たくましさで歓喜

 バスケットボールが先陣を切った。沖縄市などで開催されたワールドカップ(W杯)。米プロNBAの八村塁(レーカーズ)は不参加だったが、渡邊雄太(サンズ)が代表入りし、ホープの河村勇輝(横浜BC)らも活躍した。当初の劣勢の予想を覆し、1次リーグではフィンランドを倒してW杯で欧州勢から初勝利の快挙。順位決定リーグ最終戦でカボベルデに勝ち、今大会のアジア勢最上位を確定させて五輪出場権を得た。日本の団体球技で第1号のおまけ付きで、テレビの生中継も相まって列島を大いに沸かせた。トム・ホーバス監督は「長い間、毎日いろいろやって準備が大変。でも大きな試合に勝ってみんなの顔を見ると本当に最高です」と興奮を隠さなかった。

 続いたのが、イタリア1部リーグでプレーするエースの石川祐希(ミラノ)らを擁したバレーボール。こちらは東京五輪で29年ぶりに8強入りし、今年は主要国際大会のネーションズリーグ3位、アジア選手権制覇と期待度は高めだった。五輪予選東京大会では、2戦目に格下のエジプトにセットカウント2-0からまさかの逆転負け。ただ、その後は尻上がりに調子を上げ、強豪のセルビア、スロベニアを立て続けに破って五輪切符を手にした。

 最後がハンドボールだった。カタールで実施された五輪アジア予選で、日本は1次リーグからイランやバーレーン、クウェートなどに全勝。準決勝では宿敵の韓国を破り、決勝では再びバーレーンから勝利を収めて出場権をゲットした。かつては〝中東の笛〟と呼ばれ、中東勢に有利な判定が横行して、2008年北京五輪に向けてアジア予選がやり直しになる騒動もあった。今回、日本はその中東の地で堂々たる優勝でたくましさを披露した。

外国出身監督とボーナス

 この3競技には共通項がある。まず、監督を海外から招いた点だ。中でも知名度が高いのがバスケットのホーバス監督。東京五輪では女子の日本代表を率いて見事に銀メダルに輝いた。今回のW杯では3点シュートを巧みに交える戦術で3勝。日本語でげきを飛ばす熱血指導ぶりも脚光を浴び、テレビ番組にも再三登場している。

 バレーは東京五輪後にフランス出身のフィリップ・ブラン氏が新監督になった。2014年にはポーランドのコーチとして世界選手権を制した実績を持つ。ハンドは2017年に就任したアイスランド出身のダグル・シグルドソン監督。2016年リオデジャネイロ五輪ではドイツ代表を率いて銅メダルと、確かな結果を残している。日本ハンドボール協会の金丸恭文会長は五輪出場権獲得を受け「選手起用ではダグル監督が選手の素晴らしい闘志を信頼し、ここ一番での精神力、守備力の強化を図り、それに見事に応えた選手たち、まさしくチーム一丸の勝利です」と、指揮官を含めてたたえていた。

 チーム力の底上げには海外でプレーする選手の存在が挙げられる。前述のようにバスケットの渡邊が世界最高峰のNBAでプレーし、富永啓生(ネブラスカ大)も躍動した。バレーの石川はミラノで4シーズン目を迎え、高橋藍(日体大)も近年はイタリアでプレー。ハンドでは司令塔の23歳、安平光佑が北マケドニアのRKバルダルに所属しており、アジア予選決勝ではチーム最多の10得点をマークした。国内では得られない体験や情報を代表に還元すれば、好循環が生まれやすい。

 今回の出場権確保で金銭面でのサポートも注目された。バスケットではメインスポンサーのソフトバンクから支援金1億円が贈られることが発表され、強化費や選手、スタッフへの報奨金に充てられる。ハンドでは日本協会の規程で、五輪切符を手に入れたチームには報奨金1千万円を授与すると定められている。ちなみに世界選手権の出場権では100万円なだけに、五輪参加への重要度が象徴されている。

イメージ向上に最多観客

 人気面で早くも好影響が出た。アスリートのイメージに関し、博報堂DYメディアパートナーズなどが行った10月のウェブ調査(首都圏+京阪神圏の15~69歳の男女、600サンプル)によると、総合ランキングで1位に座った米大リーグの大谷翔平に続き、2位にはバスケットのホーバス監督がランクインした。選手以外の上位で、存在感の大きさが表れた。3位はバレーの西田有志(パナソニック)、4位にはバスケットの河村、5位にはバレーの石川、7位にはバレーの高橋が入った。高橋は「華やかな」アスリート部門で3位と躍進している。

 バスケットやバレーに比べるとマイナーな印象のハンドも盛り上がりの傾向にある。夏場にフランスの強豪クラブ、パリ・サンジェルマンを迎えた国際親善試合では2試合とも1万人を超える観衆が集まった。2試合目の日本代表との一戦では1万801人が来場し、国内開催のハンドボールの試合で最多を更新した。東京五輪代表で主将を務めた土井レミイ杏利(ジークスター東京)が動画投稿アプリ「TikTok」で人気を博してメディアへの露出が増加。フォロワーは700万に達し、競技の知名度向上に貢献したことも見逃せない。

 代表戦後、リーグ戦の集客が目覚ましかったのがバスケットのBリーグ。10月5日からのB1開幕節の合計入場者数は昨年に比べて約2万5千人も増加した。バレーボールの大塚達宣(パナソニック)は五輪予選終了時に「この熱量を次は国内リーグにつなげていければと思っている」とコメント。その競技の日本代表が強くなれば、子どもたちの憧れの的となりやすい。普及の面でも大きな効果をもたらすだけに、流れを生かして来年のパリ五輪につなげていくことが大切だ。


高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事