世界タイトルマッチだけで22勝20KO1敗1分の怪物ゴロフキンが、プロで初めて立った日本のリングでもKO数を1つ積み重ねた。ゴロフキンが世界中を魅了している大きな理由の1つがそのKOにある。競合ひしめき合うミドル級で17連続KO防衛の世界タイ記録を樹立。今回は9ラウンド2分11秒TKOではあったが、まさにマットに轟沈させるといった表現がぴったりな結末に人々は畏怖し魅了されてきた。プロとして44戦し1ラウンドKOは5回。
最短は58秒で相手をマットに沈め、WBA世界ミドル級王座を手に入れた。
KOはボクシングの醍醐味
日本人同士のボクシングに目を向けてみても、KOというのはボクシングの醍醐味でファンを魅了する。昨年12月の東日本新人王決勝戦で珍記録が誕生した。フェザー級(5回戦)の渡邊海(ライオンズ)が吉田諒(ワールドスポーツ)を下したTKOタイムは開始10秒。新人王戦史上最短で、日本歴代でも2位タイとなるクイックKO記録だ。
試合は、ゴング早々に渡邊の打ち込んだ右がカウンターで決まると吉田は崩れ、レフェリーがストップをかけた。渡邊の狙い通りの一打だったとしても、まさかこれで終わるとまでは考えていなかったろう。
渡邊対吉田のケースは、厳しい新人王トーナメントを勝ち抜いてきた選手同士の組み合わせだったが、「最短KO記録」が偶発的な要素を含むものであるのはたしかだ。これまでの記録上位は例外なく技術レベルの未熟な4回戦試合で占められている。互いに打ち気に逸り、まず最初のアクションで終わるのだから「当たった者勝ち」の側面がないともいえない。
国内外の最短KO試合をみてみると
国内史上1位は「8秒TKO」。10秒を切った唯一の試合である。2005年7月21日、後楽園ホールの第1試合で生まれた。スーパーウェルター級4回戦の両者はともにデビュー戦だった。斉藤大喜(トクホン真闘)が相手の星野泰幸(ヨシヒロ)のグローブタッチをかいくぐるように飛び込み、打ち合いに巻き込んで連打でダウンさせ、ノーカウントで試合終了となったものだ。
この試合もレフェリーはダウンした選手のカウントをとらずにストップを宣したが、安全管理意識の徹底された現代では当たり前の処置である。レフェリーは不当かつ不要なダメージを選手に負わせてはならないし、試合経験の浅い4回戦ボクサーならなおさらその判断は迅速になる。
ちなみに、10カウントを数え上げたKOタイムが「13秒」という仰天の試合も過去にはあった。1966年10月2日、後楽園ホールのライト級4回戦。有沢茂則(草加協栄)が原興一(極東)をキャンバスに送るのに要したのは開始3秒だから早い。
海外の史上最短KO試合は、なんと「5秒KO」の記録がある。1994年9月、コロンビアのエベル・ベレーニョ対ギジェルモ・サルセド戦のTKOタイムで、これが現在もワールドレコードである。試合は10回戦で行われているから、それなりのキャリアを持つ者同士だが、どんな内容だったのかは不明だ。5秒で敗者となったサルセド(16勝9KO6敗)はすっかり気落ちしたのか、これがラストファイトになっている。
ここまで挙げたのはいずれもノンタイトル戦だが、もちろん世界タイトルマッチにも早ワザのKO劇はいくつもある。
世界タイトルマッチでも秒でKO
世界戦史上最短KO記録は2017年11月18日、ベルファストで行われたWBO世界バンタム級タイトルマッチで、王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)がマークした「11秒」。それまでの記録(17秒)を23年ぶりに更新した。
この試合、テテが放ったパンチは右フック一発。これが挑戦者シボニソ・ゴニャ(南アフリカ)のアゴをとらえ、吹っ飛ばした。レフェリーは倒れたゴニャに4カウントまで数えたところで、「これは無理」と判断して試合終了を告げた。ゴニャは意識を失っていたのだ。
「まずは右ジャブかフックでゴニャの出方を見ようと思ったんだが」と勝者テテもエクスキューズ(?)するはめに。
びっくりするのは、これがテテ自身の最短KOタイムではないことだ。テテはプロ3戦目で10秒KO勝ちしていたのである(初回KO勝利もキャリアで13度目だった)。
さておき、相手との力量差を差し引くにせよ、「タイトルマッチ」の付加価値がある試合がこうもアッサリ終われば、物足りないというファンも多かろう。例外はマイク・タイソン(アメリカ)で、ファンはタイソンがのっけから必ず倒しに行くことを承知済みだった。
タイソンのチャンピオン時代はたびたび「1発あたりウン百万ドル、1分あたりでは……」とレポートされたものである。タイソンの世界戦で最も短いマイケル・スピンクス(アメリカ)戦は91秒KO勝ちだったが、この時(手元にいくら入るのかはともかくとして)タイソンの稼ぎは「1秒あたり23万ドル」とべらぼうだった。