置き、大富豪のスティーブ・コーエン氏がオーナーに就いたメッツなど複数球団の名前が移籍先候補として地元メディアで浮上し、古巣であるプロ野球・楽天もその動向を注視するなど、にわかに移籍市場で賑わいを見せているわけだ。
CBSスポーツが「ヤンキースが田中を流出させるとは考えにくい。何年間も先発投手として平均点以上を出しており、まだ32歳」と報じるなど、残留を予想する米メディアも多い。果たして田中は来季、どこでその「勝負強さ」と「安定感」を見せてくれるのだろうか。全米が、その行方に熱視線を注ぐ。