東京都とともに、プロジェクトを牽引する公益財団法人東京都スポーツ文化事業団の塩見清仁理事長に、今後の取り組みについて話を聞いた。

「東京2020大会はご存じのとおり、緊急事態宣言下での開催でした。パンデミックの中であれだけの大規模な大会運営をやり遂げたことは、まず評価されるべきだと思います。ただ一方で、無観客開催でしたからテレビ放映での感動はあったにせよ、スポーツの力を存分に伝えることができたかというと、想定していた領域には達していない気がしています」

「その足りなかった部分を、東京2020大会のために作った競技施設などのレガシーを活用しながら、東京都民の皆さんにスポーツの魅力を伝えていく取り組みをこれから行っていきます」

 東京都スポーツ文化事業団は、水泳競技の会場として新設された東京アクアティクスセンター(江東区)をはじめ、卓球会場となった東京体育館(渋谷区)、駒沢オリンピック公園総合運動場(世田谷区)、東京武道館(足立区)の管理運営を担っている。

 東京アクアティクスセンターは4月11日から再開業したが、平日の一般利用はまだそれほど多くない。東京都だけでなく近接する県の住民の皆さまにも広く使ってもらいたいという思いがある。

「スポーツを『みる』ということに関しては、WBC(ワールドベースボールクラシック)の優勝で日本が一つになって、スポーツの力をあらためて確認することができました。でも、スポーツを『する』ということに関しては、まだコロナ前の水準には戻っていません」

 事業団が指定管理する各体育施設の稼働率は、コロナ前と比べると8割程度にとどまっているという。

「我々の施設の中にトレーニングジムも入っていますが、100%には戻っていません。小さいジムに人が流れたのか、まだ怖いからジム通いを控えているのか、それをどうやったら戻せるのか真剣に考えなければなりません」

「コロナ禍でニューノーマルという言葉が注目を集めましたが、ニューノーマルという言葉が残っている間はなかなか100%には戻りません。やはり本当のノーマル、コロナ前の皆さまがスポーツを楽しんでいた状態にどうやって戻すかが最大の課題です」

 この点については塩見理事長も自身の行動を振り返って反省点があるという。

「私もコロナ前は皇居の周りを走ったり、トレーニングジムに行ったりしていました。でも、そういうことはもうできないんだとコロナのせいにしてスポーツを控えていました。それをある人から指摘されたので、今週末からジムに登録し、さっそく汗を流してきました」

公益財団法人東京都スポーツ文化事業団 塩見清仁理事長

「スポーツをもう1回やってもらうためには、心を解かして以前のマインドに戻す必要があります。そういう雰囲気を作っていくのが我々の役目です」

 東京都が掲げる「スポーツフィールド・東京」プロジェクトの2030年に向けた政策目標は、次の5項目が柱になっている。

1・東京都民のスポーツ実施率(週1回以上スポーツをする人)を70%に向上し、さらに世界最高水準まで高めること。

2・障害のある東京都民のスポーツ実施率を50%に向上すること。

3・スポーツ推進認定企業を1000社に増やすこと。

4・東京2020大会に向けて建設した新規恒久施設を徹底的に有効活用し、国内外主要大会の開催数を年間200回、来場者数を年間310万人に増やすこと。

5・パラスポーツに関心がある東京都民の割合を80%に向上すること。

 2021~2022年はほとんど身動きが取れなかったため、目標を達成するためのハードルは上がっているが、ポストコロナで観光業界や飲食業界の利用客が徐々に戻っているように、スポーツ施設の利用者も従来の水準に戻すための取り組みを早急に行っていかなければならない。

「そのためにはメディア取材やSNSに力を入れ、東京都民の皆さんに対し様々な情報を積極的に発信していこうと思っています」

 5月1日には東京都立18スポーツ施設の利用に関する総合窓口「TOKYOスポーツ施設コンシェルジュ」を開設した。また、東京のスポーツ案内サイト「SPOPITA(スポピタ)」では東京都民の誰もがスポーツを楽しめるように、さまざまなコンテンツを発信している。これらの取り組みを通じてスポーツの振興と普及を目指す。

東京2020大会の会場にもなった東京体育館にて

「2025年には東京で世界陸上の開催が予定されていますし、私どもの事業団が準備業務を担うデフリンピック(聴覚障害者の国際スポーツ大会)も東京で初めて開催されます。また、東京ではありませんが、今年は福岡で世界水泳と沖縄でバスケットボールのワールドカップが開催されます。事業団としても、国際交流事業や都立スポーツ施設連携促進事業など、東京都と連携した様々な事業の実施を通じて、スポーツの盛り上がりをもう一度ピークに持っていきたいと思っています」

 東京2020大会の開催によって、東京のスポーツ施設は過去に例を見ないほど充実している。観戦したスポーツを自分でもやりたくなるような仕組み作りにこれから取り組んでいく。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。