日本代表はカタールワールドカップのときとはまるで違う戦いを見せてくれました。試合開始早々から攻撃に人数をかけました。もちろん守備の意識もとても高く、トランジションも素早かったと思います。前線から最終ラインまでをコンパクトにして相手を怖れず、積極的に高い位置からボールを奪いに行き、ドイツに主導権を握らせませんでした。

 11分に伊東純也がアントニオ・リュディガーの前で素早く合わせて先制点を奪ったものの、19分にレロイ・サネに決められます。この同点ゴールは完ぺきに崩されてしまったので、ここでひるんでもおかしくない状況でした。ですが受身にならず、22分には上田綺世が流れてきたボールをうまく蹴り込んで再びリードします。

 伊藤洋輝は最初サネに苦労していましたが、次第に対応できるようになりました。自分の前の三笘薫を高い位置に残しておこうとすると、どうしても苦戦する場面は出てくると思います。ですが三笘がボールを持つと、ドイツがダブルマークに来ても三笘はかわしていけました。その攻撃力を生かすためならこれは仕方がなかったでしょう。

 前半で1点のアドバンテージを得たことで森保一監督は後半から3バックに変えました。出てこざるを得ない相手の裏を突こうという狙いがはっきり見えましたし、実際に90分には久保建英が相手のボールを奪うと独走から浅野拓磨にゴールを決めさせ、さらに90+2分、またも久保がクロスでラストパスを送って田中碧のダメ押し点を演出しています。

 後半は一時5バックになってしまってバランスが悪くなりました。その時間帯でドイツにゴールを奪われていたら試合がどう転んだか分からなかったと思います。ただ、そういう押し込まれる時間があっても日本は持ち直し、耐えながら自分たちの狙いを待ちました。ドイツがとうとう集中力を切らしたところでボールを奪い、リードを広げて試合を終えることができました。

 僕はドイツが極端に弱くなったとは思っていません。確かに2014年ブラジルワールドカップで圧倒的な強さを見せつけて優勝したときがピークで、それよりは確実に落ちています。ですが局面で見せる個の強さと上手さはやはり世界トップクラス。そのドイツを相手のホームで圧倒することができたのです。

 選手は全員素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。大迫敬介も大舞台で安定感を見せていてよかったと思いますし、冨安健洋は別格の上手さでした。すごいダッシュで追いついたり、体で相手を吹き飛ばしたりと、頼れる選手が戻ってきました。板倉滉はディフェンスラインからボールを持ちだして運び、展開もできるので中盤を優位にするのに大いに役立っていました。

 菅原由勢は運動量とタイミングのいいオーバーラップで2ゴールに絡みましたし、伊東のスピードは相手を上回れることを証明しました。ボランチの遠藤航と守田英正は、この難敵に対しても普段と変わらないプレーを見せられたことが高く評価されると思います。

 そして鎌田大地は常に落ち着いたプレーで中盤に安定性をもたらしました。ボールを受けるか、ボールが受けられないときはスペースを作るというサッカーIQの高さを存分に発揮したと思います。

 上田はドイツ相手でもしっかりボールを収めて味方の上がりを待てたり、落としたりできるのを証明しました。流れてきたボールにうまく反応してゴールを決め、成長した姿を見せています。課題としてはあと2点のチャンスがあったので、それを決めてくれればドイツ相手にハットトリックだったのに、という点ですね。途中離脱は残念です。

 久保はリーグ戦での好調ぶりを背景に自信がみなぎっていました。トルコ戦ではさらに長い時間プレーして、もっと活躍してくれることでしょう。

 そして森保監督の采配が本当に素晴らしかったと思います。前半4バックを敷いた日本の出来は満足できるものだったでしょう。ですがそれを後半から大胆にも3バックに変えてテストするとともに結果も出しました。

 何より受身にならず、積極的なゲーム運びをして勝てたと思います。この試合は勝敗よりも内容が大切でしたが、内容を伴いながら勝てたという点で近年最もいいゲームになりました。

 また、これまではコンビで使うことでお互いのよさを引き出し合っていた久保と堂安律を離れたポジションに置き、中盤のオプションを増やしたことも書き残しておきたいと思います。堂安は出場時間が短く試合に絡めませんでしたが、そういう悔しい気持ちをバネにさらに伸びてくれるはずです。

 このチームならワールドカップでもさらに躍進できるのではないか、と思っています。今日のトルコ戦でも積極的な采配で主導権を握り、さらにみんなの夢を膨らませてほしいと心から願います。


前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。