森保一監督は2022年カタールワールドカップで、守備を重視して相手に合わせる戦い方を選択しました。ですが相手に合わせているだけでは、ワールドカップでベスト8以上にいく目標は到底達成できません。

 自分たちはどうやって戦い、どう勝っていくのか、きちんと主導権を握る方法を持っていないと世界では勝ち上がっていけないのです。引いて守ってからのカウンターという戦いだけで上を目指すのはギャンブルと言っていいでしょう。

 それがドイツ戦、トルコ戦では自分たちでゲームをしっかりコントロールし、主導権を握る戦いを見せてくれました。その上で4点を奪ってちゃんと勝利を収めたのです。現在、日本代表はチームとしてとてもいい方向に進んでいると思います。

 あとはこの戦い方を継続することができるか。2026年アメリカ・カナダ・メキシコワールドカップのときに、相手が強いからといってやり方を変え、再びカウンターを主体とするサッカーにしては意味がないのです。たとえ相手がブラジルやフランスだったとしても、同じように主導権を握るサッカーができるかどうかというのは、日本が取り組むべきことでしょう。

 また、どんな選手を起用しても同じような戦いができるかどうかが重要です。その意味では、ドイツ戦とトルコ戦で伊藤洋輝を除いて先発を10人入れ替えたのは英断でした。2チーム分の選手層があるというのも分かったのです。

 もちろん代表経験の多い選手同士をたくさん起用したドイツ戦のほうがスムーズな試合運びでした。ですが、多くの選手を入れ替えたトルコ戦でもしっかり結果を出したという点で得られた成果は大きかったと思います。

 特に久保建英がトップ下でも活躍できると自分の力を証明したことは、今後試せるシステムのバリエーションを増やしたという意味も持ちました。トップ下を久保にして、鎌田大地をボランチとして起用するプランも考えられると思います。これで久保と鎌田の両方で試合をコントロールできるようになるのです。

 選手個々のレベルがワールドカップのときに比べて上がっているのもハッキリと分かりました。代表チームは集まる時間が少ないのですが、その個人のベースアップを基に、今後もステップアップを継続していってくれることでしょう。

 ただ、僕は現在のチームに対して1つの課題と1つの懸案事項を感じています。まず課題とは1トップをどうするかということです。

 カタールワールドカップでは守備的な戦いをしたため、前線から相手を追い回すという役割が重要でした。そのためにワールドカップのドイツ戦、スペイン戦では前田大然が先発だったのだと思います。

 ですが、戦い方が変わってくるのなら、誰をファーストチョイスにするかということも違ってくるはずです。ドイツ戦で先発だった上田綺世、トルコ戦先発の古橋亨梧というように、別の選択になっても不思議ではありません。

 ただし、現時点で1トップに誰かピッタリはまっているかというと、そうではないと思います。何年もの間、不動の1トップだった大迫勇也のような選手はいないのです。

 現在のFWにももちろん個々のよさはあります。上田はポストプレーで2列目の選手を生かすことができます。大迫のようなタイプといっていいでしょう。古橋や前田は裏への抜け出しを得意としています。

 そんな個人の特長を考えつつ、日本の強みである豊富な2列目との組み合わせをどう考えるか。森保一監督が誰を試してどんな結論を出すのかには注目したいと思います。

 そして懸案事項だと思うのは、選手についてです。

 9月の2試合を見て思うのは、冨安健洋と遠藤航の存在は格別大きなものでした。この2人がチームの中で果たしている役割はとても大きく、守備に抜群の安定感をもたらしてくれました。

 ですが振り返ってみると、カタールでは2人も負傷に苦しんでいました。特に冨安は今年手術を受けて長期離脱を余儀なくされていたのです。

 2人、あるいはどちらかが欠けたときに戦力が大きくダウンして、戦い方を代えなくてはならないようでしたら困ります。システムのバリエーションはあまり増やさなくても、いろいろな選手をこの2人の代わりに起用して試しておき、不測の事態に備えてほしいと思います。

 心配の種はいつでもどこかにあるものです。それでも9月の日本代表の戦いを見て、夢は大きく広がりました。

前園真聖

前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。