文=中西美雁

9割が女性の男子バレーファン、彼女たちのお目当ては?

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 バレーボールファンは、何を見に会場に足を運んでいるのか? このテーマをいただいたときは、少し複雑な思いになった。それは、「バレーファンは、ほかの競技ファンとは違うものを求めている」という前提があっただろうからだ。筆者はバレーボールを子供の頃から見てきている。ライターになるずっと以前からだ。そして、ほかの競技は、サッカーのスタジアムに数年に一度足を運ぶくらいしか観戦しない。だから、他競技と比較するのは非常に感覚的なものになってしまうが、あえて言い切るなら、バレーファンは選手個人に惹かれて観戦している人が多い、のかもしれない。

 少し前にバレーファンのツイッター上で「推し」「箱推し」「DD」といった言葉が飛び交い、はて、一体どういう意味なんだろうと思って、交流のある一人に聞いてみた。すると、これらはアイドル用語で、「推し」は、自分が好きな特定の選手を応援すること、「箱推し」は、チーム全体を応援すること、「DD」は「誰でも大好き」をやや自虐的にいうこと…と教えてもらった。「DDD」もある…と冗談交じりに言うには、「男子バレーなら・誰でも・大好き」または「大学生なら・誰でも・大好き」「道民なら・誰でも・大好き」などなど。

 バレーファン、特に男子バレーファンはほぼ9割が女性なので、そういう点でほかの競技のファンとは違うかもしれない(フィギュアとちょっと似ているのかも)。

「どうせ女性ファンは、顔しか見てないんだろう!」的なことを、よく言われるが、筆者は少し違う感触を持っている。NEXT4の記事でも言及したけれども、メグ・カナブームのあと、JVAやバレーを取り巻くメディアは常に「推したい選手」をプッシュしてきた。それは、男子選手であれば、大体「イケメン」といわれるような選手だ。しかし、彼らは石川祐希や柳田将洋のようにブレイクはしなかった。かろうじて北京五輪出場を果たした越川優とゴッツこと石島雄介がブレイクしたくらい。「勝ち」が伴わない選手がいかにイケメンであろうと、ブレイクにはつながらない。そのあたりは男性が女子アスリートを応援する場合より、女性ファン→男子アスリートの方がシビアなのではないかと思うのだ。内田篤人選手は確かにイケメンです。しかし、彼がしょっぱいプレーしかできない選手だったら、あれほどの人気にはならなかったと思う。逆に香川真司選手とか、「イケメン……かな?」という選手でも、プレーがよければ人気は絶大になるわけで。

あらためて得がたい存在であった木村沙織

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 男性から見た女子アスリートの例を具体的に挙げると荒れそうなのだが、たとえて言うなら、カレンダー売上げがアイドル並みの人気を誇った元ビーチの妖精さんは、国内でさえ優勝経験がなかった。スポーツ紙などから電話がかかってきて、彼女の五輪出場の可能性について聞かれて困ったことが何度かある。そういう意味では、ルックスも可愛くて、実力も飛び抜けていた木村沙織は、本当に得がたい存在だったのだなあと思う。男性にも女性にも、お子さんから高齢の方まで広く人気のある選手だった。

 今話題の中垣内祐一新全日本男子監督も、現役の頃は今の石川祐希以上に人気を博した選手だった。彼は、そのプレーで人々を魅了した。あの、空を飛ぶような高いジャンプからのアタックと、どんな追い込まれたときにも闘志を失わない姿に、魅せられた人が大勢いたのだ。昔、組んだ男性のカメラマンが「俺はさあ、バレー選手なんてちゃらちゃらしていて嫌いなんだけど、中垣内だけは認める」と言っていたこともある。

男子バレーファンの間でも、選手のルックスをメインに好きになるファンのことをやや下に見て「顔ファン」と呼んだりする。個人的には「顔ファン」であろうとチームのファンであろうと、プレーのファンであろうと、他人に迷惑をかけさえしなければ、ファンの間に優劣はないと思うのだが、バレーにもいる「戦術オタク」的なファンはそういうファンのことを毛嫌い、または馬鹿にする。

 ファンの中にヒエラルキーを作るのもばかばかしいことだし、「真のバレーファンとは」「正しいバレーファンとは」みたいな言説もうんざりだ。チームを応援せずに個人を応援することを非難する人もいるが、チームだって無くなることもある。そういう人は、そうなったらバレーファンをやめるべきだと言うのだろうか。サッカーでも野球でも「セレ女」とか「カープ女子」とか、女性ファンは歓迎(マーケティング上からくるとしても)されているのに、なぜバレーはこうなのかなあ……と常日頃思っているわけである。バレーなんてマイナーメジャーなスポーツなわけだし、その辺の女性を全部バレーファンに引き込んでやる! くらいのつもりでいてもいいのではないだろうか。

今さら聞けない? 男子バレー人気を復活させた「NEXT4」とは何か

男子バレーボールは、人気面で低迷していた時期があった。そんなとき、人々の目を再び男子バレーに向かせるきっかけとなったのが「NEXT4」と呼ばれるカルテットの登場だ。バレーファンの間では、常識となっている彼らは、どんな存在だったのか?

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中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』