現役時代の池田氏は日本代表として五輪などの国際大会を経験。引退後は故郷・山形県のスポーツ協会のスポーツ指導員をはじめ、さまざまな活動に取り組んできた。その中で自身がアスリート時代に学んだコンディショニングの重要性を、アスリートだけでなく、一般の人たちにも伝えている。

 プロジェクト名は「アスリートの力を山形の力に。アスリートが挑む地域活性」。自身が現役時代に心や体を整えることの大切さを実感。「スポーツの世界だけではなく世の中の日常の暮らしの中にも広げていきたい。周りにいる人たちが、自分の目標にする人たちが思い通りに体を使って整えて人生を生きていてほしい」との願いが活動の原点だ。

 アスリートが世界で戦う姿は、多くの人たちに勇気や希望を届けてきた。ただ、池田氏は「それだけじゃない価値がある」と話す。出産により心や体のバランスが崩れた母親のコンディショニングを整える場を設けて、田植えを通して体を動かすことの魅力を発信しており、地域貢献の形は多様であるとの見解を示した。

 山形という街をアスリートの力を生かして活性化するためにできることは何かを模索する日々。「コンディショニングを良くしようと言っても人は集まらないけど、地域の人間と地域にある財産というものを掛け合わせていくことによって、アプローチできる」との考えで、農業や教育などと組み合わせながら、コンディショニングの普及事業に励んでいる。

 スポーツだけでなく、日常生活もコンディションが上がればパフォーマンスの向上を見込める。「アスリートは体という部分において、確実にアプローチできることはわかった。これから私たちができる社会課題の解決の1つとして、体へのアプローチ、コンディショニングを手助けすることが大きなキーポイントになると思う」と分析した。 

 池田氏が掲げる究極のビジョンは「ハイパフォーマンスからライフパフォーマンスへ」だ。アスリート=指導者のイメージが根強いが「もっと人々の暮らしとか健康とか、生きる目的とか、そういったところにつながるようなことができる」と自身の経験を踏まえた上で「ぜひ一緒にやっていってほしいし、共感してくれた方々にはそれこそ一緒に手をつないで広げていきたい」と誓いを立てた。

HEROs AWARD 2025の表彰式で、言葉に思いを込めて語る白鵬翔氏

 白鵬氏は幕内で通算1093勝を挙げ、45回の優勝を誇る一方で、現役時代の11年から国際相撲大会「白鵬杯」を開催。世界の子供たちに平和の精神と日本文化の魅力を伝える活動に尽力している。「相撲をしている子はこの国の宝。伝統文化で相撲の右に出るものはないと思う。海外から子どもたちが集まって相撲で交流できる、こんなにすばらしいことはない」と声を弾ませた。

 「白鵬杯」からは横綱として躍動する大の里、豊昇龍ら、多くの力士が旅立ってきた。さらに外国人力士も関取として土俵に上がるなど、裾野は着実に広がっている。「この大会を開いて、少しでも成果や成功が見えてきているのはうれしい」と頬を緩めた。

 26年2月7、8日にトヨタアリーナ東京で実施する「第16回白鵬杯」は、少年男子に加え「女子の部」(小学1年~中学生)と「成人の部・男女」(高校生以上)を新設。「国際相撲連盟には87か国が加盟していて、その国から応援、後押しを受けるため。男女平等じゃなければ五輪は見えてこない」と狙いを明かした。

 かねて白鵬氏は相撲の〝五輪競技採用〟を目標にしている。6月に日本相撲協会を退職後は「世界相撲グランドスラム構想」を掲げるなど、多角的に活動。「世界150か国に相撲があることがわかった。こんなに世界に相撲があるとは思わなかった。五輪がゴールではないけど、五輪やテニス、ゴルフの四大大会のようなものを増やしていきたい」と目を光らせた。

 その白鵬氏は「困難な状況にある子どもたちへの継続した支援を通して、平等な活躍機会を提供し、相撲を通して世界中に希望を届ける」ことをミッションに設定。現在は「白鵬ダヤン相撲&スポーツ株式会社」の代表取締役社長を務めており「毎日、ワクワクドキドキしながら仕事に励んでいる」と明るい未来を見据えた。

 ステージが変わっても、池田氏、白鵬氏は現役時代と同じくターゲットに向かって奮闘。夢が現実に変わる日はそう遠くないかもしれない。


中西崇太

著者プロフィール 中西崇太

1996年8月19日生まれ。愛知県出身。2019年に東京スポーツ新聞社へ入社し、同年7月より編集局運動二部に配属。五輪・パラリンピック担当として、夏季、冬季問わず各種目を幅広く担当。2021年東京五輪、2024年パリ五輪など、数々の国内、国際大会を取材。