世界4冠

卓球をするには申し分のない環境で生まれ育った。両親ともに選手で、男子ジュニア日本代表の元コーチを父に持ち、母は世界選手権の元代表選手。張本美和が競技を始めたのは2歳の時だった。全日本選手権では小学2年生以下のバンビの部、4年生以下のカブの部などを制する一方、10歳の時に出場した2019年大会では早くも一般の部で社会人選手を破り、才能の片鱗を披露してきた。

国際大会で鮮烈だったのが昨年12月にポルトガルで開催された世界ユース選手権。U―15(15歳以下)の部でシングルス、ダブルス、混合ダブルス、団体とタイトルを総ざらいした。身長165㌢と海外勢にも引けを取らない体格。フォアハンドの威力が増した上に、強烈な回転のかかったバックハンドレシーブ「チキータ」の習得に取り組むなど、豊かな向上心が支えとなっている。「シニアで日本だけではなく、世界でも戦える選手になれるよう努力していきます」とのコメントも頼もしい。

日本のトップ選手が軒並み参戦しているTリーグには、神奈川の一員として18~19年シーズンから参戦。昨年9月の日本生命戦ではシングルス初勝利を13歳の最年少記録で成し遂げ、存在感を示した。その前の月には神奈川・川中島中の1年生として出場した全国中学校体育大会で優勝といろいろなシーンで着実に結果を残している。
最近でもさらなる飛躍。8月上旬の世界ツアー、コンテンダー・チュニス(チュニジア)で、兄とコンビを組んだ混合ダブルスで台湾ペアを破って頂点に立った。女子シングルスでも日本勢でただ一人、決勝に勝ち残って準優勝。勢いはとどまるところを知らない。

両立

昔でいうと福原愛さん、そして伊藤美誠(スターツ)、平野美宇(日本生命)ら近年の日本女子を引っ張ってきている面々も幼少の頃から注目されてきた。あどけない容姿ながら年上を相手にラリーを展開。試合に勝って喜んだり、負けて悔し涙を流したりする場面がテレビで放映され、人気を博してきた。上記の3人はいずれも五輪のメダリストになった。張本美和の場合は、兄の方が子どもの頃から関心を呼んでいた面があり、背中を追うように実力を伸長してきた。

一方でまだ中学2年生で義務教育のまっただ中にいる。学生の本分は勉強とよく言われる。日本のスポーツ界で勉学を大切にしながら傑人になった例として女子ゴルフの宮里藍さんを挙げることができる。父でコーチの優氏のモットーが「学校一番、ゴルフ二番」だった。競技での成績よりもまず、勉強をはじめ、学校生活にも真剣に打ち込むことで人間力を高めること大事にしていた。そのことがひいてはゴルフにも表れるとの考えだ。藍さんのその後の歩みを鑑みれば、このポリシーの重要さは明白。小柄ながら米女子ツアーで活躍して世界ランキング1位にも就いた。常識をわきまえた言動や立ち振る舞いは好感を呼び、現在の若手選手たちの憧れの的であり、尊敬の念を得ている。

張本美和は今回のマネジメント契約締結に際しての談話で「両親とも相談し、 この契約で競技だけではなく勉強にも専念できると思っています」と触れており、意識は高い。ラケットを持っている時間以外も充実させ、一般社会とも十分に触れることが人間的な成熟につながることは想像に難くない。

活性化するTリーグの中で

昨年の東京五輪の後、新型コロナウイルスの影響やスポンサーの撤退などで運営に四苦八苦している団体や組織は少なくない。その点、Tリーグは優秀な運営といえる。坂井一也理事長によると、2021年度の決算は約8千万円の黒字見込みという。4季目の2021~22年シーズンは新型コロナ禍の影響で集客に苦しんだものの、インターネットなどを通じた視聴者数が初年度から10倍以上に増加した。

9月開幕の今季からは伊藤美誠が日本生命に加入し、Tリーグに初めて参戦する。これまで東京五輪に向けて練習時間を確保したり海外ツアーでポイントを稼ぐことを優先したりして参加していなかった。しかし、日本協会が2024年パリ五輪に向けたシングルス代表の選考基準でTリーグの結果が反映されるシステムになったことで方針転換に及んだ。東京五輪では混合ダブルスで金メダル、団体で銀、シングルスで銅と活躍したエースの見参で注目度がアップし、さらに活性化することが予想される。また女子には「京都カグヤライズ」が新規チームとして参入し6チームに拡大。9歳の松島美空が一員となるなど5シーズン目は話題性にも富んでいる。

世界の卓球界では中国勢が高い壁となって立ちはだかっており、打倒中国がナンバーワンへのポイントとなる。スケールの大きな張本美和が勉強にもいそしんで大いに魅力ある選手に躍進を遂げると、日本女子の世代交代の旗手を担う存在になる。マネジメント契約を締結後初となる今季のTリーグなどでこれまで以上の結果を残せば、大きな夢への第一歩になるに違いない。


VictorySportsNews編集部