「ANA」や「KIRIN」など、大企業もスポンサーに
近年、各大学サッカー部が公式戦で着用するユニフォームには、名だたる大企業のロゴが掲出されている。今季、異例とまで言われた12名ものJリーグ内定選手を輩出する明治大学サッカー部の胸スポンサーロゴは「KIRIN」。さらに、川崎フロンターレの中盤を支え、この冬にポルトガル1部のサンタ・クララへ移籍した守田英正や、昨シーズンアシストランキング2位の大活躍を見せた柏レイソルの江坂任など、これまで多数のプロ選手を輩出してきた流通経済大学サッカー部の胸スポンサーロゴは「ANA」。
その他にも、「味の素」が販売するスポーツ飲料「アミノバイタル」や体育会の学生達を支援する「Maenomery」なども同大学をスポンサードしており、その数は10を超える。
茨城県つくば市にある筑波大学は、「ジョイフル本田」や「カスミ」といった、茨城県内で事業を展開する企業がスポンサーとなっている。2019年、同大学は公式サイトで7社とスポンサー契約を発表しているが、これらは蹴球部のプロモーションチームが中心となって執り行われたという。スポンサーには、ゴールド、シルバー、ブロンズの3つのメニューがあり、ファンクラブも設立している筑波大学蹴球部はまさにJクラブ顔負けのブランディングを行っていると言ってよいだろう。
その他にも、早稲田大学はガンバ大阪などでプレーした元Jリーガーの嵜本晋輔氏が代表を務める 「バリュエンスホールディングス」とオフィシャルパートナー契約を締結している。同社との契約期間は2022年の1月31日までの3年契約となっており、ユニフォームに企業ロゴを掲出するのはア式蹴球部として史上初だという。
なお、全日本大学サッカー連盟は公式戦で着用するユニフォームに企業名の掲出を認めているが、全国高校サッカー選手権やインターハイを主催する全国高等学校体育連盟はユニフォームに企業名の掲出を認めていない。メディア露出や世間からの注目度だけなら、高校サッカーのほうが上のように思えるが、大学サッカーに多くスポンサーがついているのにはこれらの規定も影響しているだろう。だが、高円宮杯などの高体連主催以外の大会では、市立船橋高校は「マイナビ」が、青森山田高校は「日本航空」が胸スポンサーとなり、それぞれ企業ロゴが掲出されたユニフォームを着用している。その他にも、元日本代表の長友佑都ら多くのプロ選手を輩出した東福岡高校は「大塚製薬」の販売する飲料「Amino-Value」のロゴを胸スポンサーとして掲出。このように、高校サッカー部にスポンサードする企業も増えていることから、近い将来、高校サッカー選手権やインターハイでも企業スポンサーのついたユニフォームの着用が認められる可能性は十分にあるだろう。
大学サッカー部がスポンサードを受けるメリットとは?
流通経済大学や筑波大学のように、スポンサーの数が10社を超えている大学も出てきているが、大学サッカー部が企業のスポンサードを受けることでどんなメリットを得られるのだろうか。
大学サッカー部の多くは、学校側から支給される活動費と部員から徴収する部費によって活動費を賄っている。関東リーグに所属する某大学のサッカー部員に話を聞いたところ、部費が年間15万円、その他、ユニフォーム代やスパイク等の備品、合宿代、交通費などで年間35万円ほどの費用がかかるとのこと。アルバイトの時間が限られている体育会学生にとっては、これだけの費用を支払うことは難しいだろう。
しかし、スポンサー企業から金銭的な支援や物品提供を受けることができれば、選手が負担する部費を軽減することに繋がるだろう。そして、物品提供に関しても選手個人や部全体の出費を抑えることができ、大きなプラスになるだろう。金銭的に余裕がない体育会学生にとって、部費や遠征費の負担が軽減されることや物品提供でサポートを受けることは競技を続ける上で大きな後押しになるに違いない。
スポンサーがつくことで選手のモチベーションアップにも繋がる
スポンサーがつくことのメリットは金銭面といった選手の負担軽減だけでない。スポンサー企業の関係者をはじめとするステークホルダーなど、多くの人から応援してもらえることにも繋がるだろう。そして、ユニフォームに企業名が入ることや物品提供を受けることで、選手達に「スポンサーからサポートしてもらっている」という自覚が芽生え、日々の練習や試合に対するモチベーションアップにも繋がるのではないだろうか。このように、大学サッカーでのスポンサーは大学側にメリットが多いように見える。一方で、当然のことながら、企業側にもメリットがないとスポンサーとなることはないはずだ。果たして、企業側にはどんなメリットがあるのだろうか。
企業が大学サッカー部にスポンサードするメリットとは?
大学サッカーはJリーグクラブに比べると、注目度やメディアへの露出機会は減るが、その分安い金額でスポンサードすることができる。Jリーグクラブの胸スポンサーはJ1やJ2クラブだと1億円~2億円程度である。しかし、大学サッカーはアマチュアのため、それよりも遥かに費用を抑えることができ、企業にとってもスポンサーになるにあたっての敷居が低い。九州大学リーグに所属する福岡大学では、「ミズノ」や「マイナビアスリートキャリア」などがスポンサードしているが、その金額は月額1万円、3万円、5万円、10万円の年間契約型と1回3000円~30000円のスポット型ミニスポンサーとかなり細かく設定されているという。そして、どのプランもサッカー部のホームページにバナー広告を掲出することが可能なようだ。このように、少額でスポット型でのスポンサードが可能な点は、企業にとっても魅力的であるに違いない。
また、学業に励みながら真剣にプレーする大学生のサッカー選手達をサポートすることによって、社会貢献にもつながり、その企業のイメージアップにも繋がるのではないだろうか。
部員の就職先の選択肢となり、採用活動に繋がる可能性も
サッカー部員達も一般学生同様、多くの部員が就職活動を経験する。その際、スポンサー企業であれば、サッカー部の学生達にとって、その企業も就職先の選択肢となる可能性はあるだろう。スポンサー企業であれば、サッカー部の活動も理解しており、体育会学生に「良いイメージ」を持っている可能性は高い。部員達にとってもスポンサー企業は身近な存在であり、縁を感じるはずだ。実際、流通経済大学のスポンサーである「Maenomery」や早稲田大学ア式蹴球部をサポートする「バリュエンスホールディングス」も体育会学生の支援を行っている。体育会学生を採用したい企業がスポンサーとなることで、企業と学生の双方にメリットが生まれる点も、大学サッカーへのスポンサードの大きな役割である。
スクールやジュニアユースチームの運営を行う大学も
スポンサーがつくようになった大学サッカー部だが、サッカースクールやクラブチームの運営に取り組む動きも出てきている。日本代表の武藤嘉紀ら、多くのプロ選手を輩出している慶應義塾大学ソッカー部では、2006年から横浜FCと提携して「YOKOHAMA FC KEIOサッカースクール」を運営。このスクールは、横浜市にある同大学のホームグラウンドである下田サッカー場で行われ、主に同大学の付属校に通う小学生を対象に活動している。ベーシックコースやアスリートコースなど、レベル分けもされており、横浜FCのアカデミースタッフがコーチを務め、アシスタントとして慶應ソッカー部の学生が指導にあたっているとのこと。会費は月に6000円~18000円までとなっていることから、収益化していることが考えられる。
また、中央大学サッカー部では「CHUO SPORTS ACADEMY U-15」を運営し、ジュニアユース年代となる中学生年代の選手の育成に取り組んでいる。指導は同大学サッカー部のコーチや部員が担当しているという。大学サッカー部以上の存在となることを目的とし、「街のシンボルとなるクラブを目指す」ことをビジョンに掲げている。こうした取り組みを行う大学も増え始め、大学サッカー界が変わりつつある。今後の大学サッカーがどのように変貌を遂げていくのか、注目していきたい。