結成2シーズン目、最大の目標だった2月の北京冬季五輪代表を逃し、3月の世界選手権後も進退を明言していなかった。36歳の高橋と29歳の村元、ベテランの領域に入った人気カップルが新たな一歩を踏み出すに至った経緯は何だったのだろうか。同日にオンライン配信で2人が語った言葉とともにひもといた。

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 2018年7月に4年ぶりの現役復帰を表明した際は「(シングルで)1年限定のつもり」と語っていた高橋だったが、20年1月に18年平昌五輪にも出場した経験豊富な村元とのカップルを結成。「アイスダンスを知れば、自分のスケートの価値観がもっと広がるのでは」との期待を胸に、ジャンプを跳ばず、滑りをとことん追究した未知の世界に足を踏み入れた。小松原美里、小松原尊組(倉敷FSC)との熾烈な争いの果てに五輪代表1枠にはわずかに及ばなかったが、異例の挑戦を続ける〝かなだい〟の今季の活躍は目を見張るものがあった。

 昨年11月のワルシャワ杯で日本勢最高得点を更新すると、初の主要国際大会となった1月の四大陸選手権では日本勢過去最高の2位。まだアイスダンサーの体ができていなかった転向1季目にはなかったリフトの力強さで魅せられるようになった高橋は表彰式後「やっとこう世界と戦えるようになったと感じることができた。シングルの時の表彰台を狙う緊張感を懐かしく思い出しながら、アイスダンサーとしては違った緊張感で戦った。昨季から考えると、表彰台は想像も付かなかった」と言葉を噛み締めるように言った。そして「100%の演技ができなかった悔しさがすごくあった。そんな自分にびっくりしている自分もいた」と言葉をつなげ、村元も「日本最高成績で2位というのはすごくうれしい。でもまだまだ自分たちができるというのが悔しいという気持ちがまだあるので、自分が思っている以上に世界ともっと上を戦いたいのかなと感じている」と、ともに創り出す世界観を楽しんでいるようだった。

じっくりと自身と向き合い、出した結論

 日本勢過去最高となるトップ10入りを掲げて臨んだ3月の世界選手権では上位との力の差を痛感する16位。ただ、世界王者にも輝いたシングルから転向してわずか2シーズンでたどり着いた初舞台を演じきった高橋は「出来としては満足いく演技ではなかった中で、こういった順位にいるってことは、完璧な演技をすれば、もう少し上にいけたんじゃないか。まあタラレバですけど、アイスダンスのカップルとして認められたのかなと、結果を見れば思います」と確かな手応えを感じ取っていた。2年以上師事してきたマリーナ・ズエワ・コーチからも続行すべきと後押し。しかし、以前から「お互いの気持ちがマッチしないと成り立たない」と語っていた2人。高橋は「2年間突っ走ってきたので、気持ちにバケーションをあげて考えたい」と来季以降については結論を急がず、じっくりと自身と向き合った。

 4月初旬から始まった「スターズ・オン・アイス」の期間中は、来季の話はしなかったという。一切の雑念を排してファンに最高の表現を届けることだけに集中した。すると、その中で村元は天啓を受けたような感覚に陥った。今季、アイスダンス界に衝撃を与えたソーラン節を使ったリズムダンスで「楽しんで踊っている、じゃないけど、表現して、魅せるということを互いに感じられた。これだ!というのを感じられた」。アイスショー最終日には「大ちゃんと表現して滑ることが楽しい。大ちゃんとどういった世界を表現できるか、つくり上げていきたいか」との熱い思いを伝えた。気持ちは高橋も同じだった。冷静になって今後の姿をイメージした時に「やらないという選択肢は出てこなかった」。覚悟は決まった。

 「とりあえず1年。自分が25歳なら4年後(の五輪へ)このままいこうかとなると思うけど、40歳になる。体と精神とのバランスを保つのも簡単ではない。とりあえず1年やってみて、その後にどう思うかという感じでやっていければ」と高橋。すでに米サンフランシスコで新たなエキシビションの振り付けを行うなど、来季へ向けて始動している。

 来年3月にはさいたまスーパーアリーナで世界選手権が開催される。2014年にも開催されたが、高橋は右膝故障で欠場を余儀なくされ、そのまま現役引退を決断。日本のファンの前で滑ることがかなわなかったとの思いは人一倍強いものがある。その舞台への切符をつかむためにも「まずは全日本選手権で優勝かな」。”かなだい”にしかできない表現は今季どこに行き着くのか。心待ちにしたい。


VictorySportsNews編集部