あくまで個人的な感想だが、このニュースを聞いた際、中田選手ならこれまでも同様のことがあったのでは?と思った。行為の強さの程度はさておき、彼がチームメートを殴ったと言われても正直そんなに驚かなかった。

その後、同月11日にファイターズが球団公式サイトで「中田選手の違反行為と処分について」の名目でプレスリリースを発表。1軍・2軍を含めた全試合の出場停止処分を科し、NPBからも公示されたことで、これはただごとじゃない“事件”なんだとようやく認識した。

同月16日にはファイターズの栗山英樹監督がこの件について初めて言及。「正直、このチームでは難しいと思っている」とコメントし、チームからの放出まで示唆した。ただ、この流れでは引き受けるところはないだろうと思っていたら、まさかの紳士軍団ジャイアンツ入りである。

この時、脳裏に浮かんだのが、2003年のダイエー・小久保裕紀内野手の無償トレード。あの時は球団に不信感を抱いた小久保選手が自由契約を希望し、ジャイアンツが受け皿になったと記憶している。

覚悟の上のトレード

今回の真相は、栗山監督から中田選手について相談を受けた原辰徳監督が引き受けたということらしい(中田選手のファイターズ時代の先輩・コーチでもある稲葉篤紀元日本代表監督、梨田昌孝元ファイターズ監督からも連絡があったそう)。もちろん、受け皿となったことに対してジャイアンツサイドに非はないと思うが、出場停止の公示からわずか9日間、舌の根も乾かぬ間の早過ぎる復帰への非難は、大いに予想された。にもかかわらず、電撃移籍発表から即チーム合流、翌日には出場選手登録&代打で出場と、一気にジャイアンツの中田を世間の目にさらした。

予想通り、「チームを移籍したからといって、出場停止を解除していいのか」「復帰は早過ぎる」「日本ハム球団からの説明不足」「暴行を受けた相手もあることなのに、美談にするな」「そこまでして勝ちたいのか」とネットは大荒れ。中田選手・日本ハム・NPB、そしてジャイアンツに対する世間からのバッシングは凄まじかった。擁護する声はほぼなく、応援するようなコメントを発した著名人は自身のフォロワーからも攻撃される事態に。

ただこれは、コンプライアンスが遵守される現代において、至極当然な反応で、十分予想されたこと。そこで感じるのが、未曽有の大バッシングを受けることが分かっていながら、それもひっくるめて引き受けたジャイアンツ、いや全権監督である原監督のすごさである。

ここ最近でも、炭谷銀仁朗捕手、山本泰寛内野手など、まだまだジャイアンツの戦力となるであろう人材を、交換選手を求めずに新天地へと送り出してきた原監督。昨年9月に、田中貴也捕手を金銭トレードした際には、「プロ野球選手は限られた年数の中での個人事業主、夢追い人」とコメント。限りある短い現役生活のなかで、成功という夢を追う一選手を思い、その可能性を目いっぱい広げる道を優先して考えているのが分かる。

中田選手にしても今シーズン1年間は謹慎して、ほとぼりが冷めるであろう来シーズンになってから復帰させるという選択肢はあったはず。だが、原監督はそれをしない。

「(中田翔の)現在、未来、過去も含めて共有しよう」と、32歳の才能ある野球選手の限られた時間を一分一秒も無駄にさせないため、批判も非難もバッシングも全部覚悟の上で決断を下したのである。

自身が大の原監督ファンであるからそう思うだけかもしれないが、この状況でこれができるのって他に誰かいるのだろうか。移籍による出場停止の解除を受け入れたNPBコミッショナーにも非難が出ていたが、今回の決断を下すことができる原監督が未来のNPBコミッショナーになれば、これからの日本プロ野球は明るいのだろうなとも思う。もちろん個人的に。

チームの“最適解”となるか

戦力としても大きいのは間違いない。

今シーズンの開幕前、打線の課題とされたのが1番と、5・6番。1番には梶谷隆幸外野手を獲得し、坂本勇人、丸佳浩、岡本和真のあとを打つバッターとして、スモーク、テームズの両外国人を獲得していたが、テームズはわずか1試合2打席のみで離脱した。さらに活躍していたスモークもコロナ禍の家庭の事情もあって退団してしまい、どちらももういない(テームズは自由契約)。

ベテランの中島宏之や亀井、ウィーラーが5・6番の代役を務めてはいるものの、打点王3回、ジャパンの4番まで務めた男の実績は疑いようがない。中田選手が5番に座る打線は、シーズン前からの課題が今も解消できていないチームの“最適解”になるはずだ。

ジャイアンツファンの思いは、東京ドーム初見参となる代打を告げられた際、そして翌日のスタメン発表の際の拍手の大きさが物語っているのではないか。どこか「頑張れ」と素直に言いづらい状況ではあるものの、ジャイアンツのユニフォームを着てグラウンドに出ている選手を応援しないという選択は、G党として考えられない。

ジャイアンツのチーム環境は、1学年上に坂本、同学年に菅野智之、丸、小林誠司がいて、大ベテランの中島、亀井も在籍。中田選手が“お山の大将”となってしまったファイターズの環境よりもいいとされている。でもそんなことではなく、全部中田選手の気持ち次第なんだと思う。

入団会見で「一からしっかりと自分を見つめ直して、野球人として人として前に進んでいきたい」と、神妙に語った中田選手。この言葉の通り、やってしまったことへの反省と、もう一度野球ができる環境を与えてくれたことへの感謝を持って、ただただ野球に打ち込んでほしい。中田選手に今できることはそれしかないと思うし、ジャイアンツファンは、それができると信じるしかない。

「私が断を下す」

中田選手の入団に際し、同選手の今後について聞かれた原監督は、報道陣の前でそう語った。ジャイアンツでの立ち居振る舞いのすべてを見た上で、中田選手が野球を続けるにふさわしくないと判断したら、引退させる。ということだろう。そう、中田選手に退路はない。1年間の冷却期間を置くことで、あわよくば続けられたかもしれないこれまで通りの現役生活はもう存在しないのだ。

「頑張れ」と大きな声で応援できるよう、中田選手のこれからを、ジャイアンツファン、そして一野球ファンとして、原監督と共に見守りたいと思う。

越智龍二

著者プロフィール 越智龍二

1970年、愛媛県生まれ。なぜか編集プロダクションへ就職したことで文字を書き始める。情報誌を中心にあらゆるジャンルの文字を書いて25年を超えたが、好きなジャンルは、巨人、ヴェルディ、パチスロ、漫画、映画。会ったら緊張で喋れない自分が目に浮かぶが、原監督にインタビューするのが夢。