「2月のキャンプから『捲土重来2025』をチームスローガンに戦ってまいりましたが、非常に厳しいシーズンになり、ファンの皆さんには本当に苦しい思いをさせ、悲しい思いをさせ、本当に責任を感じております」
本拠地・神宮でのホーム最終戦後に挨拶に立った髙津監督がそう語ったように、今シーズンは本当に苦しい戦いが続いた。ただ、監督の力だけではどうにもならなかったという見方もできる。それほどまでにこの2025年は、ヤクルトが抱える課題がいくつも浮き彫りになったシーズンでもあった。
たとえば、これまでもしばしば“ヤ戦病院”と揶揄されてきたケガ人の多さ。しかも、今季は主砲の村上宗隆、キャプテンの山田哲人らを開幕前から故障で欠き、その後も長岡秀樹、ドミンゴ・サンタナ、そしてFA新加入の茂木栄五郎など、レギュラークラスの離脱が相次いだ。歴史を紐解くと、ヤクルトは主力選手が故障で離脱したシーズンは総じて下位に低迷している。一方で、ここ10年ほどのスパンで見ても主力にほとんどケガ人が出なかった2015、21、22年はいずれもリーグ優勝を果たしているのだが、今年は悪い意味で歴史が繰り返される結果となった。
今シーズンに関していえばソフトバンクなどでも多くの主力が離脱しており、ヤクルトだけがケガ人が多いわけではないと主張する球団関係者もいる。ただし、決して選手層が厚いとは言えないだけに、主力が抜けるとどうしても戦力の大幅ダウンに直結してしまう。中でも痛かったのが主砲である村上の離脱。なにしろチームが連覇した2021、21年は2年トータルで95本塁打、246打点を叩き出した「村神様」である。後半戦に入って本格的に復帰してからは最初の38試合で19本塁打と驚異的なペースでアーチを量産しただけに、髙津監督が「(前半戦は)アレがいなかったわけだからね」と苦笑したのも無理はなかった。もっともその村上はかねてより今オフのメジャーリーグ挑戦を希望しており、来季はチームには不在となるのが既定路線。どうやってその穴を埋めるかも大きな課題となる。
前述の「ヤ戦病院」と同様に毎年のように言われる「投手力」も来季に向けての課題の1つ。現時点でのチーム防御率3.57は5位の広島(3.18)に大きく差をつけられてのリーグワーストで、先発に限れば実に4点近い。これは何も今シーズンに限った話ではなく、そのためドラフトではもう何年も先発候補として大学生や社会人を中心とした即戦力投手の上位指名が続いているが、これがなかなか上手くいっていない。
昨年までの10年間のドラフト上位(3位以内)で指名された30選手のうち、1位の9人を含め22人までが投手(高卒含む)。この中で先発候補として獲得したピッチャーは16人に上るが、入団後に1軍で年間20試合以上先発したのは原樹理(2015年1位=2022年20試合)、高橋奎二(2015年3位=2023、24年20試合)、吉村貢司郎(2022年1位=2023年23試合、2024年22試合)しかいない。
中には清水昇(2018年1位)や木澤尚文(2021年1位)のようにリリーフ転向で成功した例もあるし、入団5年目の今季は後半戦だけで3勝した山野太一(2020年2位)や7月にプロ初勝利を挙げたルーキーの中村優斗(2024年1位)のように「これから」が期待される投手もいる。他方で今年戦力外通告を受けたばかりの原や山下輝(2021年1位)を含めると、これで過去10年に先発候補としてドラフト上位で指名されたピッチャーの半数がチームを去ったことになる。全体的に見て、思惑どおりに行っているとは言いがたい。
また、長年にわたる“投手偏重”ドラフトによって野手の上位指名は極端に少なくなっていて、同じく過去10年のドラフトで上位指名された野手は8人だけ。この中でレギュラーの座を掴んだのは、ヤクルトの野手では現時点で最後の「ドラ1」である村上(2017年1位)を除くと、今季高卒5年目で初の規定打席に到達した内山壮真(2020年3位)しかいない。塩見泰隆(2017年4位)や長岡(2019年5位)のように下位指名からレギュラーになった選手もいるが、今季セ・リーグを制した阪神が打線の中軸を森下翔太、佐藤輝明、大山悠輔の「ドラ1トリオ」で固めているように、村上が抜けるヤクルトもそろそろドラ1クラスのスケールの大きな打者の獲得が望まれる。
髙津監督の退任が決まったヤクルトは、29日には原、山下の他に盗塁王4回の西川遥輝らを含む総勢9人の戦力外を発表。次期監督には現役時代に「ブンブン丸」の異名を取った池山隆寛2軍監督の昇格が確実との報道も出ている。フロントでは今季まで6年間務めた小川淳司GMに代わり、現役時代はメジャーリーグでもプレーした経験を持つ青木宣親GM特別補佐の就任が有力視されている。
3年連続Bクラスに沈んだヤクルトには、前述のとおり課題がいくつもある。たとえ監督が代わっても、それを1つひとつ解決していくのは現場の力だけではできないし、時間もかかるだろう。体制が大きく変わる来シーズン、まずは現場とフロントが一体となって、1歩ずつチーム再建への道を進んでいくしかない。
(文中の成績は9月29日終了時点)
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