日本選手では2002年の松井秀喜(当時・巨人)以来、20年ぶりに50本塁打を放ち、1964年に24歳3ヶ月で50号を達成した王貞治(当時・巨人)を抜く史上最年少での50号達成(22歳7ヶ月)、そしてゴジラ松井の記録を抜き、9月4日の中日戦で51号を放ち、歴代8位タイの記録へと到達。52本を放った故・野村克也氏の記録を抜くのは時間の問題で、元同僚のバレンティンの日本記録(60本塁打)も視野に入ってきた。

 そして、HRだけではなく、打率(リーグ1位)・打点(リーグ1位)ともにタイトルが見えており、平成以降では唯一、松中信彦(当時・ダイエー)が2004年に達成した三冠王の名誉も目前という状況だ。

 投高打低と言われる昨今において、なぜ村上はここまでの成績が残せるのだろうか。

「犠牲フライでもという気持ち」で50号

 2002年、当時日本最速を誇った五十嵐亮太のストレート真っ向勝負に対し、松井秀喜が日本球界で最後のHR(50号)を放ったシーンは、各TV局のダイジェストや、村上の紹介の際にも使用され、20年経った今でも歴史的場面として映像が使われている。村上が中日の名投手・大野雄大から放った50号HRの映像も、村上が今後大記録を残すほど使用される貴重な映像になることは間違いない。

 その50号のシーンは、0-0の1アウトランナー1・3塁だった。打った感触に関して村上は「犠牲フライでもという気持ち」とコメントを試合後のインタビューで残している。中日のエースクラスで、簡単に点が取れる投手ではないからこそ先制点を取りたい場面での打者の心情としては当たり前なのだろう。

 しかし、今シーズンの成績を見ると、村上は犠牲フライを1本も打っていない。これは驚きの成績だ。

 塁上の成績を見ると、次の通り。
-ランナー1・3塁:打率.538、4HR、16打点
-ランナー3塁:打率.300、1HR 、5打点
-ランナー満塁:打率.500、4HR 、21打点

 ランナーが3塁にいるケースで四番の活躍を当たり前のようにする選手であることがわかる。※ランナー2・3塁の場合、最少の5打数しかチャンスを与えられておらず、申告敬遠をされている。

 また犠牲フライの本数上位を見ると、佐藤輝明(阪神)7本、牧秀悟(DeNA)6本、山田哲人(ヤクルト)5本、中田翔(巨人)3本など各球団の四番打者や強打者が、必要なシーンにおいてしっかりと犠牲フライを打っていることがわかる。

 村上の気持ち的に、最低でも犠牲フライでもと思うのは他の打者と同じで間違いないのだろうが、その中でアウトになっていないあたりのほとんどがスタンドに吸い込まれているのだ。

脅威の選球眼、そして失投は逃さない

 村上の選んだ四球数は102と、2位と30以上差をつけており、各球団がかなりマークをしていることがわかる。

 村上は、打席の中でホームベースから割と距離を取るタイプであり、投手からすると内角に攻めにくい訳ではなく、また、通常の打者だと外の変化球やストレートの出し入れでなんとか戦っていくことができそうに見える。

 また、2020-2021シーズンだと、追い込まれた後の低めの落ちるボールや、外角の高めの釣り球で三振になるケースが多かったが、今年の村上に関しては対戦相手のウィニングボールやバッテリーの誘い球を降らずに、しっかる粘りながら四球を選ぶケースが増えている。

 スワローズ打線全員が苦しんでいた高橋宏斗(中日)が勝負しきれず試合の中でも唯一と言っていいほどの真ん中に入ってきたスプリットの失投を弾き返した51号を見るように、しっかりとボールを選びながら失投を逃がさない強さが今の村上にはある。

 村上の後を打つサンタナやオスナも好不調はありながら最低限の活躍をしており、下位打線の中村や長岡(8番で42打点)と、要所で打つバッターも控えているため、投手としても村上からつながる恐怖もあるだろう。

タイトルよりも優勝、勝負強さ

 村上は22歳の若さながら、ピンチの際には誰よりも早くマウンドに駆けつけ投手に声をかけたり、ベンチから人一倍大きな声で味方選手への鼓舞も忘れない。ファンからは”村上監督”と呼ばれるなど、若さを感じさせない程のリーダーシップの資質も備えている。昨年の日本一、そしてリーグMVPに奢ることなく、チームとファンのために2連覇を目指し、自らのタイトルよりチームの結果を重んじる選手だ。

 8月後半のベイスターズ3連戦では、ホーム17連勝と破竹の勢いで4ゲーム差まで差し迫ってきた重要な対戦相手に対し、11打数9安打4HR(5四球)の大活躍。重要な場面での勝負強い決勝HRや、追い討ちのHR、つなぐヒットなどチームの勝ちにつながる場面には村上がいた。

 バレンティンが60号を打った2013年は6位と、終盤はバレンティンもいかにHR数を伸ばせるかの個人成績に集中ができたが、勢いのあるベイスターズが迫る優勝争いの中でも村上は勝負強い打撃で、自身の成績を伸ばしながらチームの勝利に貢献していると言えよう。

 松井秀喜同様に広角に打つことができ左投手も苦にしないタイプであり、盗塁も二桁、守備も年々上達し、以上のような強さがある打撃タイトル10冠の村上の死角はどこにあるのだろうか。

 そしてこのままリーグ優勝を勝ち取り、村上もその中で令和初の三冠王、そして日本記録に並ぶ60号を達成するために、何が必要なのだろうか。

 松中信彦が三冠王を達成した際も優勝争いをしていた中で、松中の前を打つ井口(現ロッテ監督)は.333・24HR、松中の後ろを打つ5番には.338・36HR城島健司(当時・ダイエー)というタレントが脅威の成績を残していた。松中の前に(ランナーがいて)チャンスができ、松中と勝負をせざるを得ない場面が多かったのだ。

 つまりこの先優勝争いが激化する中で、村上と勝負してもらえる場面をどう作っていくかが重要だ。

 今シーズンの村上は、村“神”様と言われるほどの神がかった成績を残しているからこそ、チーム全体で優勝に向けた緊迫した試合展開の中で、村上の前後の打者がお膳立てをすることが重要だろう。山田哲人の復調と復帰後すぐの手のつけられないサンタナの打棒にも期待したいところだ。

 ただそれでも村上は、タイトルではなくチームのために徹して、声を出し、全力プレーをするだろう。その上で犠牲フライのつもりで打った打球がホームランとなりチームの勝ちにつながるのだろう。


VictorySportsNews編集部