スーパーラグビーとサンウルブズの現状

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 国際リーグ・スーパーラグビーの2017年シーズンが2月23日に開幕し、日本から参戦しているサンウルブズは同月25日に開幕戦をホームの東京・秩父宮ラグビー場で行った。2016シーズン最下位だったサンウルブズは、ディフェンディングチャンピオンのハリケーンズと対戦し17-83で敗れている。

 ラグビー代表は、2019年に日本で開催されるラグビー・ワールドカップに向けて強化を進めている。その活動の一環として行われているのが、サンウルブズのスーパーラグビー参戦だ。南半球の強豪クラブチームが参戦しているリーグ戦に、日本代表選手を中心としたサンウルブズが参戦し、世界トップレベルのプレーヤーたちと日常的に対戦できる機会をつくるというのが、その狙いである。

 スーパーラグビー初挑戦となった2016年、サンウルブズは1勝1分け13敗という成績で、18チーム中最下位でシーズンを終えた。2019年のワールドカップに向けて心配になるような成績だが、ラグビー・ジャーナリストの村上晃一氏は、「ワールドカップは勝負をかける大会ですが、スーパーラグビーは日本ラグビー協会として、経験を積む場所と考えているのです。極端に言えば、優勝を狙っているわけではありません。スーパーラグビーレベルを経験する選手を増やすために戦っているので、結果はあまり気にしていないのです」と、重要なのは結果ではないと強調する。

 25日に開幕戦が行われた秩父宮ラグビー場には、17,553人の大観衆が詰めかけた。サンウルブズが最下位だったにもかかわらず、これだけ多くの集客が可能な理由は2つあると村上氏は説明する。

 一つは、サンウルブズというチームの形態だ。「サンウルブズは、日本のラグビーファンの誰しもが応援できるチームです。あらゆるチームの選手が入っているので、ほとんどのチームのファンが応援できます。さらにサンウルブズはプロチームでありながら、日本代表を強化するためのチームでもあるのです」。そして、もう一つの理由は、対戦チームにあるという。「対戦相手は、本当の世界トップレベルです。野球で言えば、メジャーリーグのニューヨーク・ヤンキース、サッカーであればレアル・マドリードやバルセロナが来日しているイメージですね。世界のトップクラス相手に日本代表を目指す選手たちのチームが、どれだけできるかが問われる試合ですから、ラグビーファンとしては、見ておきたい試合なんです」

多くの選手が世界レベルを経験することで日本代表を底上げ

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 なるほど、日本の選抜チームが世界トップレベルのクラブチームと、真剣勝負の公式戦を行うのであればどんな競技であっても注目が集まるのは必然だろう。とはいえ、開幕戦での17-83という大敗は、非常に心配になる結果だ。「スーパーラグビーで80点も入ることは、1シーズンに1回か2回くらいしかありません」と、村上氏も珍しいことだと指摘する。ただし、原因も明確だという。

「最大の理由は、サンウルブズに負傷者が多く、主力選手がほとんど出ていないためです。南半球のチームは、オフを終えて12月から始動して体をつくり始めます。その後、1月下旬からプレシーズンマッチを行い、チームをつくって新シーズンに入ります。しかし、日本は1月まで国内のシーズンを戦っています。そのため、体はボロボロです。本来は、そこから2、3カ月休まないといけないのですが、3週間後にはスーパーラグビーが開幕します。そのため負傷を抱えている選手が多いんです」

 シーズンを終えたばかりのチームが、しっかりと準備を積んできた世界トップレベルの相手と対戦すれば、大差がつくのは当然だろう。「ですから、あまりスコアは気にしません。この時期に、この準備期間で、この相手にどれだけできたか。そして、2019年に向けて現時点でどれだけできているのか。修正するところを見つけたり、このレベルで通用する選手を発掘したりすることが重要なのです」

 つまり、現時点でサンウルブズが行っているのは、ラグビー日本代表を目指す選手たちのボトムアップだ。実際、ハリケーンズとの開幕戦には、田中史朗、立川理道、松島幸太朗、小野晃征、山田章仁、稲垣啓太ら、2019年のワールドカップ出場が確実と言われている選手たちはプレーしていない。その代わりに12名の選手たちが、スーパーラグビーの舞台にデビューした。

「これはすごく大きなことです。スーパーラグビーの舞台で体をぶつけ合うことで、このレベルを体感できます。トップリーグではタックルして倒れる相手が、ここでは倒れない。そこで『なんでだ?』となり、より強い相手を倒すためには、どうすればいいかを考え始めます。すべてにおいて、そうしたことが起こるのです」

 世界トップレベルの相手と対戦し、一つ一つのプレーに対して選手たちの求めるレベルが高くなる。そうした高い意識を持った選手が増えれば、国内リーグでの競技レベルは高まり、代表入りの競争も激化するだろう。村上氏によると2017シーズンは選手のセレクションを行い、2018シーズンは選手をある程度固定して、日本代表に選出される可能性が高い選手たちでスーパーラグビーに臨み、翌年のワールドカップに向けて、チームとしての強化も進めていくという。

勝敗は二の次とは言えど大敗は避けろ

 日本ラグビー界にとっては、まさにいいことづくしのサンウルブズのスーパーラグビー参戦。それでも、大敗を続けないことが大事だと村上氏は警告する。「スーパーラグビーに参戦しているのは、世界トップ4の代表選手がズラリといるチームばかりです。対して日本の世界ランキングは現在11位。すぐに勝つのは不可能なので、2019年にそうしたチームに勝つための準備をしているわけです。ただし、あまりに大敗が続けば、お客さんが入らなくなってしまいますし、あまりに弱ければ運営側からも問題視されるでしょう。プロのチームとして、ある程度の成績を残さなければいけません」

 選手が負傷しないようにローテーションを組みつつ、多くの選手に世界トップレベルの試合経験を積ませ、日本代表の戦術に落とし込む。そのうえで、観客を満足させるレベルのラグビーを見せる。サンウルブズに求められていることは、非常に多いのだ。最後にサンウルブズ、そしてスーパーラグビーに期待することを村上氏に聞いた。

「サンウルブズは、日本代表への期待感が膨らむようなチームであってほしいですね。日本代表がやろうとしている戦術が相手に通じて、『この選手も日本代表で使えそうだな』と思える選手がたくさん出てくることが、一番大切かなと思います」

「また、スーパーラグビーは、プロの興行なので、お客さんには普通に楽しんでもらいたいですね。ワールドカップや代表戦は、国の威信が懸かった勝たなければならない試合です。でも、スーパーラグビーは興行でもあるので、派手に魅せるプレーも多く見られます。選手たちにとっては、より自分の個性を出して代表入りをアピールする場でもあるので、チャレンジングなプレーが多く、初めて見る人も楽しみやすいと思います」

 日本代表だけではなく、スーパーラグビー、サンウルブズにも注目しておけば、2019年に日本で開催されるラグビー・ワールドカップを、より楽しむことができるだろう。

【スーパーラグビー】ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ共和国、アルゼンチン、日本の5カ国、計18のクラブチームで行われている国際リーグ戦。2011年から2015年までは15チームで行われていたが、2016年からは18チームでの開催になった。この年からワールドカップ2019日本大会に向けて選手の強化を行いたい日本からも、日本代表や日本代表候補の選手で編成するサンウルブズが参戦している。


VictorySportsNews編集部