コース変更で“高速コース”に。記録誕生の期待も高まる

 この2月26日、いよいよ東京マラソンが開催される。

 2007年に始まった同大会は、新宿の東京都庁をスタートし、銀座の繁華街から浅草の下町まで走り抜ける魅力的なコースが人気を呼び、今や国内外から3万5500人が参加する日本屈指のメガマラソンとなった。さらに11回目を迎える今回からゴール地点を大幅に変更。ランナー泣かせの終盤の難所が解消されることにより、“世界記録誕生”の呼び声も高くなってきている。

 これまでのゴール地点は湾岸沿いの東京ビッグサイトだったが、35キロを過ぎた終盤に佃大橋を上り下りる長いアップダウンがあり、さらに強い海風の影響を受けるため、ランナーにとっては記録が出にくいコースと言われてきた。大会記録は第8回大会(2014年)にディクソン・チュンバ(ケニア)がマークした2時間5分42秒だが、これも気象条件に恵まれたからこそのタイム。

 しかし、今回から終盤の高低差がほとんどなくなり、当日の天候次第では前代未聞の高速レースが望めるかもしれない。ゴール地点は丸の内仲通りを抜けた先にある東京駅丸の内口前の行幸通り。観戦する側にとっても利便性が良くなり、大観衆に見守られながらのフィニッシュは話題性という点でもこれまでのレースをはるかに上回るものになるだろう。

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エリートたちによる熾烈な競技会としての側面

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 その東京マラソンは、2013年よりワールド・マラソン・メジャーズの一つとなり、大会の重要性がより増しているのをご存知だろうか? ワールド・マラソン・メジャーズとは東京以外に、ボストン(4月)、ロンドン(4月)、ベルリン(9月)、シカゴ(10月)、ニューヨークシティ(11月)、そして五輪と世界陸上(ともに開催年のみ)を加えた各大会の成績をポイント化し、マラソンの総合優勝者を決める世界規模のシリーズだ。現在は昨年のボストンから今年のボストンまでの大会が対象となるシリーズ10が展開中で、優勝者には50万ドルの賞金が贈られる(※各大会の獲得ポイントは1位=25、2位=16、3位=9、4位=4、5位=1。シリーズ期間中最大2大会分のポイントで争われる)。ちなみに現在のランキング1位はリオ五輪の金メダリストでもあるエリウド・キプチョゲ(ケニア)だ。

 今回の東京マラソンにはワールド・マラソン・メジャーズの現在ランキング6位で、シリーズ8(2014年)の優勝者であるウィルソン・キプサング(ケニア)が海外招待選手として出場する。2016年ベルリンでは世界歴代4位タイとなる2時間3分13秒をマークし2位。182センチの長身から繰り出される大きなストライドを武器に2時間3分台を過去に3度記録した唯一のランナーであり、世界記録(※2時間2分57秒)を破る可能性が最も高い男の一人だ。

 他にも2時間4分32秒の自己記録を持ち、今大会記録保持者である前出のチュンバ、2012年シカゴで2時間4分38秒をマークし優勝したツェガエ・ケベデ(エチオビア)など実力派が目白押し。今回の海外招待選手の中で持ちタイムが2時間7分を切るランナーは実に10名にものぼる。

 国内の招待組では、2015年東京で2時間7分39秒を叩き出した今井正人(トヨタ自動車北九州)が3年連続でエントリー。昨年は2時間12分18秒と振るわなかったが、順天堂大時代に箱根駅伝を沸かせた元祖山の神は2年前の快走の再現を目指す。その箱根で青山学院大の連覇に貢献した下田裕太(3年)も2年連続で東京に挑む。昨年記録した2時間11分34秒は10代での日本最高記録。学生の長距離界に変革を巻き起こした青学のシンボリックなランナーとして、さらなる記録更新に期待が掛かる。また、大学駅伝やニューイヤー駅伝で脚光を浴びた服部優馬(トヨタ自動車)、招待選手ではないが、若手有望株の市田孝(旭化成)、設楽悠太(Honda)も好調だ。高岡寿成が2002年シカゴでマークした2時間6分16秒の日本記録が果たして塗り替えられるのか注目される。

3000万円の賞金を手にする者は現れるのか!?

 では、ワールド・マラソン・メジャーズにおける日本人ランナーの成績はどうか。2006年のシリーズ1からを振り返ってもランキング20位以内に入ったのは、昨年のニューヨークシティで4位に入賞し、シリーズ10で18位にランクインし、今大会にも国内招待選手として出場予定の山本浩之(コニカミノルタ)のみ。日本男子マラソンの衰退はワールド・マラソン・メジャーズのランキングにも如実に表れている。

 ただし、過去の歴史を紐解くと日本人選手も実はこれらの大会で確かな足跡を残している。ボストンでは君原健二が1966年に優勝し1968年メキシコ五輪で銀メダルを獲得。瀬古利彦は1981年、1987年と2度優勝しており、1986年にはロンドン、シカゴでも優勝するなど当時無類の強さを誇った。1987年ロンドンで優勝した谷口浩美も1991年世界陸上東京大会で金メダルに輝いている。同様に女子も2000年シドニー五輪の金メダリスト高橋尚子が2001年ベルリンで2時間19分46秒と当時の世界最高記録をマークして優勝し翌年も連覇を達成。2004年アテネ五輪で世界の頂点に立った野口みずきは2005年ベルリンで2時間19分12秒の現日本記録を樹立し優勝している。これらの戦績はすべてワールド・マラソン・メジャーズが始まる以前のものだが、強豪が集うビッグレースで勝者となった日本人ランナーたちは五輪や世界陸上でもしっかりと結果を残した。

 マラソンの場合、五輪や世界陸上に出場するためには国内の選考レースを勝ち抜かなければならない。となると、どうしても国内優先となり、日程的にも接近するワールド・マラソン・メジャーズの大会に照準を合わせるのが厳しくなる。さらに大学、実業団のランナーは以前よりも注目度の高い駅伝に掛かる比重が大きいため、マラソンに向けた調整がより困難だ。加えて春から秋に掛けてはトラック種目も疎かにできない。所属チームの事情でマラソンに特化した練習に取り組めないランナーが実は多い。

 ただし、現在の世界のマラソン界はワールド・マラソン・メジャーズを中心に回っているのは紛れもない事実。世界のレースに果敢に挑戦した先達たちのように海外のレースにも積極的に挑戦すべきだろう。シリーズ10では7レース目に当たる東京マラソンは、ワールド・マラソン・メジャーズに相応しく優勝賞金は男女ともに1100万円(副賞を含む)。大会記録には300万円、日本記録には500万円、そして世界記録には3000万円のビッグボーナスが用意されている。スタートは2月26日午前9時10分。ワールド・マラソン・メジャーズのポイント争いとともに記録の行方に注目したい。


VictorySportsNews編集部