ステイホームで増えた骨粗しょう症。原因は?

ー外出自粛ムードが広がってからの1年、整形外科を受診する患者が増えたというのは本当でしょうか?

齋藤医師(以下、齋藤):骨や関節の痛みを訴える患者が全国的に増えています。今までなんの症状もなく過ごしていた人が、いきなり背骨を折るといったケースもあるようです。

ーその原因が運動不足ということですか?

齋藤:急増の理由の一つではあると思います。骨密度は、運動によって骨に負荷がかかることで高まります。たとえ遺伝的な疾患によって骨が弱い方であったとしても、日々の運動動作によって、骨折には至らない骨密度が維持されることも多いのです。そうした方が運動量を減らすと、骨が一気に弱くなり、体中あちこちの骨が折れ始めるということも考えられます。

ー通勤通学、買い物など外出程度の運動であっても、骨の健康維持には重要だったのですね。

齋藤:私を含め多くの整形外科医が、適度な運動の大切さを実感したと思います。4月23日に4都府県で3度目の緊急事態宣言が発令されましたが、飲食や必要以上の会話を控え、マスクをして散歩程度に近所を歩くくらいであれば感染リスクは低いと考えられます。お茶の水セルクリニックに訪れる患者さんにも、まず運動習慣の改善をお願いしています。

ー適度な運動に加え、骨粗しょう症予防に有効な手立てはありますか?

齋藤:ビタミンD不足は、骨粗しょう症患者のほぼ全員が抱えています。その大きな原因の一つは、日光に当たる時間が短いことです。ビタミンDは、太陽の光を浴びることで皮膚からも合成されます。外出自粛により家にこもることが多くなったことで、負の相乗効果が生まれてしまったとも考えています。

生活習慣の改善無しには、幹細胞治療は勧めない

ー幹細胞治療は、アスリートのひざ関節の痛みへの有効性が認められてから認知が高まっています。骨粗しょう症や関節痛を抱える一般の患者にも適用は可能なのでしょうか?

齋藤:もちろん効果は期待できます。最近では「幹細胞治療を受けたい」と患者さんから問い合わせをもらうケースもありますが、まずは標準治療の範囲から始めることをお勧めしています。

ーそれはなぜでしょうか。

齋藤:骨粗しょう症に限ったことではありませんが、まずは原因を正しく見定めることが第一優先です。骨粗しょう症の大きな原因として、運動不足とビタミンD不足を挙げましたが、それ以外にも考えられることが多いので慎重な判断が必要です。
基礎疾患を抱えている場合もあれば、別の病気の治療で飲んでいる薬の飲みあわせで骨が弱くなっていることもあります。栄養に関しては、ビタミンD以外の原因でカルシウムのバランスが悪くなっているケースも。治療法の選択の前に、幹細胞治療を選択しても、同じ症状を繰り返してしまいます。

ー生活習慣をふりかえることが治療の一歩なんですね。

齋藤:もちろん希望する方の相談には乗っていますが、幹細胞治療はコストもかかります。今は保険診療の範囲でもいい薬が生まれているので、まずは標準治療の範囲でできることをお伝えしています。

関節の動き改善には、かかとの固定が重要

ー関節の痛みを予防、もしくは和らげるためのインソールも開発されていると伺いました。その取り組みのきっかけを教えてください。

辻医師(以下、辻):幹細胞治療に限らず、医療にできることは限られています。まずは未然に防ぐため、もしくは重症化前の運動療法の効果を高めるために何か装具が作れないかと、様々なメーカーに相談を持ちかけました。

ー様々な選択肢の中で「インソール」を選んだ理由はなんですか?

辻:患者さんの足型はそれぞれなので、形が決まってしまう靴は向いてないなと。患者さんにアクティブに動いてもらうのが目的だったので、患者さんが好きなデザインの靴で歩いてほしいという思いもありました。インソールなら、靴に合わせてサイズを変えられます。

ーこのインソールにはどのような特徴があるのでしょうか?

辻:膝関節に関しては、かかとがしっかりと靴の中で固定されてぐらつかないことが大切です。この点を意識して、日本フットケアサービスさんと開発しました。すでにご利用いただいた方の中からは、姿勢改善にも効果を感じたという声も届いています。ヨガをしている方からは、このインソールを履いてから今までできなかったポーズができるようになったという、こちらが予想していなかった反応もいただきました。

ー病院にかからないためのインソールを、医師が開発するのはユニークですね。

辻:医療は万能ではありません。そのことを強く実感した1年ではありましたが、そのうえでできることは何かを考えていく必要があります。新しい治療法はこの先も次々に世に出てきますが、それだけに頼るのではなく、日々の栄養管理と運動習慣を基本とする考え方は変わりません。

【VICTORYクリニック】夢の治療法となるか。一般人からアスリートまでカバーする最新の幹細胞研究に迫る

関節への幹細胞治療の有効性については、アスリートの選手生命を延ばす1つの治療策として、2019年からVICTORYクリニックでもお伝えしてきた。関連法の施行から7年が経ち、治療の有効性が認められる範囲が広がるなか、そのメカニズムに関して、従来の認識を覆す研究も表れている。幹細胞治療をリードしてきたアヴェニューセルクリニックの辻医師と、お茶の水セルクリニックの齋藤医師に、最新の研究結果を伺った。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

小田菜南子