今月11日の夕刻、2人の公式ホームページが同時に更新され、ファンが心待ちにしたフリーの演目が明らかとなった。インスタグラムには、ファントムを演じるであろう高橋が手で仮面を表現する姿とともに振り付けの一部が公開。高橋は「06-07年シーズン以来のオペラ座の怪人を滑ることになりました。15年前だそうです(笑)。それもアイスダンサーとして競技会で滑るとはその時は思ってもみませんでした。いつかもう一度この曲を滑りたいと思っていたので、こんな形で滑る事に何か意味があるのかな?!意味があった事に出来るよう完成したプログラムを皆さまに披露できるように頑張ります!楽しみにしていてください」と思いをつづった。
15年前に演じたのもフリーだった。2007年3月に東京体育館で行われた世界選手権。過去2度の出場はいずれも二桁順位に終わり、「ガラスのハート」と揶揄され続けていた高橋が殻を大きく打ち破ったのが「オペラ座の怪人」だ。ショートプログラム(SP)3位で挑んだフリーで2度のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を着氷させると、終盤はファントムのつらい恋心を表現したストレートステップで会場を魅了し、仮面をはぐしぐさでフィニッシュ。フリートップの得点をマークし、3連覇を狙ったステファン・ランビエル(スイス)を上回り、ブライアン・ジュベール(フランス)に次ぐ2位で五輪、世界選手権を通じて日本の男子選手として初めて銀メダルを獲得した。得点を待つ「キス・アンド・クライ」で泣き崩れ、中学2年生から指導を受けてきた長光歌子コーチ、荒川静香を五輪女王に育てたモロゾフコーチと感極まって抱き合う姿は印象的で、「人生初めてのうれし涙。気持ちいい」との実感たっぷりの言葉は多くの感動を呼んだ。
そんなプログラムだからこそ、再演にあたって共演者の思いも強い。当時中学2年生だった村元は「高橋選手のシングル時代のオペラ座から15年。アイスダンサーとして一緒にオペラ座の怪人のストーリーを滑れることが夢みたい」と喜び、「ファントムとクリスティーヌの2人が持つオペラ座の世界観がどう仕上がっていくか自分自身とても楽しみ」と自身のホームページに書き込んだ。振り付けはズエワ、トカチェンコ両コーチにダンサーの小尻健太氏が担当する。
リズムダンスも「ユニークなプログラムに仕上がった」
アイスダンス普及への伝道師として、話題に事欠かない2人。もちろん「ラテン」をテーマにするリズムダンスもこだわりが詰まっている。「クラシックなラテンというより、見たことのないラテンのプログラムをつくりたいと始まった。選曲も時間がかかってちょっと難しかったが、ユニークなプログラムに仕上がった」と村元。「Conga and Rhythm is Gonna Get You」「Ahora」「Move」の3曲を編集した演目は、序盤からアップテンポな滑りで圧倒する内容で、初披露した横浜市のコーセー新横浜スケートセンターでのアイスショー「フレンズ・オン・アイス」を見た観客がSNS上で「やばい」などと絶賛するコメントが相次いだ。
振り付けに携わったのは実に6人。高橋がそこに至った過程を明かす。「クラシックなものを入れつつ、ストリートやテクノとか新しいものをしたいということで、その世界に精通している方にも、アイディアをいただきながら、新しいものを融合するということで、いろんな方にヘルプしてもらって、つくったので、どんどん名前が増えた」。3分に満たない演目の中で、どれだけまとまりのある世界観を作り出せるのか。村元は「見どころは冒頭のダンスから、最後の駆け抜けていくステップも見どころになっている。新しいリフトも習得している。お客さんも踊っている気分になれるプログラムになっている」と自信を見せる。
「超進化」を掲げて臨んだ北京冬季五輪シーズンの昨シーズンは、昨年11月のワルシャワ杯で日本勢最高得点を更新すると、初の主要国際大会となった1月の四大陸選手権では日本勢過去最高の2位に輝いた。小松原美里、小松原尊組(倉敷FSC)との熾烈な争いの果てに五輪代表1枠にはわずかに及ばなかったが、筋骨隆々の体に仕上げた高橋が村元を持ち上げ、雄大なリフトでの力強さで魅せられるようになった姿はアイスダンサーとしての成長ぶりを大いに感じさせた。そして、新プログラムが公表された今、北京五輪代表落選が決まった翌日の昨年12月27日に村元が「次は何にチャレンジできるのか、どんな技ができるんだろうかとか、ワクワクしかない」とさらなる飛躍を誓った言葉どおりに2人は前に進んでいる。
来年3月には自国開催となる世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)が待っている。代表枠は一つ。再び、小松原組とのプライドを懸けた一騎打ちが予想される。その大一番となる12月の全日本選手権へ向けて、10月に始まるグランプリシリーズでは第1戦のスケートアメリカと第5戦のNHK杯にエントリーしている。「“かなだい”の新しい世界を早く披露したいなと思います」(村元)、「どんなシーズンになるか全く分からないけど、常に全力で突き進み、どんどんレベルアップしていきたい」(高橋)。真剣勝負のリンクでどんな演技を披露してくれるのか。ファンならずとも待ち切れない。
「やらないという選択肢は出てこなかった」 現役続行を表明したアイスダンス村元哉中&高橋大輔組の決意とは
「今からわくわく、“かなだい”の新しい世界を早く披露したいなと思います」(村元)、「どんなシーズンになるか全く分からないけど、常に全力で突き進み、どんどんレベルアップしていきたい」(高橋)。フィギュアスケートでアイスダンスの村元哉中、高橋大輔組(関大KFSC)が5月27日、インスタグラムにこの日開設した『かなだいオフィシャルチームアカウント』で来シーズンの現役続行を表明した。