「Prime Video Boxing10」は2日間にわたって7つの世界タイトルマッチを集中開催するという、前例のないイベントだった。さらに両日のメインイベントをバンタム級戦とし、勝者同士の統一戦を煽るという趣向だった。中谷は2日目のメインに登場し、挑戦者ペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ)を6ラウンドTKOで下した。76勝1敗、ダウン経験なしのペッチを2度倒す痛烈なTKO勝利で、中谷株はさらに上昇したのだ。

井上が陥落

 1日目のメインはWBA(世界ボクシング協会)のバンタム級戦だったが、こちらは中谷との統一戦がすでに噂になっていた井上拓真(大橋)が堤聖也(角海老宝石)に12回判定負けを喫し、チャンピオン交代となっていた。これにより新チャンピオンとなったばかりの堤と中谷の統一戦が実現するのかというと、そう簡単な話ではなく、ひとまず中谷の次戦も白紙に戻った状態である。

 それはそれとして、井上の陥落でバンタム級戦線に波乱が起きたのは事実である。高校時代に一度負けた井上に借りを返そうとプロの世界に飛び込んだ堤にとっては生涯の一戦を終えたばかり。最新のチャンピオン堤が今後どういう路線を行くのか、興味深いところだ。

 残る2団体のチャンピオン——WBO(世界ボクシング機構)の武居由樹(大橋)、そしてIBF(国際ボクシング連盟)の西田凌佑はどうか。ともに年内に防衛戦を控えており、まずはここにしっかり勝たないとその先の展開はない。

 武居は12月24日に井上尚弥(大橋)の世界スーパーバンタム級王座防衛戦と同じリングで2度目の防衛戦を行う(挑戦者はタイのユッタポン・トンディ)。興行はLeminoが配信する。

 ちなみに武居は他団体王者との統一戦よりも那須川天心(帝拳)との対戦が大きくクローズアップされている。ご存じのとおり、二人にはキック出身という共通項があり、それぞれのファン人気も相当なもの。実現すれば大きな話題になるに違いない。果たしてそれが武居の防衛戦としてなのか、それとも那須川が別の王座を獲ってから武居との統一戦の可能性もあるのか?

伸びしろしかないIBFチャンピオン

 西田は12月15日に地元大阪にアンチャイ・ドンスア(タイ)を迎えてIBF王座の初防衛戦に臨む。4人のチャンピオンでは唯一関西圏の選手で、興行的にも別路線(タイトル獲得戦はABEMAが中継)だったが、今回はU−NEXTに決定した。U−NEXTが日本人選手の世界戦ライブ配信に乗り出す新シリーズの第1弾である。陣営ともども他団体王者との統一戦や那須川との試合に意欲的な姿勢である。

 西田はサウスポーのボクサー型。IBF王座を奪取したエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)との試合では、アウトボクシングのみならず接近戦でも押し負けず、新しい魅力をアピールした。

 最近では珍しく、ボクシングを始めたのは高校に入ってからという点も、豊かな伸びしろを感じさせる。大学でボクシングをリタイアするつもりが不完全燃焼に終わったため、プロに転じた。

 キャリアは9戦9勝1KOで4人中もっとも浅いが、負けにくいスタイルを持っており、関係者の間でも高く評価されている。世界ランカーの大森将平戦、元世界王者の比嘉大吾戦など「冒険マッチ」と目された試合で不利予想を覆して台頭した。その最たる例がロドリゲス戦といえる。

 このロドリゲス戦は、「勝っても負けても引退」のつもりで臨んでいた。ボクシングをやり切るというプロ入り時の目標が根底にあるから、世界チャンピオン相手に全力を注ぎこむ試合ができればそれでいいと考えていたのだ。一戦にかける思いも西田の強さの秘密だろう。

 くどくなるが、まずは西田と武居が防衛戦をクリアすること、なればこそ来年のバンタム級の展望が非常におもしろくなる。


VictorySportsNews編集部