JTPUは、日本テニス界を盛り上げていくために意見交換をできるような団体であり、選手をまとめる組織

――現役のプロテニスプレーヤーを続けながら、日本テニスのためにさまざまなアクションを起こしている内山選手ですが、まず日本テニス協会(JTA)とは別で、全日本男子プロテニス選手会(JTPU)を立ち上げた経緯から聞かせてください。

内山:僕も発起人の一人として、発足前からいろいろ添田(豪)選手と一緒にやらせてもらっていましたが、発足理由としてはいくつかありました。例えば、全日本(テニス選手権)にもっとお客さんが来てほしいとか、選手間それぞれで意見を持っていても、個々ではそれを(日本テニス)協会(JTA)の上の方までなかなか伝えてもらえない。選手たちももっとテニス界を盛り上げたいという気持ちがある一方で、その声を届けることができない現状がある。そこで、選手団体をしっかり作ることによって、選手全体の意見を伝えれば、協会でも扱いやすくなるのではと考えました。(JTPUは)労働組合のような組織というよりは、共に日本テニス界を盛り上げていくために意見交換をできるような団体であり、選手をまとめる組織として発足しました。
 コロナ禍で、JTPUがあって良かったなと思うことがあります。選手会のグループLINEがあるんですけど、海外遠征に出ている選手から、入国に必要なことやトラブルを伝え合ったりしました。ツアー中断中にはZoomで話し合って、ファンミーティングもやりました。みんなで、この危機を乗り越えようというプラットフォームがあって良かった。もちろん選手個々、試合ではみんなライバルですけど、コロナ禍ではプラスの面が大きかったんじゃないかと思います。

――選手会の活動はまだまだ日が浅く、試行錯誤することも多いのではないでしょうか。

内山:そうですね。正直簡単ではないなと僕自身感じています。プロ野球やラグビーやプロゴルフの選手会を参考にさせてもらっているところがあります。テニスの場合は、個人競技ですが、JTPUは目安として日本ランキング100位以内の選手が入会できることを基本としています。1~100位で幅があると、選手それぞれ戦うステージが違います。トップの選手は(ワールドテニスツアーの)ATPツアーを戦い、ランキングが低くなるにつれて、(ツアーより下のグレードの大会である)ATPチャレンジャー、フューチャーズ、さらには、日本国内の大会でプレーしている選手もいます。その中で意見をまとめるのは、正直難しいです。それぞれの立場で求めるものや課題も違う。例えば、全日本テニスの規模ですが、上位ランキングの選手は全日本のドローサイズを小さめの32にして、海外遠征の合間に出られることを考えます。逆に、下位ランキングの選手は、ドローサイズを大きくして出られるチャンスを増やしてほしいと求めます。僕らとしては、みんなに意見を出してもらい、どれが良い悪いではなくて、こういう意見があることを協会へ投げて、議論してもらえたらと考えます。

――JTPUの存在について、JTAはどんな反応を見せているのでしょうか。

内山:JTPUは、2018年12月に発足しました。その数カ月前に、僕と添田(豪)さんと弁護士の先生とで、JTAの福井専務理事と高橋常務理事にご挨拶へ伺って、発足への思いを伝えました。JTAとしても、選手の意見を吸い上げる形を求めており、選手会があること自体は、選手の声を聞けるのでウェルカムだということでした。もちろん、僕らとしてもJTAの対立組織ではないことを念頭に置きながら、建設的な話し合いができるようにしていきたいですと伝えました。JTPUは、JTAにも認めてもらっている組織なのです。

――内山選手は、2020年12月に、添田豪選手から引き継いで、JTPUの2代目代表理事に就任しました。なぜ引き受けたのでしょうか。

内山:1期目の添田さんは探り探りのところがどうしてもあったと思います。僕も理事として一緒に活動し、思った通りにいかないこと、あるいは思った以上にできたことがありました。コロナ禍になって、選手がなかなか試合に行けないとか、練習がままならないとか、トレーニング環境が整わないとか、選手にとって不都合が多い中で、何とかそれらを僕は改善したいなと思っていました。僕自身、いろんな角度からテニスをもっと見たいなという気持ちもありましたが、代表になって、より責任を持っていろんな人と関わることで、テニスへの見方が広がるんじゃないかなと思いました。もちろん大変なことではありますが、得るものもすごく大きいと感じましたので、自分から立候補しました(代表の任期は、1期2年)。

――現在、日本の第一人者である錦織圭選手が選手会に加入していない理由を教えてください。

内山:発足前から、錦織さんには話をしていて、(JTPUに)入ってもらいたい思いはあります。僕ら選手からすると、錦織さんはすごい成績を残し、存在感も圧倒的で、全員がリスペクトする素晴らしい選手です。ただ、選手会として、もしかしたら時にはJTAに自分たちの意見を強く言わなければいけない場合もあるかもしれない。例えば、2020年に日本リーグが中止になりましたが、選手会としてはそんな簡単に中止にされては困るということを当然伝えました。仮に、錦織さんが選手会に入っているとしたらどうなっていたでしょうか。僕が思うに、対外的には選手の総意ではなくて、“錦織圭の意見”みたく見えてしまったらあまり良くないな、と。錦織さんに話をした時は、入りたくない訳では当然ないし、コミュニケーションはいつでもとれるので、選手会のメンバーという形にこだわらなくても良い関わり方はあるのではないか、と。だから、錦織さんが入っていないから、(JTPUに)賛同していないというわけではありません。錦織さんは、JTPUを組織として賛同していて、昨年のコロナ禍では、選手会のリレー動画に参加してくれたし、(JTPUのオンラインによる)ファンミーティングに入ってくれて、いろんな話をしてくれた。メンバーじゃないけど、選手会のことに関わってくれていますが、今はもっといい方法がないか錦織さんとの関係性をまだまだ探っているような状況ですかね。
 あと、選手会としては、全日本のことが大きなトピックになりますが、正直、錦織さんは、全日本には全く関係していない。日本での練習環境問題も関係していない。だから、錦織さんとの関わり合いは難しい部分はありますよね。

――将来的に、錦織選手の加入はあるのでしょうか。

内山:可能性としてはもちろん。

日本のテニス大会に、選手やファンが求めているものが組み込まれているか

――2021年9月第2週には、国内テニス大会、JTT大会の一つとして、「Uchiyama Cup」を初開催しました。そもそもの大会設立の目的は、どういったことだったのでしょうか。

内山:僕が小学2~3年生の時に、「ツアーN」というエキシビションマッチ(2000年代前半に東京や各都市で行われていた)を札幌で見たんです。(増田)健太郎さん、岩渕(聡)さん、(鈴木)貴男さん、本村(剛一)さんたちが出ていました。健太郎さんや本村さんと一緒に写真を撮ってもらいました(笑)。僕が、テニスを始めて間もない頃でしたが、間近でプロのテニスを見て、“すごい!”、“自分がしているテニスと同じスポーツじゃない、別次元!”と感じると同時に、“自分も将来こんな風になれるのかな、なりたいな”って。初めて“本物”を見て感じて、その記憶が鮮明に残っていて、それが(大会設立の)きっかけの一つです。
 あと、札幌で開催されていたフューチャーズ大会が2015年で終わってしまい、僕が子供の時に経験したようなチャンスが、今北海道にいるジュニアたちは無くなってしまった。東京だとプロと触れ合えるイベントなどがあって、全然北海道と違うので、これは何とかしたいなと思ったのがきっかけになり、大会をやりたいなと考えました。

――コロナ禍によって、Uchiyama Cupは1年延期になりましたが、当初は国内大会にするのか国際大会にするのか、どういうコンセプトだったのでしょうか?

内山:もともとは、国際大会をやりたかったんです。ただ、自分は現役選手ですので、まず大会運営を知るところから始めなきゃいけないので、第1回目はJTT大会をやろう、と。将来的にITF(国際テニス連盟主催の)大会にすると見据えました。
でも、コロナによって(2020年の)Uchiyama Cupは1年延期になりました。選手会メンバーの大半は試合ができない状態になりました。今でもアジアの大会は無く、遠い海外遠征に出ないといけない状況になり、選手も苦しい状態にある。だから、まずは日本のプロたちが活躍できる場を作る方が先かもしれないと考え、2021年の第1回目はITFのフューチャーズ大会として開催しようと決めて申請を出したんです。ただ、コロナによって日本へ入国の際、入国者は2週間の自主隔離を課されていますので、日本での国際大会はできません。致し方なく、6月頃にJTT大会に変更して開催することを決断しました。
 2022年の第2回Uchiyama Cupは、ITFフューチャーズ大会として開催に向けて再トライです。

――実際開催してみてどうでしたか。手応えや課題は?

内山:大事にしていたのは、選手目線とファン目線で良い大会と言えるかどうか、でした。日本のテニス大会に、選手やファンが求めているものが組み込まれているか。僕自身、国内外の大会に出場していますが、もっとこういうことがあったらいいのになと感じることはある。大会を作っている側としても、僕自身が選手は何が欲しいか一番わかっている立場だと思ってます。
 まず、JOP大会(日本国内大会)だと、審判が準決勝や決勝までつかないんです。セルフジャッジでもめるそうで、そりゃそうでしょって。あと、電子ラインコールの導入によって、審判の現場での仕事も減っているので、(Uchiyama Cupでは)本戦1回戦から審判をつけ、最初の3日は主審だけ、準々決勝以降は線審もつきました。
 もう一つはボールに関して。ATPツアーではボールは6球使用で、最初7ゲーム以降9ゲームごとにボールを交換していきます。(ツアー下部の)チャレンジャーでは4球使用になります。一方、JOP大会では、2球使用で1セットとか4球使用で2セット、これでは選手がいいプレーをなかなかできないだろう、と。
 大会側からすると、審判もボールも削ろうと思えば削れる部分ですけど、僕としては削っちゃだめでしょと思ったので、この2点に関して、いいものを提供したいと考えました。
 出場した選手からは大好評でした。

――今後の「Uchiyama Cup」ですが、将来的なビジョンを教えてください。

内山:将来的には、日本全国いろんな都市でやりたいと思っています。札幌と同じように試合の無い地方都市は多い。ダイヤの原石がより輝くための土台がない状況で、すごくもったいないなと思うんです。もちろんテニスコートを含めて環境が無いとできないですけど、日本テニス界の底上げの可能性があるのではないでしょうか。
 あと、選手が、フューチャーズ大会を転戦するのは、すごく大変なことです。ツアーは大都市で開催され飛行機1本で行けて、ホテル代は大会側負担です。でも、(小さな地方都市で開催されることの多い)フューチャーズは、(交通費も宿泊費も)お金がかかるのに稼げない。もちろん実力社会なので仕方がないですけど、そこを少しでも早く卒業してせめてチャレンジャーまで行って、選手はもまれるべきです。
 日本にもっとフューチャーズ大会があれば、そこでポイントを稼いでから海外のチャレンジャーに挑戦できる。たとえ跳ね返されても、もう一度日本でやり直してから海外へ再トライして、チャンスがあればグランドスラムやATPツアーの予選に挑戦していく。そういう土台が日本にあれば、日本男子選手の底上げがよりできるはずで、少なくとも(世界へ)挑戦できるチャンスは得られるはずです。挑戦して初めて自分に足りないところ、次につなげられることなどわかることもあるんです。
 だからこそ、日本でもっと大会を増やしたいと思っています。すごいスターが生まれるかはわかりませんが、選手たちの可能性はどんどん広がると思うんですよね。

テニスを好きな人が増えてほしいし、テニスでハッピーになる人が増えてほしい

――内山選手は、日本テニス界へ危機を感じることはありますか。

内山:めちゃくちゃありますね。コロナによるツアー中断明けから、僕も含めて日本男子選手が活躍できていない。今の世界のトップでは、身長190cm以上の選手でもすごく素早く動けますからね。あと、アジアでツアーがないので、欧米に行かなければなりませんが、欧米のサーフェスは比較的球足が遅くてバウンドが高く、日本で練習している環境と異なり、ずっとアウェーで戦っている感じです。もしかしたら、ツアー中断中に日本男子とツアーレベルとの差が開いてしまったのかもしれないですね。

――メディアの伝え方にも責任の一端はありますが、錦織選手と大坂なおみ選手が、世界のトップレベルで活躍するだけでは、日本でテニスがメジャースポーツになっていくには限界があるように思うのですが、選手側からはどう感じますか。

内山:個人的な意見ですけど、錦織さんやなおみちゃんにフォーカスしてメディアが報道することに関しては、当たり前だろ、と思うんですよね。そうしてもらえることで、逆に世間ではテニスがニュースとして取り上げられる。それがきっかけで、テニスを始める人がいるかもしれないし、テニススクールに行ってみようと思うかもしれない。そういったところが、テニスマーケット全体を動かしていると思う。もしそれがなかったら、(選手が)スポンサー企業から契約金をいただけないとか、遠征もままならないとか、メーカーから用具を提供してもらえないとか、そういったことになりかねない。だから、僕は(メディアによるテニスの取り上げ方について)問題だと思っていません。

――世界のツアーレベルで、ポスト錦織をはじめ、もっといろいろな日本選手、特に若手選手が出てこないといけないようにも思いますが、いかがですか。

内山:男子では、錦織さんに続く選手がまだ出てきていないのが問題です。これは、完全に選手の責任です。錦織さんが、世界のトップレベルへあれだけ突き抜けてくれたので、僕らはトップ10の選手と練習できる機会が生まれたんです。いろんな話をして、すごく得るものが多かった。それによって、日本男子全体のレベルを引き上げてもらった。いい意味でも悪い意味でも、世間の求めるテニスの戦績のレベルは上がっていると思うので、僕らはそれをエネルギーにして、もっとレベルアップしないと底上げにはなっていかないんじゃないでしょうか。
  僕が言うのもおこがましいですけど、西岡(良仁、26歳)より下の選手の突き上げがあまり感じられないのは正直ありますね。若い選手は、ベテラン選手に向かってテニス的に食ってかかっていくような意気込みをもってやんなきゃいけない。自分も22歳ぐらいまで日本のナショナルチームの先輩たちに全く勝てず、23歳から勝てるようになったので、今の若手の気持ちもわかる部分はありますが、先輩たちが引退していくのを待つのではなくて、若手が伸びてきたから引退を考えさせるような勢いは欲しいですね。

――29歳でJTPUの代表理事になった内山選手のような若きリーダーがアクションを起こしてくれているのは歓迎すべきことだと考えますが、内山選手は、どんな日本テニスの未来を創っていきたいですか。

内山:選手としての現役生活はあと10年ないと思っているので、その中で持てるすべてを出しきらないといけない。同時に、自分の人生は、テニスが終わってからの方が長いので、その時にもどんな形かわからないけどテニスに携わっていたい。選手としてだけでなく、いろんなテニスの見方を経験したうえで生まれる感謝がある。例えば、大会で当たり前のように用意されている水、潤沢に提供される練習ボール、大会ストリンガーがたくさんいること、すべて有り難いことです。選手としてだけでなく、新しい楽しみ方も見つけたいというか、その中で、将来自分が何かしら残せるものがあればいいな。今思いつくことが、選手会の代表理事をやったり、大会を作ったりすることだったりします。僕は現役生活が中心なので、大会づくりに必要な本来の労力の数割しかできていないので、サポートしてくれる人々のヘルプが無いと絶対できないことなので感謝していますし、今自分ができる範囲で挑戦していきたい。やっぱり僕はテニスが好きなので、テニスを好きな人が増えてほしいし、テニスでハッピーになる人が増えてほしいという思いが根本にあります。いろんな形を探っていきたいですね

神仁司

著者プロフィール 神仁司

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)勤務の後、テニス専門誌の記者を経てフリーランスに。テニスの4大メジャーであるグランドスラムをはじめ数々のテニス国際大会を取材している。錦織圭やクルム伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材も行っている。国際テニスの殿堂の審査員でもある。著書に、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」がある。ITWA国際テニスライター協会のメンバー 。