「全米女子オープン」は昨年までテレビ東京が放送していたが、今年は放送がなかった。なぜ放送がなかったのかといえば、主催者である全米ゴルフ協会(USGA)が設定した放映権料を支払えなかったからということになるだろう。正確にいえば、放映権料を支払って放送するかどうか検討したが、費用対効果や財政事情などを考慮した結果、放送を見合わせたわけだ。

 前回大会で渋野日向子が優勝争いしたにもかかわらず、今年の放送を見合わせたということは、今後はおそらく「全米女子オープン」の地上波放送はなくなるだろう。視聴するためにはBS放送のWOWOWまたはCS放送のゴルフネットワークと契約しなければならないということになる。

 そのことに対して不満を持つ人がいるかもしれないが、そもそもゴルフの海外メジャートーナメントはすべての試合が地上波で放送されているわけではない。男子メジャーの「全米プロゴルフ選手権」は1990年代後半から2000年代前半にかけて地上波放送がなかった年のほうが多かったし、女子メジャーが注目を集めるようになったのは宮里藍がLPGAツアー(米国女子ツアー)に主戦場を移した2006年以降の話だ。

 WOWOWは以前からLPGAツアーの放送を積極的に行ってきたし、ゴルフネットワークは名前のとおりゴルフ専門チャンネル。彼らはゴルフトーナメントが課金コンテンツになると早くから目をつけており、放送スタイルも洗練されている。数年前から一部の海外メジャートーナメントは地上波と専門チャンネルが同時に生中継していたが、地上波は実況やテロップがうるさいため専門チャンネルで視聴する人が増えていた。海外メジャーの地上波放送がなくなることで、今後はその流れが一気に加速するだろう。

近い将来、地上波放送消滅の可能性も

 海外メジャーに限らず、国内トーナメント中継でも地上波は岐路に立たされている。昨年6月に女子ツアー再開の口火を切った「アース・モンダミンカップ」は地上波放送を取りやめ、インターネット配信に切り替えて大きな話題になった。同大会は今年も地上波放送を行わず、動画配信サービスのU-NEXT(ユーネクスト)でライブ配信を行う予定だ。

 今年5月に新設された男子ツアーの「JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP by サトウ食品」も地上波放送はなく、テレビ中継は4日間ともゴルフネットワークだった。この試合の主催者はジャパンゴルフツアー選手会。つまり、選手会が地上波放送はなくてもいいと判断したわけだ。

 これらの例は今のところ一部の取り組みではあるものの、かつて地上波の花形コンテンツだったプロ野球が視聴率の低迷や放送時間の問題などもあり、あっという間にBS放送やCS放送に移行したことを鑑みると、プロゴルフも近い将来、地上波放送が消滅する可能性は高いだろう。

 なぜならば、プロゴルフは1日18ホール、4日間72ホールで勝敗を競う競技なのでプロ野球よりもはるかに時間がかかるし、そのぶん天候の影響も受けやすい。日本のプロゴルフトーナメントは初日や2日目が悪天候に見舞われるとすぐに中止となり、54ホール短縮競技という判断になるが、これは日曜日に試合を終わらせたいテレビ局の都合である。

 松山英樹が主戦場にするPGAツアー(米国男子ゴルフツアー)やLPGAツアーでは悪天候で丸一日プレーができなくても、翌日36ホールを行い、それでも試合が終わらなければ月曜日や火曜日まで順延して72ホールを完遂する。それがグローバルスタンダードだ。

 日本はこの3年間で男女含めて海外メジャー覇者を3人も輩出した。その国のゴルフトーナメントが今のままでいいはずがない。昨年6月の「アース・モンダミンカップ」は最終ラウンドが悪天候のため月曜日に順延して72ホールを完遂したが、それが当たり前にならないといけないし、女子ツアーはすでにそういう心構えで取り組んでいる。男子ツアーもこれに追随するとなると、放送時間の制約がある地上波にはどう考えても荷が重い。

 「全米女子オープン」と同じく全米ゴルフ協会主催の男子メジャー「全米オープン」(6月17日~6月20日、カリフォルニア州トーリーパインズゴルフクラブ・サウスコース)も、地上波放送の契約が難航していると報じられている(6月9日時点)。一方、ゴルフネットワークでは6月16日の練習ラウンドから日本時間の6月21日に行われる最終日まで全ラウンド生中継の放送予定が発表されている。

 その翌週に開催される女子メジャー「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」(6月24日~6月27日、ジョージア州アトランタ・アスレチック・クラブ)は、笹生のメジャー優勝後の初戦になる予定だが、この試合も地上波放送はなく、WOWOWが4日間とも生中継を行う予定となっている。

 日本人選手が海外メジャーで活躍すればするほど放映権料が高騰し、地上波放送の敷居が高くなるというのは皮肉な現象だが、本当に観たい人は専門チャンネルで思う存分に視聴できる恵まれた環境が整ってきたといえるかもしれない。

保井友秀

著者プロフィール 保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。