文=藤江直人

こてんぱんにやられた2年前

©共同通信

 2017シーズンのJ1リーグのカレンダーを見ていくと、集客が見込める夏場の7月にぽっかりと空白期間が生じている。第18節を9日に終えると、第19節の開催は実に29日まで待たなければいけない。

 約3週間に及ぶ中断期間、正確には15日から23日までは「サマーブレイク」と銘打たれている。もっとも言葉どおり「休養」に充てるのではなく、各クラブが国際経験値を上げるために海外の強豪クラブを招聘して強化試合を組む、あるいは海外への遠征が奨励されている。

 そして、Jリーグとしても同期間中に、日本サッカー協会とともに「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ2017」を主催。昨シーズンのJ1王者・鹿島アントラーズとYBCルヴァンカップ覇者・浦和レッズが、それぞれのホームに強豪クラブを迎えるマッチメークを進めてきた。

 4月27日に東京・文京区のJFAハウスで開催された2017年度第4回理事会をへて、ボルシア・ドルトムント(ドイツ)とセビージャFC(スペイン)が招聘されることが正式に決まった。キックオフ時間やテレビ放映、チケット購入方法などは順次発表されるが、前者は7月15日に浦和と埼玉スタジアム2002で、後者は7月22日に鹿島と県立カシマサッカースタジアムでそれぞれ対戦する。

 日本代表MF香川真司が所属するドルトムントについては、もはや説明は不要だろう。残り4試合となったブンデスリーガで3位につけ、現地時間26日に行われたドイツカップ準決勝では連覇を狙うバイエルン・ミュンヘンを3−2で撃破。5シーズンぶりの優勝に王手をかけた。

 15年7月にも来日していて、この時は川崎フロンターレに6−0で圧勝している。国際親善試合にありがちな“花試合”の雰囲気は皆無。真剣勝負を貫いてくれた90分間を、Jリーグの村井満チェアマンはいまでも感謝している。

「まさにこてんぱんにやられた敗戦が契機となり、世界レベルの技術を経験してから、フロンターレ自身がかなり変わったと私としては認識しています」

名前と実力をアピールする好機

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 一方のセビージャに関しては、もしかすると「清武弘嗣が今年1月まで所属していたクラブ」という認識で、ファンやサポーターの間ではとどまるかもしれない。45−46シーズンにリーガ・エスパニョーラ1部で優勝している古豪は、実際、20世紀後半になると、2部との行き来を繰り返してきた。

 しかし、21世紀に入るとクラブの財政基盤が立て直され、01−02シーズンからは1部に定着。辣腕として知られるモンチ・スポーツディレクターのもとで、着実に強豪クラブへの道を歩んできた。

 UEFAチャンピオンズリーグよりひとつ格が下がるものの、それでも各国の上位クラブが集まるUEFAヨーロッパリーグを3連覇した13−14シーズンからの3年間は、1890年から続く歴史のなかでもひと際まばゆい輝きを放ったと言っていい。

 チリ代表を強豪へ育て上げたホルヘ・サンパオリ監督を招聘した今シーズンは、残り4試合となったリーグ戦でアトレチコ・マドリーと勝ち点68で並ぶ3位に浮上。1月にはスペインのチームでは歴代最長となる40戦連続無敗を続けていたレアル・マドリーに逆転勝利を収めて注目を集めた。

 UEFAチャンピオンズリーグでもベスト16進出を果たしたなかで、セビージャ側も次なる展開を描きはじめている。たとえば日本を含めたアジア市場に進出するにしても、今回の交渉に当たったJリーグ関係者によれば、セビージャ側は「クラブの知名度がいまひとつ低い点を気にかけていた」という。

 だからこそ、天皇杯を含めた昨シーズンの国内二冠を達成し、年末のFIFAクラブワールドカップ決勝でレアル・マドリーと延長戦にもつれ込む熱戦を演じた鹿島と対峙する7月22日は、セビージャというクラブの名前と実力を日本へ知らしめる絶好の機会となる。

C大阪との国際親善試合の開催も!?

 出場機会に恵まれず、古巣セレッソ大阪への復帰を決断した清武も、母国の代表歴をもつMFガンソ(ブラジル)やMFサミル・ナスリ(フランス)ら、レベルの高い選手たちと繰り広げる日々の練習には「マジで半端なかった」と目を輝かせていたほどだ。

 他国へも遠征するスケジュールもあって、現時点でドルトムントは浦和戦の直前の来日となることが濃厚だ。翻ってセビージャはC大阪との国際親善試合開催を含めて、新シーズンへ向けたキャンプの一環として日本滞在をとらえている。

 おそらくセビージャFCは、時差ボケなどもないベストの状態で鹿島に挑んでくる。ヨーロッパの舞台で見せる、巧さと激しさがハイレベルで融合された戦いを村井チェアマンも笑顔で歓迎する。

「ヨーロッパ5大リーグで現在もトップレベルにあるクラブをグルーピングして、主力選手の来日を含めて本気で戦ってくれるというコミットメント、そして先方のスケジュールのなかでマッチメーク作業をしてきました。名称は『チャレンジ』としましたが、キーワードは『勝ちにいく』こと。クラブ・ワールドカップでレアル・マドリーと非常にいい試合をした鹿島の選手たちが、まず口にしたのが『悔しい』という言葉でした。本気で勝ちにいく試合を経験した選手にしかわからない、世界との距離感というものがあると私は思っています。そのときと同じスタンスで、このワールドチャレンジも考えています」

 レアル・マドリーやバルセロナ、バイエルン、ユベントスといった各国リーグの上位チームのなかから最終的に合意に達したのが、ドルトムントとセビージャとなる。チームが置かれた状況などを考えれば、特に後者はクラブの未来をかけたモチベーションでビッグクラブ勢をはるかにしのぐ。

 来日や滞在などに関わる費用は、1チームにつき数億円とされる。全額をJリーグが負担するなかで、前出の関係者は「リーグとしてもクラブの成長へ投資するということ」と説明する。その意味でも理想的な相手と巡り会えたと言っていいのではないだろうか。


藤江直人

1964年生まれ。サンケイスポーツの記者として、日本リーグ時代からサッカーを取材。1993年10月28日の「ドーハの悲劇」を、現地で目の当たりにする。角川書店との共同編集『SPORTS Yeah!』を経て2007年に独立。フリーランスのノンフィクションライターとして、サッカーを中心に幅広くスポーツを追う。