ナスは難しい

――前回のVol.2で「長生き」というキーワードが出ましたが、長生きしたいと願う者は、日々どんな食事を摂ればいいのでしょうか。先生は、家庭菜園もおやりになっているそうですが。

「野菜は作っているけど、べつに健康とか長生きを目的にしてやっているわけじゃないよ。虫を捕まえて標本にするのが面白いのと同じで、いろんな野菜を作って食べるのが面白いからやってるの。
 夏はミニトマト、ピーマン、パプリカ。ピーマンの収穫は終わったけど、パプリカはまだ色づいていないやつもあって。本当は早く始末して冬野菜を植えたいんだけど、気温の影響だろうな」

――いいですね。家庭菜園でキュウリやなんかをもいで、パキッと。

「でもね、キュウリは無農薬では育てるのが難しいんだ。僕も最初はキュウリ作って、いいなあ、いっぱい成ったなあ、なんて喜んでいたら、害虫(ウリハムシ)がいっぱいやってきて、農薬撒くのがいやだったのでやめちゃった。あとナスも難しい」

――70歳を越えた先生の日々の食事内容を聞かせて下さい。野菜中心ですか?

「起きるのが遅いから、最近は、自分で朝食を作っているよ。メニューは、まずご飯、白米ね。これはいっぱい炊いたやつを小分けにして、冷凍庫に入れてある。それから、半熟卵入りの味噌汁に、庭で収穫した野菜炒めとか」

――けっこう量もありそうですね。

「だから、昼のほうが軽いよね。自分で適当にラーメン茹でたりとか。夜は、女房が作ってくれるから、それで晩酌」

養老さんのクワガタムシ

――休肝日は設けていますか?

「そんなの、ないよ。酒、好きだもん。これ、ちゃんと覚えているんだけど、今は2023年でしょ。僕が最後に、酒を飲まなかった日は、1987年の2月の、どこかの日。だから、その日から、約36年間は1日も開けずに、毎晩飲んでいるね」

――どうして、その日だけ。

「ちょうど、おふくろが東大病院に入院していたんだよね。1度くらい見舞いに行かなくちゃと思っていたら、養老さんとも知り合いの友人から電話があったんだ。それで、その友人が養老さんの研究室に遊びに行ったら、オーストラリアで採ってきたクワガタムシの標本がたくさんあったって言ったんだよね。
それは大ニュースだと思って、おふくろの見舞いに行く前に、養老さんの研究室に寄ったんだ。そうしたら、僕が持っていないクワガタがいっぱいあって、養老さんに『養老先生、少し分けてくれませんか?』って聞いたら、『ウン、いいよ』って言うから、すかさず『これ全部、僕に下さい』って、全部もらってきちゃったんだ。

――養老先生、太っ腹ですね。

「養老さんは、ものすごく気前がいいんだ。それで、もらったクワガタを持って、おふくろの病室へ行って、ほくほくした気持ちでおふくろと話をしてたら、いきなり肝性昏睡(肝臓機能の低下による意識障害)が始まって。あっまずいと思って、すぐ医者を呼んだら、『今晩がヤマになるかも』って。仕方がないので、そのままずっと病室でおふくろを見守っていたの。明け方になっておふくろが目を覚まして、医者が来て『とりあえず、峠は越しました』と言った途端に、昨日、酒飲まなかったと気がついた。それ以来、1日も欠かさず飲んでる」

――日本酒ですか。

「一番よく飲むのは芋焼酎、日本酒も好きだね。あとはビールやワイン。1日で日本酒換算で2~3合くらいかな」

――ずいぶん飲みますね。

「酒は身体に合っているから、大丈夫なんだ。養老さんは合ってなかったから、55歳くらいで酒をやめて、86歳になった今でも煙草は吸う」

――合っていないというのは、どういう意味なのでしょうか。

「僕は咳が止まらなくなって、試しに煙草をやめてみたら咳が治まったからやめたの。養老さんが酒をやめたのも、腹の調子が悪くなって、やめたら治ったって言っていたから一緒。だから医者の診断がどうとか、そういうことじゃなくて、自分の身体の調子で判断すればいいんだよ。数字の幅だけを気にする、健康診断なんて、ほんと無意味だと思うな」

【身体と私】生物学者・池田清彦が語る〈食の冒険〉Vol.4に続く


【池田清彦/略歴】
 生物学者。理学博士。1947年、東京に生まれる。東京教育大学・理学部生物学科卒。東京都立大学・大学院・理学研究科博士課程・生物学専攻・単位取得満期退学。山梨大学・教育人間科学部教授、早稲田大学・国際教養学部教授を経て、現在、山梨大学名誉教授、早稲田大学名誉教授、TAKAO 599 MUSEUM名誉館長。フジテレビ系「ホンマでっか⁉TV」に出演するなどテレビ、新聞、雑誌で活躍。「まぐまぐ」でメルマガ「池田清彦のやせ我慢日記」、YouTubeとVoicyで「池田清彦の森羅万象」を配信中。単行本の最新刊『食糧危機という真っ赤な嘘』(ビジネス社)が話題を呼んでいる。

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VictorySportsNews編集部