環境と大会を持続可能にする「ボトルtoボトル」
──東京マラソンでは、サステナビリティに関する取り組みも進化しています。その一つに「「ボトルtoボトル」水平リサイクルがあります。なぜ、この取り組みを始めたのでしょうか。
佐藤 私たちは健康だけでなく、環境、多様性、公平性といったテーマも意識しながら活動しています。その一つが、給水所で使用したペットボトルを回収し、新たなペットボトルへ再生する「ボトルtoボトル」の水平リサイクルです。東京マラソン財団にも趣旨をご理解いただき、2024年から継続して取り組んでいます。ペットボトルリサイクル推進協議会のデータによると、日本のペットボトル回収率は92.5%、ボトルtoボトルの比率は37.7%です。正しく分別・回収すれば、ペットボトルは再び同じ用途に利用できます。東京マラソン財団とは、紙コップの回収についても検討してきました。資源循環を現場で実現するには、使用済み容器を確実に分別し、回収する仕組みが欠かせません。ランナーやボランティアの皆さんの協力があってこそ成り立つ取り組みです。
早野 環境を守るだけでなく、パートナーとして長く協力できる関係を築くことも、サステナビリティの一つです。私たちと大塚製薬さんは、どちらかが一方的に支援する関係ではありません。互いが目指す大会の姿を共有し、一緒につくっている。約20年間、関係を続けられているのも、目指す方向が重なっているからだと思います。
──東京マラソンには、海外からも多くのランナーが参加します。多様性という面では、どのような取り組みをされていますか。
佐藤 私たちは世界20以上の国と地域で事業を展開しています。各国のスタッフやランナーが東京マラソンを機に集まり、国や地域を越えて交流するイベントも実施しています。東京マラソンは、単に競技を行う場ではありません。さまざまな国や地域の人が集まり、同じ体験を共有することで、新しいコミュニティーが生まれる場でもあります。そうした国境を越えたつながりをつくることも、サステナビリティの一つだと考えています。
使用済み紙コップは回収され、トイレットペーパーへと再生されている。ボランティアとともに取り組む資源循環の一例 ©東京マラソン財団「製品」から「補給プログラム」へ
──大塚製薬の製品は、東京マラソンを通じて開発や改良につながった部分もあるのでしょうか。
佐藤 製品については、ランナーが携帯しやすく、摂取しやすい形状にするなどの工夫を重ねてきました。ただ、それ以上に考えてきたのは、「何を、どのタイミングで摂取するのがよいのか」ということです。補給方法や情報提供を含めた仕組み全体を改善してきました。大会当日だけでなく、健康を維持しながら本番を迎えるためのプログラム設計にも力を入れています。東京マラソンに出場する方は、長期間にわたって練習を重ねています。それにもかかわらず、練習のしすぎで体調を崩し、スタートラインに立てなかったり、レース中に具合が悪くなったりすることは避けなければなりません。現場から寄せられた意見も取り入れながら、製品をいつ、どのように活用していただくのかを継続的に見直しています。
──大会当日のサポートにとどまらないということですね。
佐藤 そうですね。東京マラソンの価値は完走だけではありません。「東京マラソンに出たい」という目標を持つことで、日常の行動や健康意識が変わり、大会を最後まで安全に体験して「出場してよかった」と感じる。そのプロセス全体を支えていきたいと思っています。
早野 昔は、苦しさに耐えることが強さだという精神論がありました。しかし、現在は科学的な知見に基づき、水分補給や栄養管理を行うことが当たり前になっています。これは非常に大きな進歩だと思います。ただ、私が今後さらに必要だと考えているのは、スポーツをもっと社会の中心に置くことです。スポーツにはウォーキングなど健康のための自発的な「運動」も含むという考えもあります。世界中の人々の生活の中に、ある意味で「スポーツ」は存在していると言えるかと思います。競技スポーツを縦の方向とするなら、市民スポーツは社会全体へ横に広がっていく文化です。東京マラソンも健康や街づくり、観光、教育、ビジネスなどと、さらに深く結びついていくべきだと考えています。
AIとウェアラブルが変える未来の補給
──2026年のロンドンマラソンでは、記録公認条件を満たす大会で男子初の「2時間切り」が達成されました。未来の補給はどのように変わっていくと予想されますか。
佐藤 今後はウェアラブル端末やAIの進化によって、補給やコンディショニングが、より一人ひとりに最適化されていくのではないでしょうか。走っている最中の身体データをもとに、「次の給水所でどのくらいの水分を取るべきか」「どのタイミングで栄養を補給すべきか」といった助言を、リアルタイムで受けられるようになるかもしれません。また、東京マラソンへの参加によって、健康状態や生活習慣にどのような変化が生まれたのかを可視化できれば、大会の新たな価値になります。単に「何分で走った」「誰が優勝した」という競技の枠にとどまらず、ランニングが健康にどのような効果をもたらしたのかを発信していく。そうした取り組みを財団と一緒に進めることはできないかと考えています。医療データや日常の活動データを組み合わせることで、将来的には疾病の重症化予防や健康寿命の延伸との関係も見えてくるかもしれません。
補給の進化は、マラソンの可能性をどこまで広げるのか ©東京マラソン財団早野 便利で効率的な社会になれば、それだけで人が幸せになるとは限りません。健康には身体的な側面だけでなく、精神的な満足感や充実感も含まれます。スポーツには、トップアスリートが記録を競う側面だけでなく、健康づくり、楽しみ、交流、生きがいといった役割があります。東京マラソンはトップ選手のためだけの大会ではありません。トップアスリートが競い合う競技としての魅力も大切にしながら、走る人、支える人、応援する人が、それぞれの立場で充実感や幸福感を得られる場でありたいと思っています。健康づくりから医療が必要になった場合の支援まで、人の人生を長期的に支えるという視点では、東京マラソン財団と大塚製薬さんが目指す方向は重なっています。未来に向けても、一緒に取り組めることは多いと感じています。これからもよろしくお願いいたします。
一人ひとりの挑戦を支える補給環境を進化させながら、すべてのランナーが安心して参加できる大会づくりに向けて、東京マラソン財団と大塚製薬の取り組みはこれからも続いていく。