後編はこちら

Bクラスに終わった2015年は、朝から晩まで振り続けた

©️Baseball Crix

「限界突破あぁぁ!」

 やや日が傾いた、宮崎県日南市・天福球場に叫び声が響く。コーチがトスしたボールを、鈴木誠也ら数人の選手が、外野に向けて力強い打球を飛ばし続けていた。反発を使わず、ほぼ自らの力だけでボールを遠くに運ばなければいけないロングティーが延々と続く。鍛え上げられた肉体を持つ鈴木であっても、息をはずませ、見るからに苦しそうな表情を浮かべている。2017年の春季キャンプでの光景である。

――最後のロングティーは、どの選手もつらそうに見えました。「これぞカープ!」という
猛練習ですね。

小松 振り込んでますよね。でも、シーズンを目前に控えている春季キャンプは、そこまで厳しい練習は多くないんです。やはり、怪我も怖いですからね。厳しさでいうとやっぱり秋季キャンプだと思います。シーズンが終わって、オフに向かうタイミングに、そのシーズン中に残した課題の消化を目指して、ものすごい数を振るんですよ。一昨年、2015年の秋なんかは本当にすごかった。さすがに春はそこまで追い込まない。

――2015年といえば、メジャーリーグから黒田博樹投手が復帰するなどして戦力が整い、大きな期待を集めるもBクラスに終わったシーズンですね。そのあとに“地獄”があったと……。

小松 あのときは、朝から晩までずっとバット振っていたという印象があります。打撃コーチも最後までついて徹底的にやっていました。結果的には、それが昨年「ビッグレッドマシンガン打線」という名称を付けていただけるものに繋がったというわけです。当たり前ですが、やっぱり必死に練習することって大事なんだなと思いましたよね。

目的を意識した打撃練習は試合で生きる

©️Baseball Crix

――過去の OBの方などから話を聞く機会などもあると思いますが、やはり猛練習というのはカープの伝統なのでしょうか?

小松 そういうスイングの数を意識した猛練習は、カープにとっての伝統としてあったと思います。でもそれだけではなくて、2012年から内野守備・走塁コーチを務めてきた石井琢朗が昨年、打撃コーチに就任してからは、質の部分も求めるようにもなったんですよね。量と質の両立と言うべきでしょうか。「この練習は、このためにやるんだ」というようなところを、選手がしっかり意識するようになった。すべてにおいて目的意識を持って、なおかつ量をやるという感じの練習に進化してきています。

――量か、質か、の二者択一ではなく、両方を重視している。

小松 目的意識を持つことの効果っていうのは、試合を見ていてもわかりました。「こういう投手に対して、こういう打撃をする」という設定を設けたゲージをつくって練習したりするのですが、それを徹底的にやった結果、そのシチュエーションが訪れたときにはしっかり対応できるようになっていった。その全部が試合にきちんと出ていたと思います。

――そういう練習をやり遂げているという点で、目立っている選手はいますか?

小松 やはり鈴木誠也でしょうか。彼の練習量はすごいと思います。今日もバッティングに関する練習だけで3回入っています。9時から打撃練習を1時間。守備と走塁の練習、昼食を挟んで13時からバッティングローテ。これは野手を数名のグループに分けて、ロングティー、打撃練習、バント、連続ティー、ティーといった練習を順番に回すものです。それが終わった後も「重点練習」として追加でロングティーなどをやっていました。

――かなりのスイング数になりそうですね。

小松 打ち込み、振り込みはよくやっていると思います。それ以外にも、夜は夜でウェイトトレーニングをやっていますしね。シーズン中も、試合の前や後にもバットを振るのが日常でした。それこそ、日本シリーズで試合に負けたあとにも練習していましたからね。

――ただ、春の場合は、ここまで振り込むことに時間を割けるのは、一次キャンプ序盤に限られてくるのでしょうか?

小松 そうですね。シーズンに向かって基礎体力をつけつつ、サインプレーなどの確認を序盤から中盤にかけてやって、そこからはシート打撃だとか、紅白戦などに入ってきます。それが約20日間の一次キャンプ。そのあとの沖縄での二次キャンプでは、ほぼ毎日練習試合やオープン戦が入ってきますから。

©️Baseball Crix

カープ伝統の“猛練習”に、才能ある若手が誰よりも積極的に挑み、チームの軸となる働きを見せる――。昨季の25年ぶりの優勝は単なる優勝ではなく、チームとしてのひとつの理想を実現したうえでの優勝だったということなのかもしれない。愚直に貫くことが難しくなってしまった「練習は嘘をつかない」という言葉。それを信じ抜ける伝統が、カープにとって大きな強みとなっているのは間違いなさそうだ。後編では投手について聞いていく。

後編に続く

後編はこちら

広島・田中広輔、向上のカギは「仙腸関節」にあった。身体の専門家が観るトッププレーヤー(1)

VICTORY編集部です。これからシリーズとして、トッププレイヤーの動きをフィジカルの観点から分析する記事を出させていただきます。初回となる今回は、広島カープの田中広輔内野手です。2013年に東海大学からドラフト3位で広島カープ入りした田中選手は、2014年に早々に一軍のスタメンを確保。2016、2017の連覇にも大きく貢献した選手です。そんな田中選手のプレーは、身体の専門家からはどのような変化として映るのか? JARTA(日本アスリートリハビリテーショントレーナー協会)代表の中野崇さんに分析いただきました。

VICTORY ALL SPORTS NEWS
広島ドラ2ルーキー・高橋昂也(花咲徳栄高)が乗り越えた、原因不明の不調とは?広島カープは、“市民球団”ではない。勝敗と商売をめぐる駆け引き

広島は、なぜ清宮争奪戦から撤退したのか? 再び脚光浴びるドラフト戦略3カ条

「(セで二度目の連覇は巨人についで)2球団目になるのかな。巨人の数と随分差はあるけど、勲章になる」。リーグ連覇を決めたその日、広島カープの松田元オーナーが語った言葉だ。確かに数的な差はある。しかし広島の場合、外国人以外はほぼ自前の選手で達成した連覇であるという部分に、巨人とはまた違う価値を見いだすことができる。そしてそれを成し遂げた大きな要因として挙げられるのが、伝統の「スカウティング力」であり、「ドラフト戦略」だ。13年続いた逆指名(自由獲得枠・希望枠含む)制度が廃止されて10年。今再び脚光を浴びる、“広島オリジナル”のスカウティング力とドラフト戦略に迫る。(文=小林雄二)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

誰もがマツダスタジアムに魅了される理由。設計に隠された驚きの7原則

2009年にオープンした広島東洋カープの新本拠地、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)。訪れた者なら誰もが魅了されるこの異空間は、日本のこれまでのスタジアムの概念を覆すようなアプローチによってつくられた。「スタジアム・アリーナを核としたまちづくり」が経済産業省を中心に進められるなど、今やスポーツの域を超えて大きな注目を浴びているスタジアム・アリーナ建設。今回、マツダスタジアムの設計に関わった株式会社スポーツファシリティ研究所代表取締役の上林功氏が、同スタジアムに隠された知られざる特徴と、未来のスタジアム・アリーナ建設のヒントを明かした――。(取材・文=野口学)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

BBCrix編集部