大谷は昨年、打者として打率.257、46本塁打、100打点、投手としては9勝2敗、防御率3.18の成績を残し、投打の二刀流でアメリカン・リーグのMVPを獲得。今年は現地時間9月29日時点で、打者として打率.275、34本塁打、94打点、投手として15勝8敗、2.35と、本塁打と打点こそ昨年の数字に届いていないものの、全体的に昨年よりもレベルアップしている印象がある。

「大谷選手に関しては、その変化がとても面白いなっていうふうに思います。たとえば去年は真っすぐ(ストレート)とフォークを主体に投げてたんですけど、今年はツーシームというか、向こうではシンカーっていう表現をしてるんだけど、そういうのを投げ始めたりとかね。ある程度、自分の理想とする形が固まってきた時に、その次のステップに行くっていうその段階を見ていると、とても面白いです」

 五十嵐氏が注目しているのは、たとえば昨年から今年にかけてといった「シーズンごと」の変化だけでない。シーズン中、あるいは試合の中でも、変化は見て取れるという。

「彼は1試合の中でとか、シーズンの中でいろんな顔がある。このまま行くんじゃないかなと思ったら意外とそうじゃなかったりするので、そこは本人には理想としているビジョンが確実にあるんですよ。そのビジョンに向かってどう準備をして、結果を残していくかっていうプロセスも、彼を見てると見えてくるのでね」

 その「ビジョン」とは投手として、あるいは打者としての理想形。投手であればボールを自らが思い描く通りに完璧に投げ、打者であれば完璧にとらえることだ。つまり、大谷は常に「完璧」を目指していることになる。

「だから抑えること、打つことはもちろん結果として大事なんだけど、そこだけじゃないんですよね、きっと。(成績よりも)その先を見据えてやっていると思うので、抑えたから、打ったからこのスタイルはOKとかっていうよりも、もっと完璧に抑えるためには、もっと圧倒するにはっていうところを追い求めてるのかなと思いますね」

 そのためには、一切の妥協を許さない。そうしたストイックな姿勢はトッププレーヤーに共通するものではあるが、二刀流の大谷がそれを貫き続けるのは並大抵のことではないと、五十嵐氏は指摘する。

「そういった完璧主義というか、妥協を許さない姿勢っていうのは、トッププレーヤーとしてはある意味、当然だと思うんですよ。当然だとは思うんですけど、彼の場合はそれが打つ方も投げる方もなんです。ピッチングだけに集中すればいいかって言ったらそういうわけではないし、バッティングだけに偏ってもいけないっていう中で、どういった時間の使い方をしてるのか、そこに興味があります」

想像を超えていく

 大谷が岩手・花巻東高からドラフト1位で北海道日本ハムファイターズに入団した2013年は、奇しくも3年間のメジャーリーグ生活を終えた五十嵐氏が、ソフトバンクと契約して日本球界に復帰した年でもある。プロ入り前から投打の二刀流挑戦が取りざたされていた大谷については、当時から「(周りの)想像を覆すだろうな」と思っていたという。

「想像できた、できないっていうよりは、想像を覆す人だろうなっていうふうに思ってました。周りが想像できないことを自分で想像して、それを現実にしてっていうかね。二刀流をプロに入ってやるっていうのもそうだし、それでメジャーに行くっていうのもそうだし……。これまでそうやってみんなの想像を覆してきた選手だから、今後もこういったことは繰り返されるんじゃないかなっていうふうに思いますね。どこまでもこちら側の想像を超えていくと思います」

 大谷に関しては、解説者として放送席に座るだけでなく、ワイドショーなどでコメンテーターとして語る機会も多いという五十嵐氏。その場合、野球にさほど詳しくない視聴者に向けて話すことにもなるわけだが──。

「分かりやすく伝えたいなと思います。野球ってコアなファンがたくさんいるんですけど、そうじゃない人が楽しく、考えないで見たままを感じて楽しいって思えるような話し方ができたらいいなとは思ってます。固定のファンというのはとても大事だと思うんですけど、そうじゃない人が見るきっかけとしては、大谷選手や今でいったらヤクルトの村上(宗隆)選手、ロッテの佐々木朗希選手のようなスゴい人がいるっていうのは分かりやすい。彼らのスゴさっていうのを、分かりやすく伝えたいなと思いますね」

 現地9月29日のオークランド・アスレチックス戦に先発した大谷は、そこでまた少し「違う顔」を見せた。自慢のフォーシーム(日本でいうストレート)をほぼ封印し、スライダーを中心に変化球主体で8回2死までノーヒットピッチングを続けて、今季15勝目を挙げた。

 今年は既にあのベーブ・ルース(当時レッドソックス)以来、104年ぶりとなる「同一シーズン2ケタ勝利&2ケタ本塁打」を成し遂げているが、次回の登板で1イニング投げれば1901年以降の近代メジャーリーグでは初の「同一シーズン規定打席&規定投球回」達成となる。これも大谷がメジャーに移籍するまでは、誰も想像できなかったことだろう。

「まだ現地(取材)っていうのはないんですよ。大谷選手がこうやって活躍してる中で、実際に見れたり、話を聞けたら嬉しいですよね」

 どこまでも「こちら側の想像を超えていく」二刀流を、来年こそは現地でその眼に焼き付けたい──。それが今の五十嵐氏の願いである。
(了)


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。