文=池田敏明

ルヴァンカップで新たに用いられたルール

 2017シーズンのJリーグYBCルヴァンカップ(以下・ルヴァンカップ)では、グループステージ、プレーオフステージ、決勝を除くノックアウトステージの全試合において、21歳以下の選手を1名以上、先発出場させるという規則が追加された。「21歳以下」とは、今年12月31日の時点で21歳以下、つまり1996年1月1日以降に生まれた選手を指す。

 ルヴァンカップ(16シーズンのグループステージまではJリーグヤマザキナビスコカップ)はリーグ戦と並行して行われ、概ね平日開催だったことも影響して、多くのクラブがリーグ戦での出場機会が少ない選手をプレーさせている。普段、試合に絡むことが少ない若手にとっては絶好のアピールの場であり、96年には準決勝までの試合で活躍した23歳以下の選手に与えられる「ニューヒーロー賞」が創設された。かつては名波浩(96年、現ジュビロ磐田監督)や高原直泰(98年、現沖縄SV)や長谷部誠(02年、現フランクフルト)が、最近では原口元気(11年、現ヘルタ・ベルリン)や宇佐美貴史(14年、現アウクスブルク)が受賞するなど、この賞をきっかけにブレイクスルーを果たし、日本代表へと羽ばたいた選手も多い。

 そんな“若手の登竜門”的な意味合いも備える大会だからこそ採用された新ルール。注目の第1節では、柏レイソルが先発に5人、控えに2人、21歳以下の選手が名を連ねる布陣で挑み、その中の1人である手塚康平がゴールを奪って清水エスパルスに勝利した。

2020年東京五輪を見据えた若手強化策として21歳以下の選手を1人以上先発させるルールが導入され、第1節では柏が最多となる5人を起用し、勝利した。全員がユース出身。開始3分にはMF手塚がペナルティーエリア外から、左足ボレーシュートで先制点を決めた。
柏“U21”最多5人で勝った! 20歳・手塚プロ初弾/ルヴァン杯

欧州各国の若手育成策

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 イングランドのプレミアリーグは、多くのクラブがリザーブチームを抱えており、以前はリザーブリーグが行われていた。U-21やU-19といったアカデミーのリーグ戦も存在したが、16-17シーズンからは23歳以下の選手が出場できる「プレミアリーグ2」がスタート。ディビジョン1とディビジョン2に分かれ、1にはマンチェスター・ユナイテッドやマンチェスター・シティ、アーセナル、チェルシーといったビッグクラブのU-23チームが参加している。ちなみに、昨夏、史上最高額の移籍金でユヴェントスからマンチェスター・Uに移籍したポール・ポグバは、元々マンチェスター・Uのアカデミー出身であり、ユース年代のカップ戦で優勝した経験も持つ。

 イタリアのクラブは主に17~18歳の選手が所属する「プリマヴェーラ」がトップチーム直下のカテゴリーとなる。そのプリマヴェーラ年代のリーグ戦である「カンペオナート・ナツィオナーレ・プリマヴェーラ」は、基本的にはシーズン開幕時に15歳から19歳までの選手が出場でき、人数制限はあるが、トップチームの選手がリハビリなどのために参加することもできる。

 スペインやポルトガル、ドイツ、フランスは、リザーブチームが2部以下のリーグに参加することができる。スペインとポルトガルは2部、ドイツは3部、フランスは4部が上限であり、トップチームと同じカテゴリーには参加できないという制限はあるが、例えばレアル・マドリーのリザーブチームであるレアル・マドリー・カスティージャは主に18歳から23歳の選手で構成され、今シーズンは3部リーグに所属している。レアル・ソシエダやアスレティック・ビルバオのリザーブチームも同じカテゴリーだが、それ以外の構成クラブはすべてトップチーム。大人たちと真剣勝負を演じながら、トップ昇格を目指してしのぎを削っている。

独自ルールで成果を挙げているメキシコ

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 若手育成のために様々な取り組みを行っているのがメキシコだ。05-06シーズンには「20/11ルール」が取り入れられた。メキシコ1部リーグは18チームで争われ、前・後期に分かれているが、各チームシーズンに戦う17試合、合計1530分間のうち、年齢が20歳11カ月未満の選手を述べ1000分間、出場させなければならない、というのがこのルールの大まかな特徴だ。達成できなければ勝ち点3を失うため、積極的に若手を起用せざるを得ない状況になる。06年、わずか18歳の時にチーバスでデビューしたハビエル・エルナンデス(現レヴァークーゼン)などは、まさにこのルールの恩恵を受けて出場機会を増やし、大きく成長していった選手だ。

 また、16-17シーズの後期リーグからは「10/8ルール」という新たな制度が導入された。これは試合でメンバー入りする先発11人、控え7人の合計18人の中に、18歳以下の段階でメキシコサッカー連盟に登録した選手を最低8人、加えなければならないというもの。現段階では「先発11人のうち10人を外国籍選手にしてもいいということか」と逆解釈されて批判も噴出しているが、今年3月にはクラブ・アメリカでディエゴ・ライネスという16歳の選手がデビューを飾るなど、これまで築いてきた若手を積極登用する風潮が失われていないことも証明されている。今後は育成年代の中から条件を満たした有能な選手を探し、育ててトップチームに送り込む傾向がさらに強まるのではなないだろうか。

 ルヴァンカップでの21歳以下枠の採用は今シーズン始まったばかり。今後は人数の増加など、様々なアップデートがなされていく可能性もある。強豪国も若手育成のためにあらゆる工夫をしているが、その中に日本の若者を育成するヒントはあるだろうか。


池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。