日本一のビッグクラブから向けられた挑発

 Jリーグは7月の実行委員会で、「8月15日以降、クラブは、主管試合において観戦席の一部もしくはすべてで声出し応援席を設けることができる」と決めており、今後も声出し応援エリアの段階的な設置が継続される。浦和に限らず、全クラブのサポーターにとって、一歩前進の運用だろう。

 ただし、明るい兆しが見えてきた今もくすぶっている事案がある。浦和サポーターが7月30日のJ1リーグ・川崎フロンターレ戦の試合後、埼スタのゴール裏でJリーグに抗議する横断幕を掲げたことだ。

 白い布地6枚にはこのように書かれていた。

「百年構想? 30年目でオワコン興行」
「馴れ合いを求めるJリーグから生まれるものとは」
「同じ方向を向いた先にある熱狂なきスタジアムがJの理想の姿?」
「フットボールに情熱を戻す決断は誰の責務? PRIDEを奪われたサポーターを無視して忖度を続けた結果、失ったものは何?」
「悉く世界基準に逆行するリーグからは熱狂も客も消えてゆく30年目」
「公平な処分Jリーグへ心から願う理想の姿」

 挑発的な文言が書かれた横断幕の写真がメディアで流れると、SNSやニュース配信ページのコメント欄には多くの意見が書き込まれた。中には賛意を示すコメントもあったが、大半は怒りやあきれたという感想、もしくは批判。Jリーグ規約第9条(除名)にある「この法人(注;Jリーグ)の名誉を傷つけ、またはこの法人の目的に違反する行為」に抵触するのではないかという意見もあった。浦和はスタジアムに掲出する横断幕について事前申請のルールを敷いているため、横断幕がクラブの承認を得ていることに疑問を抱く声もあった。

先日行われた「Paris Saint-Germain JAPAN TOUR 2022」では旭日旗が掲げられ、問題に発展する可能性もある

Jリーグが下した制裁

 表現の自由という観点はあるにせよ、横断幕が浦和サポーターからさえも反発を招いた最大の要因は、川崎戦の4日前の7月26日に、Jリーグが浦和に対して2000万円の罰金を科す処分を下していたという流れがあるからだ。

 2000万円という金額は、浦和がJリーグから課された制裁金としては、鬼武健二チェアマン時代の2008年5月のガンバ大阪戦で両チームのサポーターがもみ合いとなり、G大阪のサポーター約800人がスタジアム内に足止めされた時と並ぶ最高額だ。(注;この時はG大阪にも1000万円の制裁金が課されている)

 それから14年。今回の制裁の対象となったのは2試合。5月21日の鹿島アントラーズ戦前にサポーター約60人が声を出して応援したこと、7月2日のG大阪戦の試合終了間際にサポーター約100人が約5分間、応援歌を歌ったことだった。

 しかも今回は2000万円の制裁金だけでは完結しておらず、さらなる発展を見せる可能性がある。なぜなら、Jリーグの野々村芳和チェアマンは、今後も違反が認められた場合は、無観客試合の開催や勝ち点剥奪といった懲罰を課すこともあると踏み込んでいたからだ。

 また、時をほぼ同じくして、7月29日には清水エスパルスが7月16日の浦和戦(アイスタ)で「浦和サポーターによる重大な違反行為が認められた」としており、こちらに対しての処分が下されるかもしれないのである。

 川崎F戦で埼スタのゴール裏に6枚のJリーグ批判横断幕が掲げられた理由の一つは、Jリーグの浦和に対する制裁が他クラブのケースと比べて重いのではないかという反発であり、それに関しては同意する声もある。けれども、「Jリーグからおとがめを受けた直後のタイミングなのに、反省はないのか?」「これでは居直りだ」と批判は強い。コロナ禍に皆で協力し合ってきたのに、好転しつつある流れに水を差すような行為だというのだ。

今後の浦和サポーターが果たすべき役割とは

 浦和と言えば、村井満チェアマン時代の2014年3月、サガン鳥栖戦でサポーターが人種差別と受け取れる横断幕を埼スタのスタンドに掲出し、クラブがそれを試合終了まで放置したことに対して、国内初となる「無観客試合」の制裁を科されたことが歴史に刻まれている。これは、Jリーグ規約改正によって2014年シーズンから運用された「無観客試合」の初の適用であり、欧州での実例に照らし合わせての処分だった。

 損失は1試合ぶんのチケット収入(これだけでも億単位)にとどまらず、対戦相手の清水も巻き添えになった形であり、試合の関係業者も金銭的ダメージを受けた。

 負の影響があまりに大きかったこの事件。浦和は問題の横断幕を掲出したサポーターグループに対して無期限の入場禁止処分を下した一方で、クラブ内でも淵田敬三社長(当時)や関係する社員に処分を課した。また、クラブ側とサポーターグループとのコミュニケーションの取り方も再考したという。

 しかし、それから8年がたった今、さまざまな状況を見ると当時の反省が薄らいでいるのではないかという懸念がある。自分たちで歯止めをかけなければ、問題を繰り返すことやさらに大きな問題を引き起こしかねないという危惧、火種を回収できていないのではないかという声がある。

 冒頭に触れた名古屋戦はさすが浦和サポーター、と思わせられるような迫力の応援だった。敗れた名古屋の長谷川健太監督は「久々に(ピッチ内で)声が通らないという難しさがあった」とこぼし、浦和のリカルド・ロドリゲス監督は「素晴らしい雰囲気だった」と語った。

 浦和に求められるのはクラブとサポーターの自浄努力。今ならまだ間に合う。


VictorySportsNews編集部