“体操ニッポン”伝統の美しい演技を持ち味とし、同じ大学3年で東京五輪2冠の橋本大輝(順大)とともに世界選手権代表(10~11月・英リバプール)に初選出され「(橋本は)雲の上の存在過ぎて、ライバル視するのも図々しいくらいだと思っているんですけど、やっと少し近づけたかなという思いですね」とトレードマークの笑顔をひときわ輝かせた。

 演技の正確さが別格だった。「一般の方が見ても、体操うまいなという演技を目指してきた」との言葉どおり、出来栄えを示すEスコア(実施点)の合計は全日本選手権決勝に続いて全体トップ。得意とする1種目目の床運動では切れ味鋭いひねり技を両足の先まできっちりとそろった実施で着地もぴたりと止めて見せ、全体1位の14・733点の高得点をマークして勢いに乗った。全日本上位6人が一緒に回る初の1班という重圧は一切感じさせず、跳馬、平行棒も飄々とした演技で14点台後半を並べると、最後の鉄棒も離れ技の「コールマン」などを華麗に決めて締めくくった。

 福岡県出身。7歳で移り住んだ岡山市で体操を本格的に始めた。小学校時代からトランポリンで築き上げた空中感覚は橋本が「ずば抜けている」と絶賛するほどで、土井自身も「空中で自分のいる位置がちゃんと正確に分かる」と語る。関西高校時代からその才能は注目を集め、2019年6月にハンガリーで行われた第1回世界ジュニア選手権では日本の団体総合優勝に貢献し、個人総合では優勝した岡慎之助(徳洲会)に次いで銀メダルに輝いた。しかし、常人離れしたひねり技は足首に大きな負担が掛かるもろ刃の剣。けがで伸び悩む時期もあって昨年の東京五輪代表選考には間に合わず「大輝がああやって、世界の舞台でもノーミスでちゃんと結果を残しているので一人の人間として尊敬しました。でも同期という部分ではすごく悔しかった」と振り返る。

 2024年パリ五輪へ向けた新シーズンに入る直前の出会いが大きな転機となった。2012年ロンドン、16年リオデジャネイロ両五輪で個人総合2連覇を果たした〝体操界のキング〟内村航平さんが、母校の日体大を拠点として活動。後輩の指導にもあたり、土井もほぼ毎日、金言に触れてきた。内村さんが世界選手権で金メダルを取ったこともある床運動に関しては「好きにやったらいい」と評価される一方、「練習の仕方が駄目だ」と厳しい助言を受けた。大きく変わったと言うのが、試合前日の練習だ。これまで強度の高い練習で調整をしていたが「ちゃんと確認するんじゃなくて、自分が不安なところだけを確認してみたらどうか」。試合での体の動きが軽やかになり、4月の全日本からほぼミスのない演技をそろえ「思った演技ができるようになった」と効果は一目瞭然だった。

 内村さんについて「正解に導いてくれる師匠」と形容するのに対し、「笑顔にさせてくれる先生」と感謝する存在がリオ五輪団体総合金メダルメンバーの白井健三だ。昨年現役引退後、日体大コーチとして伸び悩む愛弟子の精神面を支え続けてきた。全日本前には「あんたの持ち味は笑顔だよ」と送り出され、「リラックスして自分の演技に集中することができた」。

 自身を彷彿とさせる空中感覚で台頭する教え子へ、高校生で世界選手権を経験した白井さんは「これだけいい体操をする子ってほとんど日本にはいない。美しい体操が一要素ある選手はたくさんいると思う。そこにスピードが乗ってきたり、勝負強さがそろっている選手は数えるほど。何が足りないかと言うと経験が圧倒的に足りない。自分の中で難しいことや苦しいことってあると思うんですけど、それは代表で経験しないといけない。日本代表ってこんなものなんだなと彼の中でつかんでほしい」とエールを送る。

 今後の課題は世界のトップと比べると見劣りするDスコア(演技価値点)の向上だ。日本体操協会の水鳥寿思男子強化本部長も「このまま(世界で)勝てるとは正直思えない」と話す。その上で、今回跳馬で跳んだ「伸身ユルチェンコ2回半ひねり」よりも難度の高い3回ひねりの「シライ・キムヒフン」や鉄棒ではG難度の「カッシーナ」も練習で成功させていることを明かし、「そのあたりをしっかりやっていくと一気に日本のエース、もしかしたら世界の中でもトップクラスの選手に躍り出る可能性を秘めている」とさらなる飛躍へ期待を寄せる。

 試合後の場内インタビューで「スタートラインに立ったと考え、また一から頑張る」と語った土井。産声を上げたばかりのエース候補がどこまで駆け上がっていくのか注目だ。


VictorySportsNews編集部