リーグ戦19連勝もシーズン終盤に主力のケガから歯車の狂い

 日本代表7人とアメリカ代表1人を抱えるスター軍団パナソニックが、同じ大阪が拠点のライバルであるサントリーの前に屈した。パナソニックは19連勝するなど32勝4敗という成績でRR1位を決めていた。しかし、リーグ終盤に西田のケガによる離脱をきっかけに、歯車の狂いが生じ、最終的に決勝では名将ティリ・ロラン監督の采配にも迷いが生じてしまった。

 ケガ明けの西田は前週の準決勝に引き続きベンチスタートとなり、攻撃の要であるオポジットは21歳の西山大翔がつとめた。

 第1セット、サントリーがサーブでアメリカ代表ジェスキー・トーマス(30歳)を徹底的に狙って攻撃の一角をつぶし、そして組織的なブロックと粘り強いディグ(レシーブ)で、パナソニックの攻撃陣を押さえ込んだ。途中で西山と西田を交代し、状況打開を図るもそのまま第1セットはサントリーが先取した。

 第2セット、西田がスタートからコートに立ちベスト布陣で臨んだ。このセットは両チームとも守備面での見せ場が多いセットとなった。パナソニックに所属する日本代表アウトサイドヒッターの大塚達宣(23歳)や日本代表リベロ・山本智大(29歳)が、サントリーの元ロシア代表で220cmの大砲ムセルスキー・ドミトリー(35歳)や今年度の日本代表に選ばれたデ・アルマス アライン(23歳)の強打を何度も拾えば、サントリーも元日本代表の藤中謙也(30歳)や日本代表リベロ・藤中颯志(24歳)の藤中兄弟を中心にパナソニックのアタックを何度も拾い続けた。デュースが続く大接戦となったが、サントリーがセットを連取した。

 その後もサントリーの勢いは止まらず、第3セットは終始サントリーペースで進み、最後はムセルスキーがスパイクを決め、サントリーが2シーズンぶり10度目の優勝を決めた。パナソニックは2018・2019年シーズン以来の優勝を狙ったが、あと一歩及ばなかった。

第1セット途中で"ゲームチェンジャー”西田投入も挽回できず

 パナソニックの試合前の注目ポイントの1つだったのが、西田と西山のどちらをスタメンに選ぶかだった。リーグ戦終盤をケガで欠場していた西田は、準決勝のJTサンダーズ広島戦2日前に練習に復帰。JT戦ではスタメンが西山、各セット途中交代で西田が起用されていた。一方、西山は、リーグ終盤の西田のケガに伴い、スタメンに抜擢され活躍を見せており、準決勝でも十分な活躍を見せていた。

 現時点で見れば、西田の方が実力も経験も圧倒的に西山より上だ。ただ、リーグ終盤戦や準決勝で結果を残していた西山を、ティリ監督は報いる形で決勝のスタメンに選んだ。ティリ監督は試合後の会見で「今シーズン良いプレーをしていた。レギュラーラウンドで安定したプレーをしていた。西田がどれくらいプレーできるかわからなかったからこそ、スタメンに西山を入れた」と理由を明かし、同時に「西田には試合前に、出る時は最後まで出るつもりであってほしいと伝えた。西田は試合を変えるゲームチェンジャーだからこそ、西山をスタメンに入れた」と話した。

 試合後、悔し涙で目を腫らしていた西山はスタメン抜擢に対し、「他の人より先に、スタートから出すというのは監督から聞いていたので、自分の気持ちを作ったりとか早くはできていた。ファイナルでも出られるというのが自信に繋がったというのはありました。結果的に見たら、自分のプレーを信用してもらったのを裏切ったので悔しい」と話していた。

 西山にとって気の毒だったのが、西山個人のパフォーマンスというより、第1セットはジェスキー、大塚などパナソニック全体の攻撃がサントリーの守備戦術を前に思うように決まらなくなっていたこと。そこで、攻撃の爆発力があり、チームの雰囲気だけでなく会場の雰囲気をも一気に変えられる「ゲームチェンジャー」の西田を出さざるを得ない状況になってしまった。西田は第1セット途中から第3セットまで、アタックが決定率69.6%で16点、サーブが1点、ブロックが1点の計18点とチームを引っ張ったが、武器のジャンプサーブが思うように決まらなかったりと、試合勘の影響も垣間見えた。

タイムアウトのタイミング、選手交代など采配に迷い

 もしティリ監督が西田を第1セットからスタメンに選んだとしても、違う結果になったかどうかはわからない。しかし、西田のこの試合で見せた攻撃力を見ると、第1セットの頭からいってたら、試合の流れがもう少しパナソニックに傾く可能性はあったのかもしれない。ケガから復帰間もない西田の実戦感覚やスタミナ面がどの程度戻っているか、ティリ監督が考慮するのは当然といえる。

 とはいえ、ティリ監督の采配はいつもより後手だったのは否めない。第2セットでは僅差での展開が続く難しいセットであったことは間違いないが、意図が読めないタイムアウトの使い方をしていた。また、ジェスキーがサントリーから徹底的にサーブで狙われ、特にポジション2(前衛ライト)での攻撃ミスが続いていたが、対処が遅れてしまった。

 ティリ監督に采配での迷いについて問うと、「簡単なサーブやトスが良い時でも全然決まらなかったので、そこに迷いがありましたし、状況が悪い時に判断が良くなく、より悪くなっていった。船があるとして、色んな所に穴が空いてて、最初にどこから穴を埋めるか迷っていた」と例えを交えながら振り返った。フランス代表を東京オリンピックで金メダルに導いた名将にとって、パナソニックを率いて4シーズン目で就任1シーズン目以来の決勝だったが、再びサントリーの前に苦杯を喫した。

悔しいリーグ前半から、後半に大活躍を見せた西山

悔しい思いをした西山は、3年前に関東の強豪・東海大学を半年で中退して、一時はバレーから離れるつもりだったところから、パナソニックに声をかけてもらい、2022年に正式加入した。昨シーズンは途中交代での出場ながら目立つ活躍をし、今シーズンは飛躍の年になるはずだった。しかし、シーズンに入っても出場機会自体がなかなか与えられず、一時は焦りをもらしていた。年が明けてから西田のケガによる離脱をきっかけに、一気に出場機会を得て活躍。その活躍ぶりを認められた中での決勝スタメン起用だった。

「前半はなかなか出られず2枚替えばかりで。その時でも結果をあまり残せず、1月、2月、3月となって試合に出られる機会が増えて、自分に良い感じにプレーであったり、気持ちであったり良かった。(我慢の時期はどう向き合った?)ストレスは今もあるが、それはこらえて、自分なりのプレーをどうしていくか、1試合あったら練習という形にしていった」

試合後、悔しさを滲ませた西山

 決勝は西山にとっては苦い経験だったかもしれない。ただ、シーズンを通してみれば間違いなく大きな成長をみせた。

新リーグに向けて気になる新主力の動向

 来季開幕の新リーグの男子では、これまでの外国人枠1人とアジア枠1人から、外国人枠2人とアジア枠1人に代わる(※一方で、これまでアジア枠に認められていた中国がアジア枠対象国から外れる)。既に、海外メディアからは多くの世界的な選手の日本参戦が報じられている。日本代表選手たちも、所属チームからの退団が発表されたり、海外移籍情報などが飛び交う。パナソニックが新リーグ開幕に向けて、どこまで現有戦力を維持でき、そしてさらなる戦力アップができるか。海外移籍の噂が出ている大塚に、パナソニックのユニホームを着て最後の試合か問うと「それに関しては僕からは言えない。これは毎年変わらずそうですが、僕は毎年このチームで自分を鍛えたいという思いで、やらせてもらっている。そこに関してはリーグ(シーズン)が終わってからチームと話になると思います」と話した。また、加入1シーズン目から大活躍だったジェスキーは「(契約継続?)そうだよ。来季もプレーするよ」と明言した。

 パリオリンピック後に始まるSVリーグに向けて、パナソニックパンサーズは現在、新アリーナや新チーム名、エンブレム変更など多くの準備をしている。5月の黒鷲旗全日本男女選抜大会を残すが、その後のオフシーズンにあるであろう発信も楽しみだ。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。