期間中は、NBAの現役選手・レジェンド選手による社会貢献活動やFIBA(国際バスケットボール連盟)と連携した次世代育成プログラム、ハリウッドスターやラッパーなどのセレブが出場するエキシビジョンマッチなど様々なイベントが執り行われた。

 そんなNBAオールスター2023のメイン会場となったユタ・ジャズのホームアリーナを中心に、本場アメリカで感じたNBAならではのファンホスピタリティについてお届けする。

観戦をより無駄なく楽しめるデジタルシステム

 スポーツ観戦に行く醍醐味の1つとして“スタグル”・“球場飯”といったグルメが挙げられるが、毎回各店舗には長蛇の列ができており、お目当てのものを諦める人も多いのではないだろうか。筆者は、試合開始に近づくにつれ行列は長くなり、試合開始に間に合わなかったという経験をしたことがある。

 しかし、今年のNBAオールスターが開催されたビビント・スマート・ホーム・アリーナ(以下、ビビントアリーナ)の売店では、あるはずの行列がほとんど見受けられなかった。その要因は、スマートなフードオーダーシステムに隠されていた。

 ビビントアリーナでは、QRコード※を読み取り、ウェブ上でオーダーから決済まで一気通貫して行うことができた。(※今回はメディア用に配布された特別クーポンのQRコードより購入)

QRコードからモバイルオーダー方法とオーダー画面

 もちろんQRコードを読み取る端末を持っていない場合でも購入できるよう、アリーナ内のコンコースに数カ所注文できる端末が設置されているが、いずれにせよ売店のレジまで行って注文する必要はなく、スマートに注文をすることが可能。

 今回、アリーナでのモバイルオーダーを経験して、こんなにもモバイルオーダーのありがたみを感じられる場面はないと強く感じた。クォーターの終盤にフードをオーダーし、インターバルで商品を受け取り、次のクォーターを最初から観戦することができた。おかげで大切な試合を一瞬たりとも見逃すことがなかった。

 国内の一部スタジアムではキャッシュレス化やモバイルオーダーシステムを導入しているが、多くのチームが開発に力を入れているグルメと試合を存分に楽しむために、モバイルオーダーの導入は最優先で検討してもらいたいと強く感じた。

 フードメニューはアメリカンフードの象徴ともいえるハンバーガーはもちろんのこと、メキシカン、韓国料理など国際色豊かなエスニックフード店が並んでいた。これは、世界からファンが集まるNBAならではのテナント選定のようにも感じられた。

アリーナ内の売店で購入したタコス

 そして、本来食べ物・飲み物の注文ができるQRコードはビビントアリーナの座席の肘掛けに設置されていた。今回は、オールスターだったためスキャンするとユタ・ジャズのホームページにリンクしたが、シーズン中ならチーム情報やスタッツの確認、グッズ購入、座席マップなども表示されるようだ。また、ジャズのパートナーシップであるCoinZoom(デジタル金融サービス会社)のアプリをダウンロードすると、ジャズのNFTにもアクセスができるとのこと。

 座席1つにおいても最高の快適さを提供するNBAのファンに対するホスピタリティはスポーツ界No.1といっても過言ではないだろう。NBAの盛り上がりは、最大のファンホスピタリティの賜物なのかもしれない。

アリーナ内で各座席のひじ掛けに設置されているQRコード

NBAがファンを魅了する世界最高峰のエンターテインメント性

 NBAは、世界最高峰のバスケットボールリーグとして知られる一方で、世界最高峰のスポーツエンターテインメントとしても一目置かれている。初めて現地でNBAを観戦した筆者は、本場NBAのエンターテインメントに圧倒された。オールスター仕様かもしれないが、コートの横にはコンサート会場に設置されるライブステージが設置されていた。

コートサイド設置されていた大型ビジョン付き特設ステージ

 ティップオフ前やハーフタイムに著名ラッパーなどのアーティストが盛大にパフォーマンスを行い、会場を一気に盛り上げた。その光景は日本のプロスポーツではみることができないものだった。

 オールスターは、NBA最大の祭典でもありスポーツの要素よりもエンターテインメントの要素が強い構成になっている。スポーツというよりもNBAというある種のエンタメとして成立していた。

エンターテイメントと言わんばかりの豪華な演出で大盛り上がりするアリーナ

 NBAでは、タイムアウト、インターバル、ハーフタイムのたびに盛り上げ役のMCが登場する。ダンスパフォーマンスにしても、ハーフタイムショーにしても全てのイベントにおいてアリーナMCがファンとコミュニケーションを取りながら盛り上げていた。筆者の見解としては、実はアリーナMCがNBAのエンターテインメント性にとって重要な役割を果たしているのではないかと感じた。もちろん豪華なステージに、高性能な音響設備、会場360°ビジョンやセンターサークル上に吊らされた大型センタービジョンでの映像演出で高揚感を創出していることも間違いないが、それら設備を最大限に活かして選手のモチベーションを上げる空間の創出、ファンの心を掴み会場を盛り上げるアリーナMCの力は計り知れない。特にバスケットボールは、音楽やエンターテインメントと密接な関係にあり、そのエンターテインメント性が最高峰にあるが故の、最高峰のプレーに繋がっているだろう。

バスケットボールの楽しさを広く発信する“NBA クロスオーバー”

 NBA クロスオーバー(以下、クロスオーバー)は、いわばエキスポ。日本でも大きなスポーツイベントが開催される前には、スポンサー企業のブース出展やオリジナルショップが出店されている。しかし、筆者が目にしたクロスオーバーは、日本でみるエキスポの規模感とは比較にならないくらい大きなものだった。

 スポンサー企業のブース出店、オリジナルグッズショップと基本的なことは変わらないように思うが、スポンサー企業のブースで提供されているアクティビティは、日本では到底ありえないコンテンツとなっていた。その例の一つとして、NBA、WNBA、NBA Gリーグのオフィシャルソフトドリンクとして採用されている「STARRY™」のコンテンツを紹介。今回のNBAオールスターでは、スリーポイントコンテストの冠スポンサーを務めていることもあり、60秒間でどれだけのスリーポイントシュートを決めることができるのかというゲームが行われていた。これだけでも十分楽しそうなイベントをやっていると感じるが、NBAのスポンサーは楽しさだけでは終わらない。1日を通して最もスリーポイントを決めたファンに対して、なんと33,333ドルをプレゼントしていた。また、会場内外では来場者に対して「STARRY™」のサンプリングを行っていた。

 たった1日のイベントでファンに対して450万円の賞金を出せる日本企業はあるだろうか...。

NBAクロスオーバーでのスリーポイントゲームを楽しむファン

 その他にもシュートを決めるとノベルティグッズがもらえたり、NBA一色に染まった空間で撮影ができるフォトスポットが設置されたりNBAファンにとって夢の時間を過ごすことができるコンテンツが詰められていた。

NBA公式スポンサー「KIA」ブースで展示されるNBAオールスター2023特別仕様車

日本のスポーツには伸びしろしかない

 賞金など金額面での規模では及ばないにしても、設備システムやアクティビティについては実現できることも少なくないと感じる。まだ日本ではコロナ禍の状況から完全に脱していない部分もあるが、世界最高峰のスポーツエンターテインメントを提供するNBAから学べることは多い。ファンホスピタリティの充実がファンを虜にし、選手への応援に還元される。スポーツとエンターテインメントの両輪が見事に嚙み合っていることがNBAの素晴らしさを生み出していた。

第72回NBAオールスターゲーム

VictorySportsNews編集部