日本が長年苦しんできた問題は、引いた相手を崩せないというものでした。よくあるパターンだったのは、前半を0-0で終え、後半何とか点を奪って辛くも勝利を収めるか、あるいは最後に相手のカウンターを受けて敗戦するかというものです。

 ミャンマーも日本に対して極端な守備的布陣を敷きました。最終ラインに7人を並べたり、5人のディフェンスラインの前に4人のMFでその間を埋めたり、攻撃を考えずにひたすら失点しないことのためだけにプレーしたと言えます。実際、ミャンマーはシュート0本で終えています。それくらい守備だけを考えた試合運びをしたのです。

 GKまで含めて10人が守りを固めるという状況で、日本は攻めるスペースがほとんどない状態だったにもかかわらず5点を奪いました。サイドと中央の攻撃を組み合わせながら、パススピードとテンポの変化でミャンマーの選手の立ち位置をずらし、ドリブルとワンタッチのパスで攻略したのです。

 しかも相手に粘られることなく、11分には相手ゴールをこじ開けました。普通だったら相手はこれで攻めてこざるを得なくなり、もっと簡単にゴールを重ねることができたと思います。ですが大量失点しないことをミッションとしていたミャンマーは、それでも前に出てこないという戦略を採りました。

 日本の成長が感じられたのは、そこで攻撃の手を緩めることなく、前半のうちに3点を奪いきったこと、そして後半立ち上がりにも相手の出鼻を挫くゴールを決めたことです。先制点に満足することなく攻め続け、点差を広げたおかげで新しい選手も使いながら危なげなく勝利を収めることができました。

 試合展開としては申し分ない戦いになったと思います。そして選手たちが個々に特長を発揮してくれました。特にハットトリックを決めた上田綺世は、長らく待たれていたワントップを務められるFWとして見事なプレーを見せています。

 3点は決して簡単なゴールではなく、どれも難しいシュートでした。1点目は足下の技術に加えてヘディングのテクニックがあると証明しました。うまくハーフスペースのポケットに入って決めた2点目もいいゴールでしたし、3点目の、瞬間的に右足でシュートした判断も正確でした。ポテンシャルも含めて上田の成長は今後の日本にとって大きなプラスになることでしょう。

 また、日本の2点目を決めた鎌田大地は、ボランチとしてもプレーできるし、インサイドハーフとしてはパスとともにミドルシュートを決められることも見せてくれました。利き足ではない左足でゴールを決めたことでも能力の高さを示したと思います。ミャンマー戦後に腰の負傷で代表チームを離脱したのは残念でなりません。

 3点目を演出した堂安律も、それだけで終わることなく自身で5点目を決めたところに、大きな意味があります。南野拓実も巧みなアシストを2本パスしましたが、欲を言えばゴールもほしかったはずです。

 というのも、アシストを記録しても、それだけで終わるとこの代表チームでのポジションを確立できないだろうと思うからです。今の日本代表チームは戦い方が洗練されてきたのと同時に、先発になってもおかしくない選手が2チーム分以上います。ですからプレーヤーは数字という結果を出すにしても、より大きな数字をあげないといけないのです。

 今のチームは7、8人の選手を入れ替えても同じぐらいの力を発揮できるはずです。そのときの調子によって先発を入れ替えられるほど、選手たちの実力は拮抗しています。森保ジャパン第一章では、まだまだ先発は半分固定して使わなければなりませんでした。現在の第二章では「レギュラーがケガをしたらどうしようか」という心配はしなくてすみます。

 この選手層の厚さも今後の戦いに好影響を与えるはずです。というのも、日本にとって大きなネックになっているワールドカップ予選のための移動という問題を解決してくれるからです。

 たとえばミャンマー戦では、ヨーロッパから戻ってくる選手が全員揃って練習できたのは試合の前日でした。そして試合後、そのままシリア戦に向けてサウジアラビアに移動しなければなりませんでした。ヨーロッパから日本、そしてすぐに中東というスケジュールをこなさなければならないのは、海外でプレーする選手が多い日本の宿命です。

 そんな選手の疲労問題をどう克服していくかという課題は、選手を入れ替えることで軽減できるでしょう。今回のシリア戦だけではなく、今後もワールドカップ予選では中4日という日程が続きますが、ターンオーバーを使っても何の問題もないはずです。

 シリア戦は、ミャンマー戦で長時間プレーした選手は起用しないでも戦力は落ちないはずです。相手は移動の疲れもなく待ち構えているでしょうが、必ずや勝利を収めてくれるものだと信じています。


【前園真聖・予想スタメン】
GK 大迫敬介
DF 菅原由勢
   谷口彰悟(冨安健洋)
   冨安健洋(伊藤洋輝)
   伊藤洋輝(中山雄太)
ボランチ 遠藤航
     守田英正
2列目 伊東純也
    久保建英
    浅野拓磨
トップ 上田綺世

前園真聖

前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。