文=松原孝臣

施設の約97%は完成するも“兆し”は見えず

 会場建設の遅れやさまざまな政治的、経済的な要因が絡んだ問題などで、平昌(ピョンチャン)五輪は、これまで先行きが危ぶまれていた。一時は、一部競技の開催を移す計画が浮上するなどもする状態だったが、1月現在で施設の約97%が完成し、今冬、各競技のテスト大会を実施するに至った。

 まずは、来年に予定通り開催するめどが立ってきたと言えるが、実際のところ、開幕を1年前にした状況はどうなっているのか。

 ハード面で言えば、いちばん懸念されるのは、宿泊施設の少なさだろう。テスト大会の取材で訪れたとき、車中から、あるいは歩いてみて実感するのは、大型のホテルは少なく、3、4階建てのこじんまりとした宿泊施設ばかりであることだ。建設計画もあるが、着工できていないところもあるという。現地メディアの報道でも課題とされており、想定している観光客数からすると、大幅に部屋数が不足していると見られている。

 ハード面以外はどうか。テスト大会ではあったが、セキュリティチェックなどはほぼないに等しい状態で、本大会では空港で使用するような機器を使っての荷物検査をはじめとするチェックが必要であることを考えると、そうした面でのテストとはならなかったのは、準備の遅れと言える。

 オリンピック開催を1年後に控えているという雰囲気も薄い。フィギュアスケートやスピードスケートなどの会場がある江陵(カンルン)オリンピックパークから車で10分ほどのところに、観光エリアとして有数のビーチがある。だが、オリンピックのロゴをかたどったモニュメントがあるくらい。立ち並ぶ商店のエリアにもオリンピックの兆しは見えない。

 アクセス面では、ソウルとつなぐ高速鉄道が大会の前に開通するという。今は仁川(インチョン)国際空港からバスで3時間半ほどかかるが、鉄道が通れば空港から平昌まで1時間半、江陵までは2時間以内で結ばれる予定だ。

 フィギュアスケートの会場などがあるオリンピックパークと、雪上競技が行なわれる地区とは、1時間かからない程度で行き来が可能であるというのは、最近のオリンピックにはない利点となる。

課題はまだあるが、それは過去の大会も同じ

©Getty Images

 こうして見ると、大会までに解決すべき課題はまだある。開幕後も問題は生じるかもしれない。

 ただ、それは過去の大会でも同様だ。バンクーバー五輪では、開幕当初、市内から雪上競技の会場へと向かうバス乗り場で、事前の通達に従って並んだにもかかわらず、なんの説明もなく1時間以上待たされる客が続出するなど問題が起きた。結果、試合開始に間に合わない人もいた。

 ソチ五輪は開幕を前に治安問題が取り沙汰されたほか、あまりにも多い野犬の問題なども浮上した。期間中も、例えば高額の料金を吹っかけるタクシーの運転手など、隙を見せないように神経を使わされるケースが少なくなかった。

 平昌のテスト大会では、「なんでこんなに日本語ができる人がいないのか」と口にするメディアの人もいたが、その点は過去の大会とかわりはない。だいたい、どの大会でも日本語ができるスタッフは少ないし、街中ではなおさらそうだ。ソチでは英語もまったく通じない場合が多かった。その不満は同じアジアだからという「誤解」によるのではないか。

 テスト大会では、タクシーやショップを利用しても公正な料金の請求しかなかったし、日本語も英語も通じなくても、困っていたら何とかしたいとする親切な人が多かったのも印象的だ。

 韓国内でも開催に不安を抱く人は少なくないが、少なくとも、残る課題を解決し、開幕へと進もうとしている。


松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。