到着した北京首都国際空港は、一般客と動線が分けられているため、同じ飛行機で来た乗客以外の利用者は見当たらず、見事なまでに閑散としていた。白い防護服に身を包んだ職員に出迎えられ、2メートル以上の間隔を空けるなど細かく指示されながら入国手続きを進めた。入国するためにはワクチン接種の証明書と96時間以内に2度受けたPCR検査の陰性結果を国内で事前に大会専用アプリに登録する必要があり非常に煩雑だったが、そのおかげか、入国審査は意外なほどにスムーズだった。入国直前にPCR検査のため、鼻の奥と口腔内から綿棒で献体を採取された後、消毒液を噴霧された手荷物を受け取り、滞在先ホテル行きのバスへ向かった。
部屋で3時間ほど待つと、電話で検査結果が陰性だったことを知らされ、そこから取材活動がスタートとなったが、「クローズドループ(閉じた輪)」と呼ばれる外部との接触を遮断したバブル内しか行動はできない。基本的な考え方としては東京五輪と同じだが、日本選手団の伊東秀仁団長が「東京大会よりもはるかに厳しい」と言うように徹底ぶりが違う。東京五輪では隔離期間中とみられる海外メディアがコンビニで買い物をするニュースも流れていたが、今回は不可能だ。ホテルの周りは「閉環管理区域」と書かれたバリケードで囲まれ、徒歩で施設外に出ることはできない。例えば、ホテルから道路を隔てて徒歩3分ほどで到着する真向かいの試合会場へ向かうためにも専用のバスに乗っていくつものゲートを通り、10分ほどかけて移動する必要がある。
専用タクシーにも乗ったが、「外の空気を」と思い、ボタンに手を掛けると「窓は開けないでくれ」と注意を受けた。聞けば、大会組織委員会から指示を受けているという。市民とのわずかな“空気”の接触も許さない徹底ぶり。さすが中国だと感心させられるが、今大会のパンダのマスコットとともにスローガン「一起向未来(共に未来へ)」と書かれたポスターはいたるところで見られるが、その熱気は残念ながら肌で感じることはできない。タクシー運転手も大会終了後、バブル外の自宅に戻る前には21日間の隔離が必要になる。それでも運転手は「大会を成功させるためには仕方のないことだよ」と笑顔を見せてくれた。
行動範囲は試合と練習会場、ホテル、世界中のメディアが集まるメインメディアセンター(MMC)だけ。当然食事も「街中の中華でも」とはならない。ホテル内のレストランやMMCの食堂を利用することになるが、日本では1000円かからない中華弁当が3000円程度。すでに食費の問題が頭痛の種になっている。もっとインスタント麺やレトルト食品を買い込んでくればよかったと考えても後の祭りだ。ただ、これまでの五輪にはなかった食堂の機械化は新鮮だ。水餃子や揚げ物をつくる全自動販売機や調理した料理を天井に設置されたレールをつかって席まで配膳してくれるシステム。ほかにも自動でカクテルをつくってくれる“バーテンダー”もおり、注文した関係者は次々にスマートフォンで撮影していた。ホテル内では「除菌率99・9%」と書かれたロボットがホテルのロビーやエレベーターを自動で動き回り、消毒液を定期的に噴霧して回る。時折、場所によっては足元を取られるくらいほど入念にまかれている。
入国してからも大会期間中は1日1回、必ず口腔内から検体を取られて検査を受けなければならない。日本国内はしかり、世界中で感染者が爆発的に増加している中、よく関係者が口にする「いま世界で最も安全な場所だな」というのは過言ではないなと、至る所で感じさせられる。
さて、観客だが、東京大会ではほとんどの会場で無観客だったが、今大会は一般市民を含めた招待客の観戦を認めている。国際オリンピック委員会(IOC)のクリストフ・デュビ五輪統括部長は屋内か屋外かで差はあるものの「(定員の)3人に1人か、2人に1人になれば良い結果だ」と述べている。一般市民が入る観客席はバブル外にあたるので、アクリル板を設置して隔てるなどの準備が進む。当然、海外からの観客は入れないが、デュビ氏は「選手に少しだけでも活気を提供できる」と期待。東京大会に続く、異例の祭典がまもなく始まる。
「東京大会よりもはるかに厳しい」 厳戒態勢の中の異例の五輪取材で待ち受けるものとは
新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン」が世界的に感染急拡大する中、北京冬季五輪が本日、開幕する。「ゼロコロナ」政策を掲げる中国は、昨夏の東京大会を遥かに上回る厳戒態勢で感染の抑え込みに躍起となっている。1月下旬、羽田空港から報道陣らを乗せたチャーター機で北京入りした。
競技会場は柵で囲まれている。厳戒態勢の中の異例の祭典が幕を開ける (C)共同通信