今年は実に3年ぶりの開催となった。コロナ禍でここ2年は殿堂メンバーの選考のみに控えていたのである。「トリロジー(3部作)」と銘打ち、3年分まとめてだから錚々たるメンバーが集まった。

 フロイド・メイウェザー、ウラジミール・クリチコ(ともに2021年の選出)、バーナード・ホプキンス(2020年)、ロイ・ジョーンズ・ジュニア(2022年)などなど、ほかにも一時代を築いた名ボクサーが名を連ねた。

 ちなみにボクシング殿堂はひとつだけではない。カナストータより先輩の「世界ボクシング殿堂」(ロサンゼルス)や、アメリカではニュージャージー、ネバダ、フロリダなど州単位の殿堂制度もあるが、常設のボクシング博物館があり大規模な殿堂セレモニーの運営で年々存在感を高めてきたのが「国際ボクシング殿堂」である。

ニューヨークの片田舎に殿堂がある理由

 なぜラスベガスやアトランティックシティなどのボクシングタウンではなく、ニューヨークからも離れた片田舎に殿堂があるのか。

 カナストータはもともとカーメン・バシリオ(1950年代に活躍した元世界ウェルター、ミドル級王者)、ビリー・バッカス(元世界ウェルター級王者)という2人の著名選手を生んだ土地である。ある時、エド・ブロフィーという村のボクシングファンが、このおらがヒーローを顕彰したいと考えたのがきっかけだ。ブロフィーは有志を募り、村と掛け合って1989年に博物館をつくった。そして翌年、第1回セレモニーが行われたのである。

 殿堂入りする選手と関係者は、世界中の選考委員(ボクシング記者と評論家)から投票を受け、モダーン、オールド・タイマー、パイオニア、関係者、オブザーバー、そして2020年からは女子も加え、各部門で選出されている。いずれも、ボクシングにどれだけ貢献したかが選考の基準だ。

あのシルベスター・スタローンも殿堂入り

 殿堂セレモニーはヒットし、カナストータは今や名所と呼ばれるまでになった。毎年6月のイベントにはチャンピオンのほかファンも多数集まる。カナストータ高校ではコレクター同士のボクサー・グッズの交換会や即売会が開かれるほど。グローブや試合プログラム、チケット、カードにポスター……ボクシングファン垂涎のお宝がずらりと並ぶ。そんなファンたちは、仮に殿堂入りしていないチャンピオンであっても温かく歓待するのが常だ。

 一方でセレモニーの規模が大きくなればなるほどお金もかかる。2011年に映画俳優のシルベスター・スタローン(ロッキー)が殿堂入りしたが、近年とくに新規メンバーに有名選手(人)が選ばれがちなのは、イベントの集客を当て込んでいるからだと囁かれているのも事実だ。

ご法度破りがいまだに出ていない殿堂の名誉

 第1回以降、モダーン部門では約150人が選出された。数字を見て多い印象を受けるかもしれないが、世界タイトルを獲るよりも難しい。海外の試合などでは、選手紹介の際に「未来の殿堂入り選手」というフレーズが用いられることもしばしばである。

 選手にとっていかに名誉であるのかは、冒頭のメイウェザーの涙からも容易に察せられる。「私はたくさんのことを成し遂げたが、これは格別だ」。現役時代に世界タイトルを何度も獲得した男はそう言い、父親のフロイド・シニアに向けた感情的なスピーチを行った。父がいなければ今の自分はいなかった、と語ったのだ。

 2017年のプロ50戦目(対コナー・マクレガー)の後はエキシビションのリングで稼ぎまくる“マネー”マンにはプロボクシング復帰の噂も付きまとうが、今回の殿堂入りでその可能性もなくなったと言えそうだ。殿堂入りしたボクサーがカムバックしたケースは皆無のはずである。一度目の引退から10年経過してカムバックし世界ヘビー級王者に返り咲いたジョージ・フォアマンでさえ、殿堂入り(2003年)後は“ご法度破り”をしていないのだから。


VictorySportsNews編集部