1周年記念イベントには、人気ユーチューバーの「Fischer's-フィッシャーズ」やパラ応援大使を務める女性ボーカルグループ「Little Glee Monster(リトルグリーモンスター)」、そして国際パラリンピックの特別親善大使を務める元SMAPの稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾による「新しい地図」が参加。盛況に一役買った格好だが、東京パラの開会式で主役の「片翼の小さな飛行機」を演じた和合由依さんの情感豊かなオープニングパフォーマンスやイベントの目玉に置かれた車いすバスケットボール日本代表のエキシビションマッチに観客は大いに沸いた。家族連れも多く、子どもたちは出場選手の情報が書かれたハリセン状の特製の応援グッズでエールを送り、スペイン代表と対戦した女子日本代表の北田千尋主将は「1年前に見たかった(観客がいる)光景の中でバスケができて気持ち良かった」と実感たっぷりにコメント。東京パラで史上初の銀メダルを獲得した日本男子は紅白戦を実施し、大会MVPに輝いた鳥海連志も「1年前にかなわなかった、みなさんに見てもらいながらバスケをするというのを実現できたのがなによりうれしい」と語り、「1年前の出来事があるから注目してもらえている。今後も皆さんの目につく機会をつくっていきたい」と、競技者として活動しながら、自身が主催者となって年内にも大会を立ち上げる構想を口にした。


 イベントに合わせて来日したIPCのアンドルー・パーソンズ会長は「東京2020は本当に歴史的で、英雄的な偉業であると、皆さんは強く誇りに思うべきだ。最も困難な状況の中で日本は素晴らしい、魔法のような、この世界を変えるような大会を開催できた」と持ち上げた上で「重要なのはパラリンピアンの活躍が日本の皆さんの意識を変え、障害を持つ方々が共生社会の一員であるということを実感できることになったこと。誰かの人生をよりよいものに変えることほど素晴らしいレガシーはない。今後さらにパラムーブメントを促進させてほしい」と期待を寄せた。


 鳥海やパーソンズ会長が描く今後の姿に欠かせないのが企業などからの支援だ。思い起こせば、2013年9月、東京五輪・パラリンピック開催決定を契機に国内のパラスポーツ界は「パラバブル」と称されるほどの黄金期を迎えた。日本パラスポーツ協会や各パラスポーツ団体には潤沢な資金が流れ込み、健常者同様にアスリート雇用される選手や国際大会の国内誘致が相次いだ。日本財団が2015年に約100億円を投じて設立した各競技団体共用の拠点「パラリンピックサポートセンター」や、18年に臨海副都心地区に建てたパラ競技専用体育館「パラアリーナ」は、バブルの象徴とも言える。東京パラが終わり、五輪同様、スポンサーの撤退など、予算規模の縮小を余儀なくされるケースも出てきているが、競技団体側も企業と一体となり、新たな支援モデルの形を見いだそうとしている。


 テーマは「健常者と障害者の融合」だ。8月中旬にゼビオアリーナ仙台で行われたバスケットボール男女日本代表の国際強化試合のハーフタイムでは、車いすバスケットボール日本代表が健常者チームとフリースロー対戦などで会場を盛り上げた。車いすバスケ男子日本代表の香西宏昭は「あるべき姿に行きつつある。次は車いすバスケの試合で実施してほしい」と評価。企画を協賛した日本生命保険の担当者は「東京大会を契機にパラスポーツを見聞きする機会は増えた。今後はオリとパラが相互に連携、融合できる場をつくっていきたい」と意義を強調する。国内で年々人気が高まっているボッチャでは、日本協会が17年から「インクルーシブ(分け隔てない)」な大会として、障害の有無にかかわらず参加できる「東京カップ」を開催。参加チームは17年の12チームから今年は約30チームまでに規模が拡大。こういった動きは、「共生社会の実現」や「持続可能な開発目標(SDGs)」を理念に掲げる企業からの支持を得やすく、日本ボッチャ協会の協賛企業は東京パラ前と同じ水準を維持している。


 また、東京パラリンピック・競泳男子(視覚障害)で金メダルを獲得した木村敬一が、アシックスの支援のもと、来月16日にパラマラソンのコースを一部使用して開催される東京レガシーハーフマラソン2022で初のハーフマラソンに参加することが発表されるなど、パラアスリート自身も新たな挑戦の場を探しながら活動を進めている。


 IPCのパーソンズ会長は「障害の垣根を越えて多様性を認め合う『共生社会』への種はまかれた。パラムーブメントを愛し、多様性や違いを受け入れ続けることで、皆さんの町や社会がよりよくなることを約束する」と語る。共生社会において、後進国だった日本が東京大会を契機に各国のモデルとなれる土台はできつつある。


VictorySportsNews編集部