今季のDeNAの“変化”で話題となっているのが、石井琢朗野手総合コーチ(51)、斎藤隆チーフ投手コーチ(51)、鈴木尚典打撃コーチ(49)という前回リーグ優勝、日本一に輝いた1998年を知る“レジェンド”の指導者としての集結だ。そこに起因する“変化”として、まず2月1日の初日から見られたのが、練習のメニュー表だった。

 選手や報道陣に配布される印刷物には選手ごとにその日行うメニューが記されているのだが、最下段には昨年まではなかった「キャンプ1DAYテーマ」という欄が設けられた。各コーチが考えた「狙い」が、同欄に記されており、例えば初日なら「打撃:振り抜く」「走塁:動作確認、落とし込み」といった具合だ。「より具体的に『目的意識』を持てるようにする取り組み」とチーム関係者。目的意識、つまり「これが何のための練習か」を意識して取り組むことで練習効率が上がるというのは、常識ではあるが意外と見過ごされがちなこと。勉強や仕事にも共通するもので、IT企業であるDeNA本社でも重視されている考え方なのだという。

 それが、分かりやすく表れたのが投手陣の練習だった。第1クール(2月1~4日)で投手の欄に記された「キャンプ1DAYテーマ」は「【ストレートのみ】枠内で勝負する意識を持ち再現性&修正力を身につける」。文字通り、今永昇太(28)、東克樹(26)、山崎康晃(29)ら主力を含む計10投手が次々とブルペン入りする中、全員が直球のみを投げ続けた。

 これは、三浦監督と斎藤コーチが相談して決めたテーマで、斎藤コーチは「ストライクゾーンで打者と勝負できる投手になってほしいので、そういう意識付け」と狙いを説明する。三浦監督は、今キャンプで投手陣の最終目標として「80%以上の場面で投手有利のカウントをつくる」ことを掲げており、昨季12球団ワーストのチーム防御率4.15とリーグ最下位に低迷した一因となった投手陣の再建において、まさに「意識付け」が徹底されている。

 打撃のメニューでも練習前の円陣で石井コーチが狙いを説明する場面が目立ち、やはり「目的意識」が重要視されている。個々の能力に優れるDeNAの打者陣に対し、チームとしての得点力向上を求め、チーム単位での打撃練習を増やしているのも、広島、巨人で実績を積んだ指導者ならではのメソッドだ。一方で、躍進が期待される高卒3年目の遊撃手・森敬斗(20)ら若手には積極的に個別指導し、送球の極意や打撃で「ボールの内側をたたく」ことの重要性をことあるごとに説く。また、2月13日のケース打撃では昨季までのプロ9年間で犠打を1本も記録していないベテランの宮崎敏郎(33)にバントのサインが出る場面もあった。

 昨季リーグでいずれも2位となるチーム打率.258、559得点を記録したものの、連打や本塁打で大量得点を奪う圧巻の破壊力を見せたかと思えば、ひとたび相手のペースにはまると1点すら奪える気配がなくなるのが、ここ数年の変わらない課題といえる。単調な攻撃からの脱却へ、ここでも「意識」の変化を促す取り組みが明確な形で進められている。

様々な“変化”をみせたキャンプを経て実践へ

 「目的意識」とともに目立つのが「競争意識」だ。佐野恵太(27)、桑原将志(28)、タイラー・オースティン(30)と外野に昨季打率3割をマークした打者3人(オースティンは規定打席に4足りず)を並べるなど、元々強力なオーダーを誇るチームだが、今キャンプでは日本ハムを戦力外となった大田泰示外野手(31)、楽天から復帰したベテランの藤田一也内野手(39)に加え、コロナ禍の影響で昨季は開幕に一人も間に合わなかった外国人も初日から合流を果たした。オースティン、ネフタリ・ソト外野手(32)、エドウィン・エスコバー投手(29)らが順調に調整を進め、今後は抑え候補の新外国人ブルックス・クリスキー投手(28)も政府の入国制限が緩和され次第、来日する予定。けがや不調で昨春のキャンプでは2軍調整となった今永、東、山崎も2年ぶりに1軍キャンプでスタートし、戦力面での充実ぶりは昨季を大きく上回る。

 その中で、三浦監督は今季初実戦として行われた2月12日の紅白戦前に異例といえる1、2軍の合同ノックを実施。さらに、その紅白戦も宜野湾と嘉手納に分かれていた1、2軍が対戦する形で行い、競争をあおった。守護神復帰を目指す山崎と三嶋にも横一線を強調してハッパを掛け、それに応えるように2人は早速第1クール最終日に並んでブルペン入りして“競演”するなど意識し合っている。佐野が同13日に右脇腹の肉離れで離脱するアクシデントも起こったが、ここでは同じ外野の大田を補強し選手層に厚みを加えていたことが早くも意味を成す形となった。

 他にも、“変化”はある。今キャンプには横浜、ヤクルト、巨人、ロッテでコーチを歴任し、コーチングアドバイザーとして18年ぶりに古巣に復帰した小谷正勝氏(76)が参加。現役時代の三浦監督や斎藤コーチ、元横浜の佐々木主浩、元巨人の山口鉄也ら多くの名投手を育てた名伯楽は、三嶋にシュートを伝授したり、こちらも抑え候補に挙がるプロ3年目の伊勢大夢投手(23)を熱血指導したりと、投手陣の再建に尽力している。

 これまでは、ともすると指導者の“補強”にあまり目が向けられていない面も感じさせた球団に、名実ともに第一人者と呼べる存在が加わり「いろいろなことに集中できる環境」と、その変化を歓迎する声も選手から上がる。2軍監督として仁志敏久氏(50)が加わった昨季から、指導者の育成、OBの価値の最大化をフロントが意識している傾向はみられたが、それが今季はさらに色濃くなったといえる。適材適所の補強や、外国人の早期来日など、昨季までの反省をしっかりと活かし、前進を図る。

 昨季のスローガン「横浜一心」を経て、今季掲げるのは「横浜反撃」。チームとフロントが「一心」となり、「反撃」を実行できるか。確かな“変化”を見せたキャンプを経て、いよいよ実戦へとフェーズが移る。


VictorySportsNews編集部