すべて「球団任せ」のNPB

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 2016年、夏。プロ野球のオールスターゲームは福岡と横浜を舞台に2試合が開催された。

 視聴率はそれぞれ10.7%と11.0%(関東地区)。これを高いと見るか、低いと見るかは意見が分かれるところだが、10年前、2006年の視聴率(約12%)を基準とすると微減にとどまっており、オールスターは依然として一定の需要があるコンテンツだということができる。

 オールスターは「主催」がプロ野球12球団、「開催運営」が一般社団法人日本野球機構(NPB)という建てつけになっているが、チケットや放映権などの収益はNPBの懐に入る。

 NPBの財政は、決して余裕があるとはいえない状況だ。1964年に創設された、選手らを対象とした年金制度が資金難を理由に解散されることが決まったのは、2011年3月のこと。2010年には12球団が拠出する年会費が7000万円から1億円に引き上げられた。それでも赤字決算が続いているとされる。

 だからこそ、実際の興行によって収益を獲得できるオールスターは数少ないビジネスチャンスだ。同じくNPBが興行収益を得る試合としては日本シリーズもあるが、そちらはまさに日本一を決める真剣勝負。お祭りの要素を多く含むオールスターは、工夫次第で稼ぎを大きくできるという点でも稀有な機会なのだ。

 しかし、一般企業であれば当たり前に考える収益最大化のための経営努力がなされているようには見えない。それは、収益を手にするのはNPBでありながら、あくまで主催は球団となっている点にも表れているように感じる。要は、NPB自身が前面に出て、集客や盛り上がりをつくる努力をするわけではなく、興行に関する実務は「主催」の球団任せ。「開催運営」を担当するNPBは、滞りなく試合が終わり、その結果としていくばくかのお金が得られればいい――そんなふうに考えているのではないかと思えてしまう。

 微減にとどまっている視聴率とは裏腹に、オールスターの放映権料は下落が著しい。過去の報道によれば、2008年までは1試合あたり1億2000万円ほどで推移していたが、2009年には8000万円台に、2010年には4000万円台へと激減したという。

 近年の球宴にどれほどの放映権料がついたかは不明だ。ただ、野球人気に復活の兆しがあるとはいえ、一度は4000万円台にまで落ち込んでしまった放映権料が、1億円超の値がついていた2008年の水準に戻っているとは考えにくい。テレビのメディアとしての存在感の低下、すなわち放映権料の下落は時代の流れという見方もでき、致し方ない面はある。

 だが、既存の手法が通用しなくなれば、新たな収益獲得の源を探り当てるのがビジネスの常道だ。テレビが落ちたのなら、それに代わる新たな収益源となる可能性を秘めているのがインターネットだろう。テレビ(電波)ではなく、スマホやタブレットやPC(通信)でスポーツ観戦を楽しむという習慣は、日本ではまだまだ文化として根づいてはいないが、一定の需要が生まれつつあるのはたしかだ。

 ソフトバンクの「スポナビライブ」や、Jリーグと10年2100億円の巨額放映権契約を締結した英パフォーム社の「DAZN(ダ・ゾーン)」の登場が象徴的だ。どちらもテレビ画面で視聴することは可能だが、電波を介した「放送」ではなく、インターネット回線を使った「通信」によるサービス。こうしたネット配信は、テレビとは別に放映権料が設定されるのが一般的になっている。

あまりにも乏しいビジネス感覚

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 テレビ放映権がシュリンクするならば、ネット放映権を次のビジネスに育てようという発想は当然あっていい。もちろん、すぐにはビッグマネーには結びつかなくとも、ネット放映権の価値が世界的に高騰していることなどをアピールしつつ、少しでも高い値で売る努力はなされるべきだろう。

 しかし、関係者の話によると、2016年のオールスターのネット放映権は100万円程度という、耳を疑うような安値で販売されたという。

 オールスターをネット配信したのは「AbemaTV」。テレビ中継を行なったテレビ朝日が40%出資する会社であり、そうした関係性から、ネット放映権はテレビ放映権のおまけのような感覚で扱われたのではないかと想像する。それにしても、「100万円」が事実なら、あまりにもビジネス感覚の乏しいプライシングではないだろうか。

 NPBの熊崎勝彦コミッショナー(写真)は、2016年の仕事納めに際し、同年の観客動員数(12球団合計)が過去最高の約2500万人となったことを受けて、こうコメントしたという。

「試合を基軸にしつつ、ファンが野球場で一日を楽しめる総合的なパーク化が急速に進んでいるのでは」「日本シリーズも盛り上がり、野球ファンだけでなく国民的に注目を浴びた。大変うれしい」(毎日新聞より)

 喜ばしいのはたしかだが、ボールパーク化の推進と人気再燃の兆しは各球団の努力によるところが大きい。我がことのように胸を張る前に、NPBがそのために何をやったのかについても、明確に説明してほしかった。


VictorySportsNews編集部