「五輪の書は戦いだけに通じるものじゃなく、生きていく中で必要なバイブル」

―4月22日に行われる「ONE on TNT III」でのリース・マクラーレン戦は昨年11月に続きコロナ禍での試合となり、早めの現地入りと隔離生活を経ての試合となります。隔離生活は前回経験していかがでしたか?

若松:あんまり携帯ばっかり見ないよう、本を読んだりストレッチして体を動かしたり、洗濯をやったりして過ごしてました。隔離は疲労が抜けて身体が休めるから、いいんじゃないかって逆にプラスにとらえてます。

―どのような本を読んでいたのですか?

若松:前回は五輪の書などを読んでいました。

―お子さんの名前、武蔵くんはやはり宮本武蔵から取ったのですか?

若松:そうですね。一番好きな武士で、どんな道に行っても宮本武蔵のように志を持って生きてほしいなと思って。五輪の書は戦いだけに通じるものじゃなく勉強だったり生きていく中で必要なバイブルだと思うし、読み返すと“これ大事だな”とか“あ、これもあったな”とか気づくことがすごくあります。

自らを「ドラゴンボール」に重ねて戦う

―本の繋がりで言えば先日ABEMAでONE Championshipのゲスト解説をされた際、『ドラゴンボール』についても熱っぽく話をしていましたね。

若松:もう何十年も前のものなのに、神マンガだなって思います。小学校の時めっちゃハマって読んでたんですけど、今また整骨院の待ち時間とか電気を当ててる時間とかに読んでます。

―改めて読んで感じる『ドラゴンボール』の魅力は?

若松:ドラゴンボールに向けて強い奴らが導かれて集まってきて、それって格闘技もそうじゃないですか。いま本当に強い人たちの集まりが総合格闘技だと思うんです。だからドラゴンボールがチャンピオンベルトみたいな感じで、しかもどんどん強い奴が出てきて、なんかほんとにマンガと一緒だなと思います。

―たしかにマンガの世界を地で行く感じはありますね。では自分を『ドラゴンボール』に重ねて感じたり?

若松:そうですね、やっぱり戦いが好きなので。戦い、強いものが純粋にすごく好きで、そういうところは似てますね。どんどん強くなって強い奴を倒して次のステージに行く、それでまた強い敵がいる、みたいな。

©ONE Championship

「最悪の状態になったら死ぬ覚悟で戦い抜く」

―ONEでの戦いをそんな風に重ねて見ても面白いですね。若松選手は現在3連勝と好調ですが、ABEMAでの解説ではこれまで以上に強い自信を話の節々に感じました。

若松:いろいろ生きてきて大人になったっていうのもあるし、やっぱり子どもが生まれて考え方もガラっと変わりました。何でもやればできないことないなって。グラップリングだって“俺はストライカーだから寝技は逃げるだけしかやらない”じゃなくて、全部とりあえずやってみる、みたいな考えになりました。ただ数をやっても一定のところまでしか強くなれないと思うので、考え方とかそういうところも磨いたり、自分と戦いながらやっていく中で“あ、こうやればいいんだ”とか気づいて、自信がついてきました。ただ全部が自信になっちゃうとそれはそれで怖いので、やっぱりもちろん不安もあります。

―やはり自信一辺倒になってしまっても、隙が生まれたりよくないのですね。

若松:たぶん外国人は結構そういう人が多いと思うんです。自信満々で“俺は最強だ”みたいな。でも自分は日本人の気持ちを持ってるので、人生と一緒でいつ地震が来るか分からないし、最悪の状態になったら死ぬ覚悟で戦い抜く気持ちは持ってます。だから1・2割は最悪なことは考えてますけど、それを考えて試合をすることはできないので、試合になったらもう“俺が最強だ”って、全て忘れて一生懸命頑張るだけです。

「マクラーレンが“スポーツマン”なら、僕は“殺し屋”」

―そういった中で今回はランキング5位につけるリース・マクラーレンと対戦します。印象はいかがでしょう。

若松:すごく楽しみながら格闘技をやってる感じがします。上手い選手ですよね。殺気が凄いとかじゃなく、楽しんでる、スポーツマンっていう印象です。殺傷能力がある訳じゃないですけど、上手いですね。グラップラーなのにいろいろ回し蹴りとかやったり、格闘技が好きなんだろうなって思います。

―マクラーレンが“スポーツマン”なら、対して若松選手は?

若松:僕は“殺し屋”です(笑)。なのでボッコボコにしたいなって思います。柔術も黒帯だったと思いますけど、何でもあり、寝技で殴られる練習はあまりしてないと思うので、引き込んできても思いっきり強いパンチを打ち込んで、ヒジで切り裂いたりして血だらけにしたいです。

©ONE Championship

―若松選手といえばストライカーですが、最近はグラップリング、組み技の実力も増しているようですね。

若松:前は逃げるのが精一杯だったんですけど、今はグラップラーとかとやっても普通に勝負できたりするので、そこはすごく変わっていると思います。

―以前は組まれたら“逃げないと”と思っていたのが、その不安がないと、より自信を持って戦えそうですね。

若松:そうですね、逆にもう“組んでこいよ”ぐらいの感じでプレッシャーを掛けられます。別に倒されても問題ないかなって、前より断然自信はあります。

―グラップラーのマクラーレンですが前回の試合でKOしていたり、打撃勝負に来る可能性もあります。

若松:それももう自分の殺気で恐怖感を与えて、逃げタックルに来た時ブチって切って、下になったところをヒザとかヒジで滅多打ちにしたいです。

―打撃を嫌がり、逃げ腰で来るタックルであれば切りやすいですね。

若松:自信がちょっとでもなければ(対峙して)分かるので、自分も“こいつ寝技で行ける”と感じるのがないよう、ちょっとでも隙を見せないようやっていきたいです。

―なるほど、そういった“行ける”“行けない”という感覚は戦っているファイター同士は分かるものなのですね。

若松:組み合って“こいつ組みができる”とか“こいつビビってる”とか、そういうのはその時しか分からないので、最後はもう覚悟を決めて、何が来てもビビらないようにして戦います。

©ONE Championship

マクラーレンについては「進化したところを引きずり出してくれる相手」

―現在3連勝でランキング4位、ここをクリアすればいよいよタイトルマッチも見えてくる状況ですが、どんな心境でしょうか。

若松:とりあえず絶対負けられないっていうのと、今は次勝ってもまたコロナがひどくなってとか分からないじゃないですか。なので、もう今のうちからタイトルマッチぐらいの気持ちでスタミナとかも全部作ってます。チャンピオンになったら一個違う世界があると思うんです。見える世界が違うと思うし、そこへ早く辿り着かないとっていう気持ちで焦ってます。とりあえずすぐにでもタイトルマッチをしてチャンピオンになりたいです。

―先ほどの「強い奴を倒して次のステージに行く」という『ドラゴンボール』の話とも繋がってきますね。

若松:自分は別に面白いとか思われなくてもいいので、ただ日本に強さとか戦いとか、いまだにそんなことばっかり考えてる頭のおかしい奴がいるっていうのをちょっと知ってもらいたいです。究極の中二病で、『キングダム』とかマンガのことを本当に思ってるやつがいる、みたいな(笑)。

―分かりました(笑)。そんな若松選手の天下=ベルト獲りを期待しています。最後にマクラーレン戦への意気込みをお願いします。

若松:今回は進化したところを引きずり出してくれる相手だと思うので、そこにしっかり負けないよう、逆にそれを上回る強さを見せたいと思うので、楽しみにしていてください。


長谷川亮

1977年、東京都生まれ。雑誌編集部を経て2005年春からフリーに。主に格闘技を執筆し、編著に『バーリ・トゥード ノゲイラ最強への道―DVD最強テクニック伝授ノゲイラになる! 』(東京漫画社)、『わが青春のマジックミラー号 AVに革命を起こした男』(イースト・プレス)。ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017年)、『沖縄工芸パラダイス』(2019年)の監督も務める。