2019シーズン、Jリーグの外国人枠の規約に大きな変更があった。2018シーズンまでは登録できる外国人選手の数は最大5名かつ、メンバー入りできるのは3名+AFC(アジアサッカー連盟)加盟国の国籍を有する選手1人となっていた。しかし、2019シーズンからは外国人選手の登録数は無制限となり、メンバー入りできる選手はJ1が5人まで、J2、J3は4人までに変更となった。そして、アジア枠は撤廃されている。

さらには、2014シーズンから設けられたJリーグの提携国枠制度によって、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、マレーシア、カタールの国籍を有する選手に関しては日本人選手と同様の扱いとなり、外国人枠から除外されるため、スターティングメンバーの半分以上を外国人選手とすることも可能である。そんな中、以前からJリーグではブラジル人選手が多く、その活躍も目立っていた。なぜ、日本にブラジル人選手が多いのだろうか。そこには、様々な理由が隠されていた。

Jリーグにブラジル人選手が多い最大の要因は税金や年俸などの金銭面

2020シーズンのJリーグでは多くのブラジル人選手がプレーし、その数は100人を超えた。そして2021シーズンに向けた今オフの補強でも、FC東京が元ブラジル代表のブルーノ・ウビニを獲得、また横浜F・マリノスがECバイーアからエウベル、ECヴィトーリアからレオ・セアラを獲得するなど、多くのブラジル人選手が新加入し、既にJ1だけで50人以上のブラジル人選手がプレーすることが決まっている。

それだけ多くのブラジル人選手がJリーグでプレーする理由の大きな要因の1つに、日本とブラジルの間で結ばれる租税条約がある。この条約は二重課税を防ぐためのもので、ブラジル人選手は、軽減税率や一部免税措置の対象となる。そのため、租税条約の結ばれていない国でプレーするよりも日本でプレーするほうがブラジル人にとってメリットは大きいということになる。

そして、ブラジルではプロ登録選手数は約11000人~14000人でプロサッカークラブは約700クラブだという。そのため、ブラジル国内でプロ選手として生き残り、ステップアップしていくのはハードルが高いため、多くの選手が他国でプレーする道を選ぶ。

スイスのサッカー専門調査機関『CIES Football Observatory』によると、2019年に海外でプレーしたサッカー選手の出身国別ランキングで1位のブラジルは2742人もの選手を輸出している。

また、2020シーズンのJリーグの年俸ランキングで名古屋に在籍したジョーがアンドレス・イニエスタ、トーマス・フェルマーレンに続き3位、ヴィッセル神戸のドウグラスが4位タイにランクイン。それ以下のランキングでもブラジル人選手の名前が目立ち、このことから、年俸も高水準であることが分かる。また、とある関係者に話を聞いたところ、2005年に大宮アルディージャに加入した後、Jリーグ6クラブでプレーし、昨年に東京ヴェルディで現役を引退したFWのレアンドロは、病気の母を助けるため、待遇の良い日本でプレーする道を選んだという。もちろん、金銭面以外にも日本移籍を決断した理由はあっただろうが、やはり金銭面の影響は大きいだろう。

このように、ブラジル人選手が日本に多く在籍する理由は税金や年俸など金銭面での優遇があることが大きな要因の1つであるのだ。

金銭面以外にも親日や治安、活躍した選手の存在など、様々な背景が

Jリーグにブラジル人選手が多いのは税金や年俸など、金銭面の優遇が大きいが、その他にも多くの理由がある。Jリーグが開幕した1993年にはジーコやドゥンガなど、当時から多くのブラジル人選手がJリーグでプレーしていた。そして、ラモス瑠偉や呂比須ワグナー、三都主アレサンドロのようにブラジル出身で日本国籍を取得し、日本代表としてプレー経験のある選手の存在も大きいだろう。

元々、明治時代にブラジルに移住した日本人の影響もあり、親日国家として知られるブラジルだが、サッカー選手にとっても日本やJリーグは身近な存在といってもいいだろう。選手が移籍する際はチームメイトや友人の選手に相談することも多くあるが、プレーした選手が多い分、情報も容易に手に入れることができる。そして、クラブ間でも過去に交渉した例があると、少なからずやりやすい部分はあるはずだ。

その他にも、東京ヴェルディや川崎フロンターレに在籍したフッキやベガルタ仙台に在籍したボルジェスのように、Jリーグでのプレー経験後にブラジル代表に選出された例もある。さらには、2017シーズンにアルビレックス新潟でプレーしたホニは2018シーズンから2020年の2月までアトレチコ・パラナエンセでプレーし、その後、名門のパルメイラスに移籍。先日のコパ・リベルタドーレス優勝に大きく貢献するなど、Jリーグを経て大きくステップアップを遂げた。こうした例もブラジル人選手のJリーグへのイメージを良くすることに繋がっているのではないだろうか。

また、ガンバ大阪のパトリックはこれまで、川崎フロンターレ、ヴァンフォーレ甲府、サンフレッチェ広島、ガンバ大阪の4つのJリーグチームでプレーしているが、同選手は日本をとても気に入っており、家族で移住し、日本国籍の取得も目指しているようだ。そして、自身のTwitterに日本語を勉強している様子やプライベートの様子も投稿しており、日本での充実した生活の様子が伺える。さらに、パトリックはブラジルメディアのインタビューで、「日本は治安が良いため、小学生の息子が1人で外に遊びに行っても安心できる」と語っており、治安の良さにも言及している。家族のいる選手にとって、移籍は選手本人だけでなく家庭の問題にもなりえるため、家族で移住する場合は治安の良さや文化なども、プレーする国を選ぶ判断材料になることもあるだろう。

元Jリーガーのブラジル人がJFL以下のクラブに移籍した例も

Jリーグでは、多くのブラジル人選手がプレーしているが、近年では、JFLやその下の9地域リーグでもブラジル人選手を獲得する動きが出てきている。

現在、5部リーグに相当する栃木シティFCに所属するジョン・ガブリエルは2017年にクルゼイロからSC相模原に加入。その後、2019年に栃木シティに期限付き移籍し、2020年はJ3の鹿児島ユナイテッドに移籍するものの、2021年に栃木シティに完全移籍で加入した。その他にも、2019年に九州リーグのヴェロスクロノス都農(今シーズンよりクラブ名称を変更、元「J.FC MIYAZAKI」)に加入したブラジル人MFヒューエル・オリベイラは、2020年1月、湘南ベルマーレに完全移籍後、JFLのFC大阪にレンタル移籍を経て、同年10月に湘南に復帰を果たした。

そして、ブラジル選手の地域リーグクラブへの加入で最も衝撃的だったのは、2008年から2010年まで川崎フロンターレに所属し、56試合21得点を記録したレナチーニョが、2017年に関東1部リーグのVONDS市原に加入したことだ。ロビーニョ2世ともいわれる同選手は2010年に川崎を退団後、ポルトガルのポルティモネンセやタイのチェンライ・ユナイテッドFCなどでプレーしたのち、2017年にポルガトルのヴァルジンS.C.から関東1部リーグのVONDS市原に加入した。その後、2019年まで同クラブでプレーしている。Jリーグでも活躍した選手が地域リーグのクラブに加入することは異例で、当時注目の的となっていた。

2021シーズン関東リーグを戦う某クラブの関係者に話を聞いたところ、日本人選手はサッカー以外の仕事もしているが、ブラジル人選手はクラブからの給料のみで生活をしているとのこと。地域リーグのクラブでも助っ人外国人選手はサッカーだけの収入で生活することができる場合もあるようだ。今後、日本でプレーするブラジル選手達はJリーグやその下のカテゴリのリーグでどのようなプレーを見せるのだろうか。今後に注目していきたい。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。